網走の山奥で115年続く豊郷神楽「継続・保存・伝承」の源は開拓者精神【北海道網走市】
8月1日、網走市の豊郷(とよさと)地区で1909年(明治42年)から続く、115回目の「豊郷神社奉納神楽」が豊郷神社で行われました。
この神楽は、1906年(明治39年)に宮城県から同地区へ入植した仙台神楽の手ほどきを受けた人々を中心に伝えられ、開拓の苦労を紛らわす数少ない娯楽として、手製の面を彫って面白おかしく踊ったのが始まりとされています。
その後、集落の戸数が増えた1909年に豊郷神社の前身である第一西藻琴(だいいちにしもこと)神社が建立され奉納されたのを期に、西藻琴神社奉納神楽と命名され、さらに「豊郷神社奉納神楽」(以下「豊郷神楽」)と名前が変わり現在まで継承されています。
戦時下、コロナ禍でも絶やさず継続
多くの構成メンバーが出征したであろう戦時中も、猛威をふるった新型コロナウイルス禍においても途切れることなく毎年8月1日に豊郷神楽の奉納を継続し、後継者不足で存続の危機に直面した時期もありましたが、現在は豊郷神楽保存会が豊郷地区の内外はもちろんのこと網走市内外問わず、老若男女広く継承者を募って地域の伝統芸能として保存と伝承に努めています。
豊郷神社境内近くでは、豊郷神楽保存会の皆さんによる大太鼓や小太鼓、篠笛(しのぶえ)の軽快なおはやしが聞こえてきて、初めて訪れた筆者は、まさにおはやしに「はやしたてられた」ように自然と速足となり境内へ入りました。
初めて見るおはやしと舞は、歴史が浅い北海道では珍しいこともあり、古(いにしえ)の日本にタイムスリップしたかのように思えるほど、しばし時を忘れ見入ってしまいました。
舞は、種をまき豊作を祈り、海で漁を山で狩りを感謝する内容の12幕で構成されており、その内容を正しく保存し伝承していく大変さを感じると同時に、115年継続しているすごさや素晴らしさを感じました。
本当の開拓者精神とは何か
豊郷神楽保存会の井上利則会長から話を伺うと、「戦時中も新型コロナウイルス禍も一度も休まず115年目の奉納となり、地域独自の文化として後世に継承していくためにも、引き続き子ども達への神楽指導や神楽に興味や関心がある人たちと一緒に、伝承活動に努めていきたい」とお話ししてくれました。
北海道ではよく「開拓者精神を受け継ぐ」という言葉を聞くことがありますが、精神的な表現で具体的な答えが見つからないと筆者は思っていました。
しかし、豊郷神楽を通じて豊郷神楽保存会の皆さんの活動や井上会長の言葉を聞くと、困難には新しいアイデアで克服し、先人から受け継いできたものを正しく保存し、誇りをもって次世代の若者や子どもたちに引き継いでいく姿勢があらわれていて、それはまさに開拓者精神そのものと感じました。
素晴らしい体験と取材をさせていただきました。
網走にも、歴史がありこんなにも素晴らしいお祭りがあるのです。また来年、古の日本にタイムスリップをしに家族で豊郷神楽を見に行こうと思います。
(写真は全て2024年8月1日筆者撮影)
情報
豊郷神社奉納神楽
〇所在地: 網走市字豊郷 豊郷神社境内
〇開催日:毎年8月1日
〇保存・伝承団体名:豊郷神楽保存会