【ベテラン産業医直伝】ストレスを爆発させないための「心と身体のセルフケア術」
仕事もプライベートも全力投球。でも最近、どこか疲れが抜けない……そんな状態が続いていませんか?知らず知らずのうちに溜まったストレスが爆発し、燃え尽きてしまうリスクがあります。特に「責任感が強く、まじめなひとほどストレスが溜まりやすい」と話すのは、年間400人以上を診察・面談するベテラン産業医の森秀和先生。ストレスを溜めやすい人の特徴や、ストレス耐性を高める具体的な習慣を通じて、心と身体の変化に気づく方法を学び、今年一年をすこやかに働く準備をしましょう。
文・渋谷365メンタルクリニック 院長 森秀和
溜まったストレスは突然爆発する。黄色信号を見逃さないで
心が疲れているときの身体と感情のサイン
心が疲れているときのサインは、「身体の変化」と「感情の変化」が現れることが多いです。
身体の変化
症状は人によっても異なりますが、頭痛や肩こり、目の疲れ、慢性的な疲労感が代表的です。これらの症状が、休息をとっても改善しない場合は注意が必要です。普段の生活でもこういった症状を感じることはあると思いますが、一晩寝れば解消するはずの症状が、寝ても続いている、もしくは仕事が休みの日にも改善しない場合、それは”心が疲れているときのサイン”といえます。
感情の変化
次に感情の変化です。具体的には、感情の波が大きくなったり、集中力や記憶力が低下したりします。また、些細なことでイライラしやすくなり、普段は気にしないことでも家族や同僚、部下に対して感情をぶつけてしまうことが増えるかもしれません。仕事中はなんとか頑張れても、終業後や休日に無気力な状態が続く場合、それも心が疲れている状態のサインです。
ポイントは、 「普段であれば1日休めば回復するものが、持続している」 という点です。このような症状が続くと、いわゆるストレス爆発のリスクが高まります。重症化しないためにも、自分自身の状態を把握することが大切です。
自分の心の状態を把握する方法
知らず知らずのうちに限界を迎えてしまうのを防ぐためには、自分の心が疲れているかどうかを知る習慣をつけることが重要です。今日からできる簡単な方法をいくつかご紹介します。
1. 毎日体調を記録する
忙しい日々を過ごすビジネスパーソンは、自分の体調を振り返る時間が取りにくいもの。そこで、手帳やカレンダー、アプリなどを使い、1日に1回、わずか5分だけでも良いので、自分の体調を記録してみましょう。例えば、 「◎:良好」「△:普通」「×:不調」 と簡単な記録で構いません。これを習慣化することで、体調の悪化が続いているかどうか把握するきっかけになります。
2. 他者の指摘に耳を傾ける
家族や職場の同僚から「最近元気がないね」や「ミスが増えている」などの指摘があった場合、それは自分では気づいていない心の疲れが現れているサインかもしれません。真摯に耳を傾け、自分の状態を見直してみましょう。
3. 睡眠アプリを活用する
睡眠と心の疲れは深く関連しています。睡眠アプリを使えば、睡眠時間や質をモニタリングできます。これにより、体調不良や仕事上のミスが続く原因が睡眠の質に気づけるかもしれません。
心療内科医が見る、ストレスを溜めやすい人の特徴
ストレスを溜めやすいビジネスパーソンの典型的な特徴としては、下記の3つがあります。自分に当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
1. 完璧主義・責任感が強い人
高い成果を求められる環境で力を発揮する一方、過剰な責任感から自分を追い込んでしまうことがあります。
【解消法の提案】
自分の中の合格ラインを下げてみましょう。完ぺき主義の人は、自分の中での合格点を必要以上に高く設定してしまうことで苦しむことが多いです。合格点を100点から60点70点に変えるだけでも心に余裕が生まれます。例えば、仕事のメール返信を夜中でも即座に行うことを「100点」とするのではなく、「夜8時までに返信すればOK」というように基準を下げてみてください。このように基準を見直すだけで、プライベートの時間や睡眠の時間を確保でき、心の余裕が生まれます。
2. 他人の評価に敏感な人
評価を気にするあまり、周囲に頼ることを躊躇し、仕事を抱え込みがちな傾向があります。
【解消法の提案】
「頼る」ことを習慣化することが大切です。いっぱいいっぱいになってからではなく、まず頼んでみる・相談してみるという練習をしてみてください。例えば、雑談の中で悩んでいることを話題に出したり、納期について相談したりするなど、ささいな内容で構いません。そうすると同僚との連携が深まります。 信頼は一方通行ではなく、相互のものだと気づければ、他人の評価を過度に気にする必要もなくなり、安心して仕事に取り組めます。
「誰かに相談するより自分でやったほうが早い」と思う方もいるかもしれません。その考え自体は理解できますが、自分で抱え込み続けると、いずれキャパオーバーに陥る可能性が高いです。長い視点で考えると他者に頼るほうが効率的だと言えます。
3. ネガティブ思考の人
このタイプの人は、一度のミスを過度に重く捉えてしまい、それを引きずることで不安感が強くなる傾向があります。
【解消法の提案】
「失敗は誰にでも起こり得るものであり、そこから学ぶことが重要」という意識を自分に刷り込むことが大切です。実際に失敗は誰にも起こり得るものですし、それがきっかけで再発防止が徹底されたり、大きな失敗を未然に防げたりすることもあります。失敗を恐れるのではなく、そこからの学びを重視する姿勢は、ビジネスパーソンにとって重要な考え方です。また、ネガティブ思考になりがちな方は、ポジティブな言葉を意識的に生活に取り入れてみてください。例えば、ポジティブ思考になれるような言葉を、職場のチーム内で繰り返し伝え合うようにしたり、自宅で目につく場所にポジティブなメッセージを貼ったり、スマホにメモとして残し、繰り返し確認したりするのも有効です。 大切なのは、「今、自分はネガティブになっていないか」と気づける仕組みを日常生活に取り入れること です。
すこやかに働くために。ストレス耐性を高める習慣づくり
ストレス耐性を高めるために、まず取り組んでほしいのが「質の高い睡眠を確保すること」です。以下の習慣を取り入れてみましょう。
朝日を浴びる
朝日を浴びるのは、特に朝9時までが効果的です。なぜかというと、朝日を浴びることで、その約13時間後にメラトニンという睡眠と覚醒のリズムを調節するホルモンが分泌されやすくなるからです。 朝9時までに浴びる習慣をつけると、夜10時くらいにメラトニンが分泌され、寝つきがよくなります。 ちなみに、私は毎朝のジョギングで、朝日を浴びながら適度な運動で自律神経を整えています。運動も朝日を浴びる習慣づくりの一つとしておすすめです。
食事を3食摂る
忙しい日々でも朝食は抜かないようにしましょう。バナナ1本やヨーグルト、野菜ジュースなど簡単なもので構いません。 朝食は1日のリズムを整える重要な要素です。
寝る前の習慣を整える
睡眠の質を高めるため、寝る前の過ごし方を見直してみてください。以下を意識するだけでも睡眠の質が向上します。
例:
デジタルデトックス:寝る1時間前からスマホ、テレビ、パソコンを控える カフェインの摂取を夕方以降に控える
さらに、リラックスできる習慣を取り入れるのも効果的です。
例:
ストレッチや音楽鑑賞 アロマを焚く ぬるめのお風呂にゆっくり入る
自分に合ったリラックス方法を見つけ、毎晩のルーティンに取り入れましょう。
リラックス方法の見直しも重要です。睡眠以外の時間帯でも、ストレス耐性を高めるために普段のリラックス方法を見直してみてください。その際、特に意識してほしいのが「何か1つに依存していないか」という点です。
例えば、動画視聴がリラックスという方も多いと思いますが、動画視聴に依存すると目に負担がかかり、結果として体調を崩すことにつながりかねません。また、1つに依存していると、それができなくなったときの喪失感が強くなり、かえってストレスを溜めてしまいます。 心地よい習慣を複数持つことで、状況に応じて選べる選択肢が増え、安定した心の状態を保てるようになります。
ストレスを溜めやすい人ほどセルフケアを意識し、心身の変化に早めに気づき対処する習慣を取り入れてみてください。
プロフィール
渋谷365メンタルクリニック
院⻑ 森秀和
産業医科大卒業後、同大学心療内科医として勤務。その後、IT企業、コンサルティング企業、大手エンタテイメント系企業の専属産業医として活躍。23 年に渡る心療内科・精神科医療の経験と、産業医として幅広く活動してきた経験から、多角的な視野で患者さまのメンタルヘルス疾患に柔軟に対応することを得意としている。
企業サイト
渋谷365メンタルクリニック
保有資格
日本心身医学会・日本心療内科学会合同 心療内科専門医
日本内科学会総合内科専門医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
特定社会保険労務士