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スティーヴィー・サラス:INABA/SALAS『ATOMIC CHIHUAHUA』制作秘話&ライヴ・レポート

YOUNG

スティーヴィー・サラス

長年の友人である稲葉浩志とスティーヴィー・サラスがタッグを組んだプロジェクト、INABA/SALAS。その作品もさる2月末にリリースされた『ATOMIC CHIHUAHUA』で、はや3作目を数えている。まだ作品に触れていない人は、ぜひともDVDもしくはBlu-rayが付属されている初回限定盤を手に入れることをオススメしよう。映像として収録されているのは、全国ツアー“Never Goodbye Only Hello”に向けて2人がセットリストを思案しながら行なったセッションの模様。そこでは本作の制作背景もちらほら語られているので、それを観つつアルバムを聴けば、作品に対する解像度がグッと増すはず。

さて、今回のインタビューは来日中だったスティーヴィー・サラスを迎え、そのツアー・タイトルにもなっている収録曲「ONLY HELLO part1」「ONLY HELLO part2」についての質問からスタートさせていただこう。

「誰もが永遠に生きることはできない」という問題に、どう対処するべきなのか…

YG:新作には従来のINABA/SALASらしい元気な曲もたくさんありますが、むしろアルバムの最後に収録されているメロウな「ONLY HELLO part1」「ONLY HELLO part2」が、まず非常に印象に残りました。組曲のような形になっているのも面白いですし…この曲が生まれた背景を教えてもらえますか?

スティーヴィー・サラス(以下SS):俺は自分の音楽と並行して…それこそ’80年代からなんだけど、色んなアーティストのプロデュースを手がけてきた。最近は中でも、映画やテレビ関連のプロデュースの仕事が多くなっているんだけど、その流れでスティーヴ・ヴァン・ザント(註:ブルース・スプリングスティーンのバンドで長年活躍するギタリスト)に、ブルース・スプリングスティーンの最新ドキュメンタリー映像の試写会に誘われたんだ。それを観て、色々と考えさせられることがあってね。ブルース・スプリングスティーンは若い頃の自分を「不死身」って表現していたけど…今ではもうかなり年齢を重ねている。彼はそのドキュメンタリーの中で、同世代の友人たちがどんどん亡くなっていくことに、どうやって対処していくか話していたよ。で、俺もKOSHI(稲葉浩志)と冗談っぽく言っていたあることについて思い出した。INABA/SALASの最初のツアーの時、“THE OLDEST TEENAGE IDOL IN THE WORLD(世界で最も歳を取った十代のアイドル)”と書かれたTシャツを作ったんだ。自分たちのことをからかうような意味でね。別に若返って子供になりたいわけでも、年齢より若く見られたいわけでもない。むしろ歳を重ねて、より賢くなり、人間としてより良い存在になりたいと思っている。だから俺はKOSHIに電話した。そして「君には多くのファンがいるし、若いファンにとってみれば昔からずっといる存在だ。だからこそ、こういうことについてファンに語れるような曲を作ろう」って言ったんだ。つまりこの曲は「誰もが永遠に生きることはできない」という問題に、どう対処するべきなのか…そんなテーマから生まれたわけ。

YG:結果、稲葉さんが書き上げた「ONLY HELLO part1」と「ONLY HELLO part2」の歌詞は、読んでみると非常に日本人らしい表現になっていると思いました。こういう歌詞がアメリカ人のスティーヴィーの耳に、どう響いているのかとても興味があります。

SS:俺がいろんなアーティストをプロデュースする時…例えばKOSHIと曲を作る時も、ドイツのバンドや南米のバンドと一緒に音楽を作る時も同じだけど、彼らは俺の母国語とは異なる言語で歌詞を書いている。もちろん俺にはその内容を細かく理解することはできない。それに対して俺にできるのは、メロディやフレーズに注意を払って何度も聴くこと。さらに次に、歌詞を書いた人に、どういう意図を持って書いたのかをじっくり訊ねることなんだ。KOSHIは自分が何を書いているのかを完全に理解しているし、解説してもらえれば俺もその歌詞がどんな意図を持っているのか、改めて認識できる。まあただ意味は分からなくても、KOSHIが力強く歌っているエネルギーは感じられるけどね。それに日本の女の子たちに話を聞くと、みんな「稲葉さんは女性なら誰もが聞きたいと思う言葉を歌ってくれる」って言うんだ。いつもKOSHIをそのネタでからかってるんだよ(笑)。

YG:「ONLY HELLO part1」「ONLY HELLO part2」はいずれもシンプルなアレンジで、特に前者は稲葉さんの歌声とスティーヴィーのアコースティック・ギターをメインに構成されていますよね。それぞれの曲にどんな楽器編成が最適なのか、どうやって判断しているのでしょう?

SS:俺はただ、本能に従っているだけ。例えば「ONLY HELLO part1」では、KOSHIの歌っている歌詞の邪魔になるものは何も入れるべきじゃないと考えた。思い浮かべたのは、ザ・ビートルズの「Yesterday」だ。あれはポール・マッカートニーがギターを弾きつつ、シンプルな弦楽四重奏の演奏に合わせて歌っているだけだろう? 同じような方法論が、「ONLY HELLO part1」には最も相応しいと思ったわけ。でもKISSの「Beth」のような、あまりにも壮大なストリングスは求めていなかった。あくまでもKOSHIが小さな空間で歌っているかのように、親密に感じられるようにしたかったんだ。

YG:つまり、曲に相応しいアレンジは自然と導かれて決まる…と。

SS:その通り。そして「ONLY HELLO part2」では、サンディエゴに行って、レニー・クラヴィッツのバンドで叩いているドラマーのフランクリン・ヴァンダービルトと録音した。俺が目指したのはビッグなレッド・ツェッペリンのような…例えばザ・ビートルズで言うと「Hey Jude」だ。みんなで歌って盛り上がれる、まるでデヴィッド・ボウイみたいにすごく古いサウンドにしたかった。といった具合に、それぞれの曲を聴けば何がベストなのか分かるんだよ。例えば車を買うようなもので、シートはどんなのがいいか、マニュアルがいいかオートマがいいか…色々と考えるよね?

YG:分かりやすい比喩ですね(笑)。続いて、オープニング曲「YOUNG STAR」について。この曲ではギターやリズム隊のサウンドが、まるで大きな1つの塊となって迫ってくるようで、聴いた瞬間に「まさにスティーヴィー・サラスだ!」と感じました。

SS:うん、俺のサウンドそのものだよ。実はイントロのギター・リフは、1985年に録音したものなんだ。あれは俺が高校を卒業したばかりの頃のこと。友人の家のキッチンで、フォステクス製の小さな4トラック・カセットMTRを使って録音したんだ。ギターはトム・ショルツが開発したロックマンのアンプと、BOSSのオクターヴァー・ペダルを通して演奏した。すごく奇妙な音だよね。俺はこのことを長らく忘れていたんだけど、思い出したきっかけはパンデミックだ。あの頃は自由な時間がたくさんあったから、自分の音楽ルームを整理し、昔のカセットテープやDATが入った箱を見つけたわけ。「おお、すげえクールじゃん!」って思い、今回のアルバム制作で新しい曲に取り掛かる際、KOSHIに聴かせたんだよね。「どう思う? ちょっと変過ぎるかな?」ってね。そうしたら「すごくいい!」って言ってくれた。

YG:すごい話ですね!

SS:だよね。で、そのサウンドを改めて再現しようとして、レコーディングし直したんだけど…どうしても無理でね。ジム・ダンロップが最近、ロックマンのアンプのリイシュー・ペダル(“X100”)をリリースしただろ? だからあの会社で働いている友人に電話して、それを借りたりもしたよ。他にも考えうるあらゆることを試したんだけど、やっぱり上手く再現できなかった。BOSSのオーヴァードライヴとオクターヴァーも使ってみたけど、なぜか「ブー、ブー、ブー」みたいな音しか出なかった。で、結局、1985年に録音した音を“Pro Tools”でサンプリングし、編集したんだよ。CDに入っているのはその音なわけ。あれから他にも色々試してみたけど、一度たりとも再現できたことはないんだ。本当に奇妙だよね。

YG:ちなみに稲葉さんの書いている歌詞は、ロック・スターになることを夢見ている若者について…ですよね?

SS:俺が聞いているのは、KOSHIが住んでいた町の、小さなレコード店についての話だってこと。 そのお店が“YOUNG STAR”という名前で、みんなが音楽を聴きに集まるような場所だったんだって。

YG:スティーヴィーが今話してくれた「友達の家のキッチンでレコーディングして~」という内容と、その歌詞が何となくリンクしているような気がして、面白いと思いました。

SS:それこそが、KOSHIの書く歌詞のマジックなのかもしれないね。聴く人によって、歌詞から受ける印象が違う。まさに名人技だ。

がっちりと組み合わさっていて、決して壊すことはできない

YG:例えば「Burning Love」や「LIGHTNING」などでは、色々な楽器が分厚く何層にも重ねられていますが、よく聴いてみるとユニゾンが多いですよね。こういうのも意図したところですか?

SS:その通り。俺はユニゾンを多用するよ。俺はそれを“ロープ”って呼んでいる。つまり、ロープは細い紐がより合わさって、1本の太い紐を形成しているよね? それと同じようなもので、ベースとギターとキック・ドラムが一体化して、大きな太い1つのサウンドになる。がっちりと組み合わさっていて、決して壊すことはできない。「Burning Love」は分かりやすい例だよね。いくつも音を分厚く重ねて繰り返し聴かせることにより、相手を催眠術にかけるようなものだ。ポリスが『GHOST IN THE MACHINE』(1981年)を作った時も、似たような方法論を取っていた。「ドゥ・ダ、ドゥ・ダ、ドゥ・ダ」というフレーズの上にレイヤーを重ねていくと、まるで催眠にかかったように引き込まれる音になる。ジェームス・ブラウンやブーツィ・コリンズもよくやるよね。丈夫なテーブルのような土台の上に、幾層にも重ねたメロディを被せるわけだ。

YG:ポリスの名前が出ましたが、2曲目の「EVERYWHERE」、この曲はイントロの開放弦を用いたアルペジオが少し「Every Breath You Take」(1983年『SYNCHRONICITY』収録)を彷彿とさせますよね。この辺りはリスペクトが出たところですか?

SS:いや、実はポリスじゃなくてサイケデリック・ファーズ(註:イギリス出身のポストパンク・バンド)のことをイメージしていたんだ。’80年代前半には、多くのバンドが似たようなアルペジオのフレーズを使っていたんだよね。違う年、違う場所で…だ。その中にポリスのあの曲があったわけ。ちなみに今回のアルバムにも参加してくれているベーシストのアルマンド・サバルレッコが、(ポリスの元ドラマーである)スチュワート・コープランドとも一緒に仕事しているから、「この曲でスチュワートにドラムを叩いてもらえたりしないかな?」って頼んでみるというアイデアもあった。でも…ちょっと待てよ、それじゃあまるっきりポリスみたいじゃないか!って考え直した(笑)。そんなの、絶対にスチュワートに演奏してもらうわけにはいかないよね。たださっきも言った通り、俺としてはサイケデリック・ファーズのようなサウンドにしたかったんだよ。

YG:でもある意味、スチュワート・コープランドが参加していれば、リスペクトを直接表現することにもなるので良いアイデアだと思うんですが…。

SS:もし最初からポリスへのトリビュートを狙っていたのなら、そうしたかもしれないね。ちなみにもしこの曲が世界中のチャートでナンバー1になって、ポリスのレコードと同じくらい売れたら、俺はすごい金持ちになれるかも…。冗談だから本気にしないでくれよ!(笑)

YG:(笑)この曲…に限らず、アルバムの中のどの曲もそうなんですが、ギター・ソロが非常に練り上げられていて、一緒に歌えるメロディになっていますよね。

SS:いや、実はそんなに練ったわけでもない。ジミ・ヘンドリックスみたいにアドリブで弾きまくりたい曲と、そうじゃない曲があるんだよね。俺はこれまでにジャスティン・ティンバーレイクからミック・ジャガーまで、70~80枚ものアルバムでセッション・ギタリストとして演奏してきた。だから曲にとって何がベストなのか、見極めるのが大切だってことはよく分かっている。で、今回のアルバムの曲では、俺がヘンドリックスばりに弾きまくれる余地があまりなかったんだ。どちらかというとメロディの構成が重要だったんだ。例えば前作『Maximum Huavo』(2020年)はポップな曲が多くて、攻撃的なギターがたくさん入っていたよね。でも俺のスタンスとしては、ギターはあくまで曲をサポートするものだ。ギターが曲をサポートするのではなく、曲がギタリストをサポートするような、そんな曲は作りたくないんだよね。

YG:なるほど。と言いつつ、ギター雑誌なのでギターに偏った質問ばかりして申し訳ないですが(笑)。

SS:いやいや、それはOKだよ。まあでもギター・プレイヤーなら、曲にとって何がベストなのかを考えるべきだって、言いたいことは分かってもらえるよね? もしこのインタビューを読んでいる君が、セッション・ギタリストとして成功したいと思っているならなおさらだ。かつてのジミー・ペイジのようにね。つい最近、レッド・ツェッペリンのドキュメンタリー映画を観たんだけど、ジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが、ジェームス・ボンドの映画で有名なシャーリー・バッシーの「Gold Finger」(1964年)でギターとベースを演奏しているなんて、俺はそれまで知らなかった! つまり彼らは自分のエゴで演奏せず、曲にとってベストな演奏をしていたわけだ。

YG:前作の話が出てきたので、ちょっと脱線してもいいでしょうか? 楽曲中心だった1stアルバム『CHUBBY GROOVE』(2017年)に対して、『Maximum Huavo』はスティーヴィーの言った通りギター・ミュージック寄りの作風になっていましたよね。今作『ATOMIC CHIHUAHUA』は、どちらかと言うと1st寄り。この変化はどういうところから来ているのでしょう?

SS:俺たちは35年もの長い間、友人として付き合ってきたから、俺はKOSHIのことはよく知っているし、彼も俺のことをよく知っている。2人の共通認識としては、「稲葉浩志が歌うスティーヴィー・サラス・アルバム」や「スティーヴィー・サラスが演奏する稲葉浩志のアルバム」は作りたくないということだった。俺はいつもKOSHIのソロ・アルバムにゲスト参加しているし、似たようなことはもうやってしまったからね。むしろ「女の子たちが踊れるような曲を作ろう」って、最初の頃にそういうルールを作ったんだ。ただただ楽しむための音楽さ。で、それを1stアルバム『CHUBBY GROOVE』として、INABA/SALASという名義で出すことになったわけ。「えっ?」って感じだったよ(笑)。最初は全然、そんな話じゃなかったのに。

YG:面白い経緯ですね。

SS:でも『CHUBBY GROOVE』ではギターをみっちりと練る時間があんまりなかったんだ。 あそこで聴けるほとんどのギターは、アイデアを書き留めるぐらいのものだった。当時は「明日までに録音を済ませなければいけない」ぐらいの状況だったから(笑)。で、『Maximum Huavo』ではKOSHIが「もっとギターを弾こう、もっともっと」って言ったんだ。俺は夢中になって弾いたよ。だからあの作品は本当にクールなギター・アルバムになったし、アグレッシヴなキラー・ディストーション・サウンドが詰まっていた。…ただ後から聴き直すと、ちょっと弾き過ぎたかもしれない。だからその反省もふまえて、『ATOMIC CHIHUAHUA』では再び楽曲中心の作品にしたいと思い、ギターには必要以上にこだわらないようにしたんだ。

ヴィンテージの感性と現代のテクノロジーを融合させると、最高のものが生まれる

YG:今日このインタビューの場に、ツアーで使うギターを持参していただいたんですよね?

SS:ああ、そうなんだ。ちょっと見てみる? ちなみにこのギター・ケース、すごいんだぜ。3本も入るんだ。ENKIっていう会社のケースなんだけど、これはぜひ記事に書いておいてもらいたいな(笑)。

YG:(フレイマス製のスティーヴィー・サラス・モデル“Idolmaker”を手渡されて)けっこう弦高が高いんですね。

SS:ああ、それは調整する必要があるかな。テキサスから空輸されてきたばかりだから、ネックが反っているかもしれない。このギターはネックの裏まで、鏡のように反射するフィニッシュになっているのが気に入っているんだ。

YG:あなたのシグネチュア・モデルを知らない人に“Idolmaker”を簡単に紹介するとしたら、どこがアピール・ポイントになりますか?

SS:例えば君がジャズ好きでもメタル好きでも、あるいはオルタナティヴ・ロックやパンクが好きでも、このギターならすべて上手く弾ける…そんな万能のギターになっているのが気に入っているポイントなんだ。ボディは大きめだけど、実はそんなに分厚くない。音ってのはすべてボディの中央で生まれるから、このギターでは中心部だけ分厚くなっていて、外周の部分は極薄になっている。

YG:なるほど。ちなみにこの流れで、『ATOMIC CHIHUAHUA』のレコーディングで用いたアンプやエフェクターについても教えてもらえますか?

SS:俺は長年ずっと、同じものを使っているんだよ。少し古いヴィンテージ寄りのものばかりだ。古いマーシャル、古いフェンダー“Deluxe Reverb”、古いボグナー…。あとは例えば、イタリアのLAAカスタムが作ってくれた、“Nishi Drive”というシグネチュア・オーヴァードライヴもある。ジム・ダンロップのペダルもたくさん使ったな。“Cry Baby”はずっとお気に入りだし、さっき言ったロックマンのリイシュー・ペダルも、すごく変わった音がするから大好きだ。それから外せないのが、グラフィック・イコライザー。いわゆるV字型にセットして使うと、音が綺麗になるんだ。逆向きにしてブーストさせるという、昔ながらのやり方もあるけどね。…といった具合に、俺としては今でも昔ながらのアプローチを取り続けているわけ。デジタル機器はあまり使わない。

YG:面白いですね。スティーヴィーはエレクトロ・ダンス・ミュージックにも通じているので、どちらかというと最新の機材を使っていても不思議ではないのに。

SS:そうなんだ。ダンス・ミュージックを作るDJについて考えてみれば、例えばスウェーデン出身の亡くなったアヴィーチーなんか素晴らしくて、彼はよくバンジョー奏者を自分の曲に使っていたし、古いアナログ楽器を現代のエレクトロ・ミュージックに取り入れていた。彼は作曲もしていて、大ヒットしたよね。つまり古いものと新しいものを上手く組み合わせたものこそが、最高だということだ。レニー・クラヴィッツはヴィンテージのギターしか使わないけど、彼は俺の持っているグヤトーン製“Wah Rocker”をよく使う。それも今となっては古いものだけどね(笑)、手に入れたのは1993年だからさ。また車に例えるけど、古いフェラーリはがっちりしていて頑丈で、新しいフェラーリは空力特性に優れている。それらを組み合わせると…つまりヴィンテージの感性と現代のテクノロジーを融合させると、最高のものが生まれるんだ。

YG:では最後に、読者に対して何か一言いただけると。

SS:俺としては、若いミュージシャンたちに勇気を与えたいね。30年前にヤング・ギターに初めて登場した時にも、同じことを言ったよ。
「自分が何を学んできたかをよく考えろ。基礎を固め、それを土台としてさらに上を目指せ。曲を最も重要なものにしよう。そうすれば成功できる」…ってね。あ、そうそう、俺の新しいテイラー製シグネチュア・アコースティック・ギターがあるんだけど、それもチェックしてくれよ(笑)。

YG:それはどんな仕様なんですか?(笑)

SS:俺がKOSHIと一緒に曲を作っていた時、彼が持ってきたギブソンのアコースティックを触らせてもらったんだ。1940年代の本当に古いギターで、ネックの感触がまるでエレクトリック・ギターのようだった。それに全体的に軽くて、ロックを弾くのに最適だったよ。だからテイラーに、「1940年代のヴィンテージ・ギターのような感触のギターを作ってほしい」って頼んだんだ。

INFO

ATOMIC CHIHUAHUA / INABA/SALAS

2025年2月26日発売 | VERMILLION RECORDS | CD、配信

Amazonでチェック

公式インフォメーション
B’z Official Website

INABA/SALASライヴ・レポート 2025年3月23日 千葉LaLa arena TOKYO-BAY

INABA/SALASがさる3月、8年ぶりとなるツアーを開催した。ご存知のとおりこれほどまでに間が空いてしまったのは、予定されていた2020年のツアーがコロナ禍で中止になってしまったからだ。今回のツアーは稲葉浩志とスティーヴィー・サラスにとってようやく叶ったリベンジの機会であり、彼らの音を生で人々に届ける待ちに待った機会。…であると同時に、もしかするとこれが(INABA/SALASとしては)最後のツアーになるかもしれないとの情報も、公式から伝えられていた。ファンにとって決して見逃せないそんなツアーの中から、ここでは終盤の3月23日に行なわれた千葉LaLa arena TOKYO-BAY公演の模様を、駆け足でお届けしよう。

開演時間が近づくにつれてざわめきが高まる中、会場が暗転すると、ファンキーなリズムに合わせステージ前面に張られた紗幕にメンバーたちの踊る影が写し出される。その影が稲葉とサラスの2人だけになった瞬間、歓声が一際大きくなり、新作からの「Burning Love」のギター・リフがスタート。アルバムよりも少し伸ばされたイントロで期待を煽ってから、稲葉の最初の歌声が会場に響くと、一瞬にして空気が華やかになる。それに続くのは2ndアルバム『Maximum Huavo』からの「U」「Violent Jungle」というライヴ初披露の2曲で、幻に終わった2020年のツアーの悔しさを晴らすかのように、観客はバンドの生み出すサウンドに反応し手を振り上げる。

INABA/SALASの作風を分かりやすく言えば「隅々まで緻密に作り込まれたファンキーなダンサブル・ロック」だと思うが、ライヴの場で聴けるのは楽曲の中から重要成分のみを抜き出してシンプル化し、生のミュージシャンの演奏で魅力を増幅させたサウンド。それを支えるサポート・メンバー陣は、クラウデッド・ハウスやベックでのドラミングで知られるマット・シェロッド(dr)、ポール・サイモンなど錚々たるアーティストとの共演で有名なアルマンド・サバルレッコ(b)、そしてB’zのサポートでもお馴染みの才能あふれる若手サム・ポマンティ(key)という3人だ。彼らの音を背後に背負い、稲葉もサラスも水を得た魚のように、エネルギッシュに歌いプレイする。特にサラスのギターは会場の空間を埋めるかのように音像がミックスされており、それがロック感を強化。「Violent Jungle」のワウを使ったソロも、「OVERDRIVE」に加えられたジミ・ヘンドリックス的なイントロも、「Boku No Yume Wa」のジャキジャキで鋭いカッティングも、そのどれもがクールで耳を引くのがニクい。

先述のようにリベンジ的意味合いもあるとは言え、やはり主役となるのは最新アルバムの楽曲だ。同作から続いて披露されたのは、しっとりと情感を煽る「DRIFT」。ここで稲葉が聴かせた歌声の素晴らしさは筆舌に尽くし難いほどで、生のダイナミクスが加わったおかげで恐ろしい感動を与えてくれる。また「ERROR MESSAGE」「正面衝突」といったパワフルなナンバーの後に披露された(新作からの)「ONLY HELLO part1」も、表現力の素晴らしさは同様。ここではサラスがテイラーのアコースティック・ギターに持ち替え、アルバムで聴けるストリングスの音さえもなくした超シンプル・アレンジになっており、いわば全くごまかしの効かない“素材そのもの”の形。それでいてこの完璧なパフォーマンスというのは、なんともとてつもないではないか。

再びスティーヴィー・サラスのギターに焦点を当てると、今回彼はインタビュー中でも触れられていたフレイマス製シグネチュア・モデル“Idolmaker”を中心に、数本をフレキシブルに使い分けていた。ショウ後半では上手い具合に次から次へと違うギターが出てきたので、曲を追って見ていくと…「Demolition Girl」「YOUNG STAR」では2ハム・レイアウトのホワイト・モデル(ネック・ポジションはシングルサイズのハムバッカー)、「Mujo Parade ~無情のパレード~」ではSSHレイアウトのブルー・モデル、「KYONETSU ~狂熱の子~」ではSHレイアウトのパープル・モデル(ネック・ポジションはセイモア・ダンカンのシングルコイル“Phat Cat”)、アンコール1発目の「AISHI-AISARE」では同じくSHレイアウトのクローム・モデル…といった具合。他にも木目が美しい“Panthera II”がセットアップされていた他、ショウ前半の「Boku No Yume Wa」「IDODORI」などではスイスのS71ギターが制作した左利き風カスタム・モデルも使用されており、いずれも全く異なるサウンドで耳を楽しませてくれた。

アンコール最後の「ONLY HELLO part2」ではサラスがインタビューで「Hey Jude」的と表現していたような、会場中が一体となった大合唱が巻き起こり、締めくくりに相応しい大きな盛り上がりを創出。その歌詞にあったように、今回のツアーは“Never Goodbye Only Hello”とタイトルが付けられており、「たとえ会うことが叶わなくなった人でも、自分の心の中ではいつでも会える」という前向きなコンセプトが掲げられている。それを踏まえての稲葉からの「また会いましょう、Hello!」の言葉は実に屈託なく心に響き、ショウが終わってしまった後の寂しさよりも、ポジティヴさの方が大きかったことを最後に付け加えておこう。

INABA SALAS @千葉LaLa arena TOKYO-BAY 2025.3.23 セットリスト

1. Burning Love(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
2. U(from『Maximum Huavo』)
3. Violent Jungle(from『Maximum Huavo』)
4. OVERDRIVE(from『CHUBBY GROOVE』)
5. Boku No Yume Wa(from『Maximum Huavo』)
6. DRIFT(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
7. ERROR MESSAGE(from『CHUBBY GROOVE』)
8. 正面衝突(from『Peace Of Mind』/稲葉浩志)
9. IRODORI(from『Maximum Huavo』)
10. ONLY HELLO part1(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
11. マイミライ(from『Okay』/稲葉浩志)
12. Demolition Girl(from『Maximum Huavo』)
13. YOUNG STAR(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
14. Mujo Parade ~無情のパレード~(from『Maximum Huavo』)
15. KYONETSU ~狂熱の子~(from『Maximum Huavo』)
16. EVERYWHERE(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
17. SAYONARA RIVER(from『CHUBBY GROOVE』)

[encore]
18. AISHI-AISARE(from『CHUBBY GROOVE』)
19. TROPHY(from『CHUBBY GROOVE』)
20. ONLY HELLO part2(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)

(インタビュー&ライヴ・レポート●坂東健太 Kenta Bando)

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