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〈色白崇拝〉を打ち破った〈色黒ヒーロー〉とは?ぶっ飛びインド西部劇『ジガルタンダ・ダブルX』 タミル語映画史の転換点を解説

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〈色白崇拝〉を打ち破った〈色黒ヒーロー〉とは?ぶっ飛びインド西部劇『ジガルタンダ・ダブルX』 タミル語映画史の転換点を解説

封切りまであとわずかとなった、タミル語映画『ジガルタンダ・ダブルX』をご紹介します。監督は『ピザ 死霊館へのデリバリー』(2012年)のカールティク・スッバラージ

本作はカールティクの監督のデビュー第2作目『ジガルタンダ』(2014年)の「精神における続編」のふれ込みで、ストーリー上の繋がりは薄いのですが、映像作家とギャングの組み合わせ、「映画が人間を変える」というモチーフが共通しています。『ジガルタンダ』も併せて観るのがお勧めではありますが、本作の後からでもネタバレなどの問題はありません。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

南インドの西ガーツ山脈が舞台、森の西部劇

物語は1973年から1975年にわたります。冒頭で、南インド西ガーツ山脈のコンバイの森、部族の人々が住む村に置かれた特別警察のキャンプに、マドラス(今のチェンナイ)からラトナ警視が赴任し、恐怖政治を敷きます。特別警察の目的は、シェッターニという男に率いられて違法な象牙猟をする森のギャングを掃討すること。同じころマドラスでは、キルバイという新米警官が殺人容疑で捕えられて牢に繋がれています。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

マドラスに一時的に戻ってきたラトナ警視は、無罪放免・復職と引き換えに、南部の都市マドゥライを根城にするシーザーという男の暗殺をキルバイに命じます。シーザーは象牙の違法取引に始まり、政治家の手足となっての殺人までを行う極悪非道なギャング。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

一方で彼はクリント・イーストウッドの西部劇が大好きで、イーストウッド出演作を独りで観るためのプライベート劇場を持つほどの入れ上げぶり。キルバイは、巨匠サタジット・レイ監督の弟子と身分を偽り、自分が主演で映画を撮りたいシーザーに近づき、その後舞台はコンバイの森に移ります。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

シーザーとキルバイの人生を運命がどのように変転させるのか、そしてそこに映画という芸術がどのようにかかわっていくのかが本作の肝です。しかしその中に、みっちりと詰まった引用、暗喩、当てこすりなどなど、幾重ものレイヤーのある濃厚な一作なのです。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

主役はラーガヴァー・ローレンスS・J・スーリヤー。2人とも人気・実力を併せ持つ人気者ですが、日本で紹介されてきたヴィジャイやアジット、スーリヤといったカリスマ的なスーパースターとは微妙に違うリーグの俳優たちです。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

特にシーザーを演じるローレンスは、映画にしたいぐらいの特異な経歴の持ち主。その浮き沈みの激しい人生行路をここで詳述するのは省略しますが、劇場で販売の本作パンフレットに一部が書いてあります。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

ページ分割:根強い「色白崇拝」を打ち破った怒れる若者たち

根深い“色白崇拝”を打ち破った怒れる若者たち

劇中でシーザーが映画出演への意欲を口にすると、「色黒の俳優が主演する映画に出資する者はいない」と色白の人気俳優に言われるシーンがあり、それで却ってシーザーは映画を撮る決意を固めてしまうのですが、これはタミル語映画の歴史の上での重要な転換点を想起させます。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

別のシーンでは、キルバイがシーザーを奮起させるために「最近デビューしたラジニカーントという、色黒の俳優がいる」と言います。 これは実際に、1975年にラジニカーントが悪役として初めて映画に出演したことと一致しています。この“肌の色”の問題は、古い時代のタミル語映画あるいは南インド映画全体の中で特別な意味を持っていました。

本作の別の部分で引き合いに出される名優シヴァージ・ガネーサン(1928 – 2001)は、ラジニカーントより前の世代の人気スターでした。シヴァージの時代、ヒーロー俳優が色白であることは必須で、色の黒い俳優は、悪役かコメディアンになるのが常でした。この通念を打ち破り台頭してきたのが、1970年代後半から1980年代にかけての怒れる若者、タミル語映画のラジニカーント、テルグ語映画のチランジーヴィなどだったのです。

チランジーヴィとラジニカーント、どちらのキャリアにおいても、先行世代のNTRやMGRとの比較での際立った肌色の黒さが、ある種の「リアリズム」を生み出した。それは、彼らの演じる人物が単に低クラスのヒーローであるだけでなく、低カーストのヒーローであるとも読み取れることを示したのである。

(Megastar – Chiranjeevi and Telugu Cinema after N.T. Rama Rao S. V. Srinivas P.88より、引用者による訳)

この“色白崇拝”は非常に強固で、ラジニカーントの成功をもってしても全面的に覆ったわけではありません。特にヒロインには今でも色白の女性が好まれ、肌色が薄い人が多い北インドから女優が呼ばれることが絶えないのです。

タミル語映画初の“色黒”ヒーロー誕生の物語

この『ジガルタンダ・ダブルX』は、無学な荒くれ者、色黒で、高身長ではないシーザーという男が、タミル語映画初の色黒のヒーローとなる物語で、それが演じるローレンスの映画人生とも微妙にリンクします。冒頭でクリント・イーストウッド、マニラトナム監督と並んでラジニカーントに謝辞が捧げられているのは、単に名前を引用させてもらったからだけではないのです。

『ジガルタンダ・ダブルX』©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin

このような非常に深く精緻なやりかたでオマージュを捧げられたラジニカーントは、本作を見て、西ガーツ山脈で12年に一度だけ美しい花を咲かせるクリンジという植物になぞらえて最大級に称えました。まさに西ガーツ山脈を舞台に展開する、この稀なる西部劇にふさわしい讃辞と言えるでしょう。

クリンジの花 ©Naoko Ataka

文:安宅直子

『ジガルタンダ・ダブルX』は2024年9月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

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