介護福祉士実務者研修とは|初任者研修との違い・取得方法・費用・メリットを徹底解説
監修者/専門家
望月 太敦
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介護福祉士実務者研修(以下、実務者研修)は、介護職員初任者研修(以下、初任者研修)のワンランク上の資格です。修了することで、介護スキルが向上し、より多様な利用者に対して質の高い介護サービスを提供できるようになります。
また、実務経験を経て介護福祉士を目指すルートでは、国家試験の受験要件の1つとされています。 この記事では、初任者研修との違いや取得のメリット、取得方法、研修内容など、実務者研修の基礎情報を解説します。
介護福祉士実務者研修(旧ホームヘルパー1級)とは
初任者研修の上位資格である実務者研修は、幅広い利用者に基本的な介護スキルを提供できるようになることを目的としています。
目標とするレベルは、介護福祉士養成施設における2年以上の養成課程の到達目標と同じ水準とされています。
医療的ケアも学べるのが特徴
実務者研修では、初任者研修とも共通する介護の基本知識・スキルのほか、「喀痰吸引(かくたんきゅういん)」や「経管栄養(けいかんえいよう)」といった医療的ケアについても学べるのが特徴です。
なお、喀痰吸引とは、利用者の口腔内、鼻腔内などにチューブを挿入して痰を吸引すること。
経管栄養は、口から食事をとれない利用者さんに対し、開けた穴などにチューブを挿入して栄養補給をするケアです。
実務者研修が導入された背景
実務者研修が設けられたきっかけは、2007年に社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正によって、介護福祉士の資格取得の要件が見直されたことです。
介護福祉士の資質向上のためには実務経験者にも一定の教育課程が必要との考えから、実務経験ルートで介護福祉士の資格取得を目指す人に対し、3年以上の実務経験に加えて、実務者研修の修了を義務づけることが定められました(2017年以降に実施)。
介護職のキャリアパスの整理
2013年には、介護職のキャリアパスをより明確にするために、介護保険法施行規則の一部改正により、ホームヘルパー1級・2級・3級、介護職員基礎研修といった資格が廃止されました。
その代わりに、ホームヘルパー2級に当たる資格として初任者研修が生まれ、ホームヘルパー1級と介護職員基礎研修は、実務者研修に統合されました。
介護職員初任者研修との違い
■カリキュラムと受講時間の違い
初任者研修のカリキュラムが9科目130時間あるのに対し、実務者研修は20科目450時間です。
修了までにかかる期間は、初任者研修は最短1ヶ月程度ですが、実務者研修は6ヶ月程度が目安とされています。
ただし、初任者研修を修了している場合、一部の科目が免除されるため、受講時間は320時間、期間は4ヶ月程度です。
難易度と専門性
実務者研修は、初任者研修に比べると学ぶ範囲が広く受講期間も長いうえ、専門性の高い内容が増えるので、取得のハードルはより高いといえます。
介護福祉士実務者研修を修了するメリット
実務者研修を修了すると、さまざまなメリットがあります。
具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
1.スキルが向上する
2.就職・転職で有利になる
3.収入がアップする可能性がある
4.介護福祉士の受験資格が得られる
5.訪問介護事業所のサービス提供責任者を目指せる
1.スキルが向上する
実務者研修では、介護の基本やこころとからだの仕組みから医療的ケアまで、介護職として働くのに必要な知識を、実技だけでなく介護過程も通して深く学び、スキルを習得することができます。
ある程度の実務経験がある人も、改めて介護の基礎から理論的に学ぶことで、普段の業務の仕方を見直し、スキルを高められるでしょう。
2.就職・転職で有利になる
実務者研修を修了していると、専門知識と基礎レベル以上のスキルがあるという証明になるため、幅広い施設・事業所で採用されやすくなります。
また、実務者研修には喀痰吸引等研修の基本研修が含まれているため、実務者研修を修了した人は、実地研修を受ければ、喀痰吸引等研修を修了できます。
喀痰吸引等研修を修了したうえで、都道府県に申請して「認定特定行為業務従業者」として認定を受けた介護職は、医療従事者の指示のもと、喀痰吸引や経管栄養を行うことができるようになります。(※ただし、勤務先が「登録喀痰吸引等事業者」である場合に限られます。)
看取りケアに対応している入居型施設のほか、訪問介護の現場や障害者支援の現場などでも、医療的ケアのニーズは高まっています。
このような背景から、実務者研修を修了していると、医療的ケアの基本スキルを備えた人材として優先的に採用されることもあるかもしれません。
3.収入がアップする可能性がある
参考:厚生労働省令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果をもとに作成
介護職は、資格手当てが支給される職場が多いため、実務者研修を修了すると、給与がアップする場合があります。
厚生労働省の調査によると、無資格の介護職(月給・処遇改善あり)の平均給与額が26万8,680円であるのに対し、初任者研修の修了者は30万240円、実務者研修の修了者は30万2,430円となっています。
このことから無資格の介護職が実務者研修を修了した場合、3万円程度、初任者研修の修了者が実務者研修を修了した場合、2,000円程度の収入アップが見込めることがわかります。
4.介護福祉士の受験資格が得られる
介護福祉士養成施設などで学ばず、実務経験ルートで介護福祉士の資格取得を目指す場合、要件として、3年以上の実務経験と実務者研修を修了することが求められます。
したがって、3年以上の実務経験がある介護職が実務者研修を修了すれば、介護福祉士の受験資格を得たことになります。
5.訪問介護事業所のサービス提供責任者を目指せる
実務者研修を修了すると、訪問介護事業所でサービス提供責任者になるという道も、将来の選択肢として視野に入れられるようになります。
サービス提供責任者は、訪問介護事業所の利用者さんが適切なサービスを受けられるように、関係者と連携しながらサポートする役割を担っています。 ケアマネジャーが作成したケアプランと利用者の要望などをもとに、訪問介護計画書を作成することも重要な業務の一つです。
サービス提供責任者になるには、介護福祉士、実務者研修、旧ホームヘルパー1級のいずれかの資格を取得している必要があります。
介護福祉士実務者研修の取得方法
では、実務者研修を修了するには、どうすればよいのでしょうか。
ここからは研修の内容や受講方法、保有資格による免除科目など、実務者研修の概要を紹介します。
受講要件
初任者研修と同様、受講の要件は特にありません。初任者研修を修了していなくても受けられます。
年齢制限もありませんが、スクールによっては、16歳以上という条件を設けている場合があります。
研修の内容
実務者研修のカリキュラムは、20科目450時間以上あります。
内容は、「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」、「医療的ケア」の4つの領域に分けられます。
参考1:厚生労働省実務者研修における「他研修等の修了認定」の留意点について
参考2:厚生労働省介護福祉士養成課程 新カリキュラム 教育方法の手引き
受講方法
実務者研修は、初任者研修と同様に、都道府県の指定を受けたスクール(専門学校)や社会福祉法人などが実施しています。 無資格の人が受講する場合、修了までに約6ヶ月かかります。
受講方法には、主に通学コース、通信コースの2種類があります。 実務者研修では、全450時間のうちほとんどを通信(自宅学習)で学べますが、45時間(日数にすると7~10日間程度)は、スクーリング(通学)が必要です。
通信コースを受講する人も、自宅から通いやすい場所にあるスクールを選ぶようにしましょう。 多くのスクールでは、スクーリング日を土日に設定したコースを用意しています。
保有資格による科目の免除
初任者研修などの資格を持っている場合、実務者研修のカリキュラムの一部の科目が免除されるため、総時間数が短縮されます。
例えば、初任者研修または旧ホームヘルパー2級を修了した人は、450時間の総時間数が320時間になります。
詳しくは、下記の表で確認してください。○印がついている科目は免除対象です。
■届出の必要がない研修にかかる終了認定科目について
※参考:厚生労働省実務者研修における「他研修等の修了認定」の留意点について
難易度
初任者研修では、すべての科目を受講した後に必ず筆記試験が行われますが、実務者研修では試験の実施が義務づけられているわけではありません。ただし、受講者の理解度を確認するために、修了評価が行われるのが一般的です。
研修を実施する機関によっては、筆記試験を設けている場合もあり、演習科目では実技試験が課されることもあります。また、通信制のコースでは、各科目ごとにレポート課題を提出し、講師による添削と評価を受ける必要があります。
試験や課題の合格基準はスクールごとに異なりますが、講義をしっかりと受けて内容を理解していれば、合格点を取ることは難しくありません。万が一不合格になった場合でも、追試を受けられるケースが多く、柔軟な対応がされています。実務者研修全体の合格率は公表されていませんが、講義への出席と課題の提出をきちんと行えば、ほぼ確実に修了できるとされています。
ただし、実務者研修を修了するためには、原則としてすべての講座に出席する必要があります。受講期間が長いため、途中で講座に参加できなくなると修了が難しくなります。そのため、受講前には自分の生活スタイルに合ったコースを選び、無理のないスケジュールを立てることが大切です。
スクールによっては、講義日程の中でどうしても出席できない日がある場合に、他の日程への振替が可能なところもありますので、事前に確認しておくと安心です。
受講費用
実務者研修の受講料は、研修を実施するスクールや機関によって異なります。無資格の状態から受講する場合、テキスト代を含めた費用の相場はおおよそ10万円から20万円程度とされています。
すでに初任者研修などの資格を取得している場合は、一部の科目が免除されるため、受講料も比較的安くなります。たとえば、初任者研修や旧ホームヘルパー2級を修了している場合は7万円から14万円程度、旧ホームヘルパー1級を修了している場合は5万円から10万円程度、介護職員基礎研修を修了している場合は3万円から6万円程度が目安です。
実務者研修は、初任者研修と比べて科目数や時間数が多いため、費用も高くなる傾向があります。そのため、受講を検討する際には、対象となる支援制度や補助金の有無を確認し、活用できるものがあれば積極的に利用することが大切です。次に、代表的な支援制度について紹介します。
■1.勤務先の資格支援制度
すでに介護職として介護施設・事業所で働いている場合は、勤務先が用意している資格支援制度を利用できるかもしれません。
受講料の一部または全額を事業所が負担してくれるケースが一般的ですが、受講料が貸与されて、一定の期間勤務することを条件に返還が免除されるケースや、勤務先が実施している実務者研修を無料で受けられるケースもあります。
■2.求職者支援制度の職業訓練
離職者やパートなどで雇用保険の受給資格のない人は、ハローワークに求職の申し込みをすると、職業訓練として無料で実務者研修を受けられる可能性があります。(※テキスト代は実費)
職業訓練は、再就職や転職を希望する人を支援するための求職者支援制度の一環です。 ただし、職業訓練を受けるには、要件を満たしたうえで、ハローワークで選考を受ける必要があります。
また、通常、職業訓練にはスクールのように土日のコースはなく、平日の日中に講義が行われます。受給要件などの詳細は、厚生労働省のサイト※でご確認ください。
※:厚生労働省求職者支援制度のご案内
■3.教育訓練給付制度
職種・業種にかかわらず在職中で雇用保険に加入している人であれば、「教育訓練給付制度」を利用できる可能性があります。教育訓練給付制度は働く人のスキルアップやキャリア形成を支援するための国の制度で、厚生労働大臣の指定を受けた講座を受けると、費用の一部が雇用保険から支給されます。
詳しい受給要件については、厚生労働省のサイト※を参考にしてください。
このサイトから、教育訓練給付制度の指定を受けているスクール・講座を検索することもできます。
※:厚生労働省教育訓練給付制度
■4.介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度
要件を満たした人に、実務者研修の受講料や教材費などを貸付する制度もあります。全国の各都道府県にある社会福祉協議会が実施する制度で、貸付額は最大で20万円です。
実務者研修を修了したあと、介護福祉士の国家資格を取得し、その都道府県内にある介護施設で2年間勤務すると、貸付金の返済が免除されます。都道府県によって要件が異なる場合があるため、詳細は就職や転職をする予定がある都道府県の社会福祉協議会のWebサイトや窓口でご確認ください。
以上のほか、都道府県や市町村といった地方自治体が独自の支援制度を設けている場合もあります。
介護福祉士実務者研修は働きながら修了できる?
自分に合うコースを選べば、働きながらの修了も可能!
実務者研修には、通信を中心としたコースや土日を利用して通えるコースなど、さまざまなスタイルが用意されています。自分の生活スタイルに合ったコースを選べば、仕事を続けながらでも修了することは十分に可能です。
ただし、無資格の状態から受講する場合は、修了までに最短でも6ヶ月ほどかかります。初任者研修を修了している場合でも、最短で4ヶ月程度の期間が必要です。働きながら受講する場合は、こうした最短期間での修了が難しくなることもあり、実際にはもう少し時間がかかるケースも少なくありません。
仕事の都合で忙しくなったり、体調を崩してしまったりすると、予定していたスケジュール通りに進められなくなる可能性もあります。そのため、受講を始める前に、無理のない計画を立てておくことがとても重要です。予期せぬ事態にも対応できるよう、余裕を持ったスケジュールを組むことが望ましいでしょう。
なお、実務者研修は、スクールが定めた受講期限内に修了しなければなりません。受講期限はスクールによって異なりますが、一般的には2年から3年程度とされています。
振替制度の有無もコース選択のポイントに!
多くのスクールでは、受講生が急に休んだ場合でも研修を修了できるように、振替制度や受講延長制度を整えています。ただし、1ヶ月の間に振替受講が可能な回数や、振替・延長にかかる費用(無料の場合もあります)は、スクールによって異なります。
そのため、スクールや受講コースを選ぶ際には、受講期限だけでなく、振替制度や延長制度の内容についても事前に確認しておくことが大切です。特に働きながら研修を受ける場合は、こうした制度があることで、万が一の事態にも柔軟に対応しやすくなります。
また、介護施設や事業所の多くでは、職員向けに資格取得を支援する制度を設けていることが多く、介護職として働きながら実務者研修の修了を目指す人は、他業界で働く人に比べて恵まれた環境にあるといえるでしょう。経済的な支援が受けられるだけでなく、同じ職場で働く先輩の介護職員に、スクールの選び方や勉強方法について相談できる点も、大きなメリットです。
これから受けるなら初任者研修?実務者研修?
未経験・働き始めて1~2年の方は初任者研修から
介護の資格をまったく持っていない方の中には、まず初任者研修を受けるべきか、それとも実務者研修から始めるべきか迷っている方もいるのではないでしょうか。
実務者研修は、初任者研修を修了していなくても受講することが可能です。無資格の状態からでもチャレンジできる点は魅力ですが、カリキュラムには応用的な内容も含まれているため、基礎的な知識やスキルがないと、講義についていくのが難しく感じることもあるかもしれません。
そのため、介護の実務経験がまったくない未経験者や、介護職として働き始めてから1〜2年程度の方には、まず初任者研修から受講することをおすすめします。初任者研修を修了しておけば、実務者研修を受ける際に約3割の科目が免除されるため、受講時間や負担が軽減され、よりスムーズに修了できるようになります。
3年以上働いていて、基礎的なスキルがあるなら実務者研修
一方で、すでに介護職として3年以上の実務経験があり、日々の業務を通じて基礎的なスキルを身につけている方であれば、初任者研修を受けずに実務者研修に挑戦するという選択も十分に考えられます。
この場合、受講期間は長くなる傾向がありますが、基礎的な内容を確認しながら、より専門的な知識や技術を効率よく習得することができます。特に介護福祉士の資格取得を目指している方にとっては、実務者研修を修了することで受験資格を満たすことができるため、初任者研修を経ずに直接実務者研修を受講することが、資格取得への近道となる場合もあります。
よくある質問(FAQ)
Q1.実務者研修はどこで受けられますか?
各都道府県にある、社会福祉士および介護福祉法によって定められた介護福祉士実務者養成施設で受講することができます。
詳細は、厚労省の「実務者養成施設指定一覧(1321課程)」をご覧ください。
※厚生労働省実務者養成施設指定一覧(1321課程)
Q2.実務者研修の修了に試験はありますか?
養成施設ごとに試験の有無は定められています。
多くの場合、筆記試験を実施していますが、修了評価や課題提出で修了できる場合もあります。
Q3.実務者研修に更新手続きはありますか?
実務者研修は一度修了すれば、生涯有効です。
また、取得してから介護福祉士国家試験を受けるまでの期間も定めがないため、実務者研修を修了していて、介護福祉士に興味がある方は、自身のペースで挑戦してみるとよいでしょう。
まとめ:初任者研修を修了している人は、実務者研修にもチャレンジを
介護現場で日常的な業務に従事するには、初任者研修を修了していれば基本的な知識と技術は身についているため、十分に対応できる場面も多いでしょう。
しかし、実務者研修を修了することで、より高度なスキルを習得できるだけでなく、自信を持って仕事に取り組めるようになります。また、介護福祉士の国家試験の受験資格も得られるため、次のキャリアステップに一歩近づくことができます。
さらに、実務者研修の修了後に介護福祉士の資格を取得すれば、管理者やケアマネジャー、認定介護福祉士など、より専門性の高い職種への道も開けてきます。すでに初任者研修を修了している方は、今後のキャリアを見据えて、ぜひ実務者研修の受講を検討してみてください。
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