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勉強とは思考力を養うための手段。東大生の親が実践するコミュニケーション法とは

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勉強とは思考力を養うための手段。東大生の親が実践するコミュニケーション法とは

偏差値35から二浪して東京大学文科II類に合格した西岡壱誠さん。今回は二浪を経て東大に合格するまでの西岡さんの勉強法、そして、VUCAと呼ばれる時代に生きる子どもたちに、身につけてほしい力について伺いました。

偏差値35から二浪して東京大学文科II類に合格した西岡壱誠さん。今回は二浪を経て東大に合格するまでの西岡さんの勉強法、そして、VUCAと呼ばれる時代に生きる子どもたちに、身につけてほしい力について伺いました。

東大生のノートには「問い」と「答え」がある

――当時、西岡さんの偏差値は35ということでしたが、そこからなぜ東京大学を目指すことになったのでしょうか?

もっとも大きいきっかけは高校2年生のときに先生に言われた「何かひとつでいいから、誇れるものが欲しくないか?」「東大に行け」という言葉です。

僕はそれまでずっと「できない子」として扱われてきたのですが、その言葉をきっかけに、二浪して東大に合格しました。

――東大を目指すにあたって、具体的にどのような勉強を行いましたか?

東大の入試では思考力を求められる問題が多く出題されます。そのため、たくさん暗記をして知識を増やしたとしても、その知識の使い方がないと答えが導き出せないのです。

例えば、東大の世界史では一問一答がでます。答えだけ見るととても簡単なのですが、問題文が異常に長く「この問題わからないかも」と感じさせられるんですね。つまり、ただ暗記だけしていても、答えられないんです。

僕は、現役と一浪時代の失敗を通じて「付け焼き刃だとだめだ。もっと本質的なところを学ばないといけない」と感じました。

そのため、二浪のときは、学校や予備校などにいる一番頭のいい友達に頭を下げてどうやって勉強しているか聞いたり、先生にどこができていないかを聞いて、自分の弱点を知った上で勉強するという「土下座勉強法」という方法を編み出します。

友達や先生に聞いてみると、自分のやり方とは全然違うことや、自分が気づいていないこと、知ったかぶりになっているところを知ることができました。その中でいちばん良いなと感じたのは、「なぜそうなるのか?」「どうしてこうなるのか?」という流れを理解していくという勉強、つまり因果関係を考えることです。

この勉強法に出会えたことで、僕は東大に合格したと思っています。

――因果関係を考える勉強とは、具体的にどのようなものでしょうか?

ノートを問いと答えでまとめるという方法です。

例えば、豊臣秀吉が刀狩をやった3つの目的という学習内容の場合、「なぜ豊臣秀吉は刀狩をやったのか90文字以内で答えよ」という問題が出題されたことを想定し、その問題に対してどのような回答を作るか、ということをノートに取りまとめます。

授業内容をそのままノートに写すのではなく、頭で問いと答えを考えるのです。これは東大の過去問を見たときに「こういう問題が出ているんだ。合格するにはこういう問題に答えられないといけないんだ」という逆算をすることにもつながりますね。

実際、東大生は黒板の内容をすべて言い換えています。

――では、ノートを見れば勉強の得意、不得意はわかるのでしょうか?

すぐにわかります。黒板に書いてあることと全く同じことを書いている人は、勉強が苦手と言えるでしょう。そのまま写すというのは、書くことに集中してしまっていて頭を使って考えていないんです。

例えると、スマホで黒板の写真を取っているようなものですね。本当に必要なのは、黒板に書いてあることを言い換えるという思考力です。自分なりの言葉で言い換えるということを行うと、成績は上がっていきます。

また、話は少し逸れますが、受験に置いて「誰かに頼ることができるという性格」はとても大切だと、自分の経験から感じます。

僕は、仕事上よく中学校や高校に行くのですが、中学生に「苦手科目ある?」と聞くと、数学や英語などさまざまな答えが返ってくるものの「じゃあ、その科目の先生に『すごい苦手なんです。どうしたらいいですか?』と聞いたことある?」と言うと静かになってしまいます。

苦手だったら誰かを頼る、それぐらいの覚悟がないと東大には受からないと思います。

勉強のモチベーションに友だちは不可欠?

――勉強のモチベーションを維持するために、当時工夫していたことはありますか?

「机を綺麗にすること」「友だちを作ること」ですね。

まず、1つ目の「机を綺麗にすること」について。「部屋で勉強をしても、なかなか成績が上がらないんです」という相談をよく受けるのですが、そういう人たちの机の写真を見せてもらうと机の上に物が多かったり、漫画が置いてあったりします。

最低限、自分の勉強するスペースがあって、勉強を阻害するものが遠ざけられている状態までは片付けるべきでしょう。スマホや漫画などが物理的に触れられる状態だと、モチベーションは下がってしまいます。

年齢的にまだ自分の部屋で勉強をしない、という子どもに対しては、家の中にひらがなやABCのポスターなどをいっぱい貼ることをおすすめします。勉強に関連したものをたくさん貼って、家の中の様々な場所に勉強に関する何かがあるという状態にしてみてください。

――2つ目の「友だちを作ること」についてはいかがでしょうか。

勉強に限りませんが、自分が身を置く環境というのは人間にとって非常に大切だと思います。

受験に置き換えると、例えば予備校で休んだときに「昨日休んでいたけどどうしたの?」と声をかけてくれたり、テスト期間中に「一緒に勉強しよう」といえる友だちがいることで、モチベーションも上がるものです。

僕自身、現役のときは予備校にあまり友だちがいなかったので、勉強に対するモチベーションを維持するためにも、二浪する中で友だちを増やしていきました。

受験生時代の1日のスケジュール

――受験勉強をしていた期間の1日のスケジュールを教えてください。

頭を良くするため、睡眠時間は十分確保する必要があると考えていたので、24時〜7時までは必ず睡眠を取るようにしていました。受験生の中には、睡眠時間を削る人もいるのですが、勉強の効率を上げるという意味でも、睡眠は必須だと思います。

7時に起床すると、朝ごはんを食べながら勉強を開始します。朝ご飯を食べながら行うのは、効率を考えるとあまり良くないとは思いますが、この時間を通して、勉強するというスイッチを自分に入れていましたね。勉強系のYouTube動画やアプリ、参考書など何でもいいから置いていました。

日中は予備校で授業を受けた後、大体18時頃まで自習室に。自習室では、主に過去問に取り組んでいましたね。

帰宅後、19時〜20時の間は必ず遊びの時間を設けるようにして、漫画や小説など、好きなものを読んでいました。遊びとは書いていますが、趣味の勉強をするという時間でしたね。例えば、国語の文章問題はお話の一部が抜粋されていることが多いですが、「続きはどうなるのだろう」と読んだりしていました。

――勉強の合間に何かリフレッシュなどはしていなかったのでしょうか?

勉強のスイッチを完全に切ってしまうと、またそのスイッチを入れるのが大変なんですよね。

なので、息抜きのような勉強をするようにしていました。先ほどお伝えした、国語の文章問題の続きを読むということや、好きな音楽を聴きながら数学の問題を解くということだったり。

世界史の先生から「この歴史映画ではこんなことが学べる」「これを読むとこういう歴史が学べる」という話を聞いては、歴史漫画や映画なども観ていました。

疲れたら、息抜きになるような勉強方法が何かあるといいと思います。

子どもへの「問いかけ」が学力向上に繋がる

――西岡さんの受験生時代についてお伺いしてきましたが、小さい子どもがいる親御さんに向けて、子どものときに取り組んでおくべき勉強や習慣があれば教えてください。

遊ぶことだと思いますね。特にボードゲームには「多段思考」と呼ばれる、いわゆる数学的な思考と定義されることが多い力を鍛えるものが数多くあります。

数学の問題を解くにあたって、多段思考ができず、つまずいてしまう子どもが多いです。なので、幼少期から多段思考を学べるようなボードゲームに触れておくといいと思います。

数学を例にお伝えしましたが、英語や世界史など他の科目でも多段思考は必要です。

――勉強が嫌いな子どもに対してどのような声掛けやサポートが有効だと思いますか?

何も言わないのが良いのではないでしょうか。

僕が小学生の頃、母は勉強について色々と言ってきた時期がありました。その影響か、やらされて面倒だと感じていたことがあります。そんな僕の気持ちを察してか、中学生になると母は「私はもう何もいわない」と言い出し、本当に何も言わなくなりました。

あるテスト前にゲームをやっていたことがあります。そんなとき、何かを思った僕は、ふと母に「テスト前にゲームやっていていいのかな」と聞いたのですが、「あなたの人生でしょ」といわれました。振り返ると、この言葉が重要だったのかなと思います。

東大受験のときも、勉強について何か言われたことはありません。ご飯を作ってくれたり…と、日常生活でサポートはしてくれましたが。

なので、親は「あなたの人生なんだから、自分で作りなさい」というくらいが良いのかなと。ただし、いい点数をとったら褒めてあげてください。

――東大生の親に共通点はありますか?

東大生の親御さんは、子どもに問いかけるというコミュニケーションを取っている方が多いと思います。

例えば、道端に咲いている花を見て子どもに花の名前を教えてあげる。よくある光景ですが、これは情報を与えたということだけであって、学力的には上がりません。

一方、東大生の親御さんは「この花の名前はなんて言うと思う?」と問いかけているようですね。「花の形を見たらわかるんだよ」「どうしてこんな名前なんだろう」など子どもに発見があるような問いかけをしているというお話をよく聞きます。

他には勉強だけでなく進路などについても、問いかけのコミュニケーションが取られているというのが共通点です。

例えば、子どもが「ここの中学校に行こうと思っている」といわれたら「どうしてそこに行きたいの?」と聞くなど。進路についても問いかけをする親御さんの子どもというのは、やはり学力が上がる傾向にあると思います。

――どうして問いかけが子どもの学力向上につながるのでしょうか?

納得感の違いだと思います。

自分で選択するということと、与えられたものを受け入れるというのは、天と地ほど差があります。つまり、自分で考えて自分の進路選択をした人と、与えられたレールの上で走っていく人は、モチベーションや何やらが全然違うということですね。

これに関してはスポーツの世界で興味深い話があって、「監督が考案した絶対スポーツ科学的にもスポーツ身体感覚的に100%正しいメニュー」と「選手がやりたいメニューだけどスポーツ身体科学的にちょっと間違っているメニュー」のどちらが効果が上がるかというと、選手が考えたメニューの方が上がるときが多いです。

自分の中で納得して選んだ道なのかどうかというのは、実はその後の効果に大きな影響を与えるのです。

僕自身も、親から「なんで?」と理由を聞かれることはよくありました。その結果、考えて行動するという習慣がついたのだと思います。

子どもたちに「意欲の格差」が生まれ始めている

――前述の「多段思考」の他、子どもたちが身につけるべき力はありますか?

簡単に「わかった」といわない人が、これからの時代、絶対に活躍できるのだろうと思います。

今の時代、スマホやChatGPTが当たり前にあるので、子どもたちがすぐにわかった気になってしまうというのが問題だと感じています。答えらしいものをなんとなく受け入れて、そこに思考するという過程が入っていないのです。スマホやChatGPTは答えらしいものを教えてくれるに過ぎないのに。

だからこそ先ほどもお伝えした通り親御さんが「なぜ?」と問いかけることが大切です。

子どもに答えを教えなくていいですし、親自身が答えを知らなくてもいいです。「なんでだと思う?」「どうしてだと思う?」と問いかけてください。子どもと一緒に考えてもいいです。

考えた後は、スマホやChatGPTを使ってもいいと思います。ただし、その答えすら疑うということが重要です。

――今後の目標や教育・学びを通じて実現したいことなどを教えてください。

ドラゴン桜2の放送後、観た人たちから「これはファンタジーだ」とよく言われたので、そうなのかな?と実際にリアルドラゴン桜がどれほどいるのか調べてみたことがあります。

東大には3,000人の学生がいるのですが、そのうち約60人がリアルドラゴン桜でした。この情報は多くの人が知るべき情報でしょう。

僕は、このリアルドラゴン桜を60人から、100人にしたいです。

受験で必要なのは、塾や予備校のようなものではなく「やってやろう」というモチベーションや気持ちの方が重要だと、ここ数年でわかってきました。人間はやろうと思えば、不思議なことに何とかなるんですよね。

昔と今を比べると、様々な勉強ツールがあるので、教育格差自体はどんどん減っていると感じます。ただ一方で「やってやろう!」という気持ち、つまり意欲の格差が生まれていると思うんですね

どんなにいい教材やEdTechがあったとしても、使う人間に勉強する意欲がなければ、あまり意味はありません。

「やってやろう!」という気持ちを持つ子どもを増やす、ということが目的だと思っています。

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