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徳永由希、アルバム『全ての地獄を搔き集めて』のオフィシャルインタビューが到着

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徳永由希

2年前の2023年4月にインタビューをしていたら、その最中に、翌月から活動休止を考えている事を明かされた。楽しく可愛いだけの弾き語りでは無くて、怒りや悲しみという怨念や執念や虚無を凄い熱量でアコギ掻き鳴らして弾き語る若手はいないだけに勿体なさすぎて、インタビュー中に必死に止めたのを未だに覚えている。それも、その時のシングルが、ようやく、そういう衝動を音源に落とし込めた2曲だっただけに勿体なさすぎた。


そこから、ちょうど2年。アルバム『全ての地獄を搔き集めて』を引っ提げて、彼女は戻ってきた。恐る恐る再生ボタンを押した瞬間に砂嵐のノイズが聴こえてきて、ファンファーレも鳴っていた。何ていう素晴らしく全てを表現した序章なのだろうと感激した。2曲目ではバンド編成で歌われ、3曲目からラスト10曲目までは、ずっと弾き語りで歌われる。完璧な構成だ。


満を持して2年ぶりのインタビューに挑んだが、彼女は何も変わってなかった。相変わらず虚無だし、頑張ろうとしない事がテーマだとも静かに緩やかに穏やかに言い張る。ただ音楽を辞める辞めない次元にはいなくて、ずっと音楽と離れられないのだとも悟ったという。音楽は楽しくないとも話すが、音を楽だと想わない人が鳴らして歌う音楽は心から信用信頼が出来る。

――2年前の5月に活動休止に入られましたが、直前の4月にインタビューをしております。あの時は、だいぶ疲れがたまっていたという事ですよね?

だいぶしんどかったです。また帰って来る事を考えるのもしんどいくらいでした。何も考えてなかったですね。止まってみないとわからなかったですし、音楽はもうやる側じゃなくていいかなというか。何も考えたくなかったですね。

――僕は何も全く知らなくて、翌月の5月から活動休止に入る事をインタビュー中に知らされたのですが、どんな気持ちでインタビューを受けていたんですか?

気まずかったです。知ってはんのかなとも思ったし、どうしようというか。どこまで言っていいのかなって。でも、あの頃は、お金が無かったんです。まぁ、今も別に無いですけど。当時は歯医者も行けないくらいで、言葉を選ばずに言うと、街中のホームレスを観て、他人事と想えないくらいで。自分も全然なるなと。だから、イレギュラーの怪我や病気も出来ないというか。

――当時も話しましたが、素晴らしいシングル2曲を出したばかりでしたし、その反響を聴いて、活動休止を踏みとどまる感じにはならなかったですか?

褒めてもらったからって立ち直れる感じでは無かったです。あの2曲をレコーディングする時から、もしかしたら人生最後のレコーディングかもと想っていて。そのリリースイベントもチケット売れていない状況で、これはヤバいなと。結局はトントンにはなりましたが、お母さんにお金を借りに行ったりしましたから。30歳の人として恥ずかしくて…。親に大きくは迷惑をかけていなかったのに、遂にお金を借りるとこまできたかと…。音楽をしていい人間じゃないし、恥ずかしすぎて生きてられへんなって。

――イベントを大阪東京共に終えられてからは、いかがでしたか?

ばり清々しかったです。東京は緊張しましたけど、大阪はライブハウスの音響の子に『いいライブやったよね?!』と自分から聴くくらいで。普段は納得できへん日が多いですけど、あの日は違いましたね。

――何かしら覚悟が決まっていたんですかね?

覚悟を決める前にはだいぶ泣いていましたし、活動休止を決める前が一番辛かったかもですね。当時、8年間音楽をやっていて、目立った結果は出していないけど、唯一褒められるとこは止まってない事で。孤立しているのに止まらないのは偉かったのに、それが止まるのかなと。認めたくないというか。誰だってみんな主人公と想っていますから、自分が止まる側の人間とは想ってないですから。ただ、覚悟を決めて活動休止を決めてからは、自分の心のゆとりの為に、ちょっとバイトを頑張ろうと。そしたら、虫歯も全部治せますし。ゴール見えない終わらんマラソンみたいだったのが、一旦ゴールみたいな。めっちゃ楽になりました。なので、前向きでしたね。

――2023年5月からは、どのように過ごしていましたか?

その年に後輩からイベントに出て欲しいと誘われまして、気は重かったですけど、向こうも覚悟を持って誘ってくれたので応えたいなと。11月くらいですかね。出たのは出たのですが、半年くらいブランクあったし、集中が出来なくて、いい思いせんくて。またライブしたいなとはならなくて。でも、2024年の年明けに、知り合いのバンドのTransit My Youthのライブを久々に観たら、良いライブで、私もやろとなって。アルバムも作らなあかんと想えたので、メンバーに曲を送って、そっから今回のアルバムを作ろうと想いました。

――それが2曲目『素晴らしくない日々』ですね。

去年の3月くらいに何となくアレンジもまとまって、スタジオに入って、6月くらいにレコーディングしたんかな。そのバンドアレンジを待っている間に、弾き語りのレコーディングもしていました。サブスクでは配信できていないものとか、ライブでやってたけど音源化していなものとかが中心でしたね。今回で言ったら、本当の新曲は3曲くらいですかね。止まった瞬間からスタッフにはアルバム制作を薦められていて、曲準備出来次第と私次第というか。最初の1年は散歩ばっかしてましたしね。

――バンドアレンジは、この1曲のみとなりますが、バンドアレンジのアルバムを作ろうとは思いませんでした?

全く無かったです。そもそも自分の曲はアコギと歌で完結するように作っていますので。ここに何か欲しいとは思わなくて。最初から弾き語りアレンジのみのアルバムでしたけど、スタッフにわがまま言って、1曲バンドアレンジを入れてもらった感じですかね。それに弾き語りだけのアルバムでは聴いてもらえないと、私は思っていて、だから入り口をバンドアレンジにして聴くきっかけになって欲しいなと。

――そういう意味では1曲目『―opening―』という序章みたいな短いインストナンバーの存在も大きいですよね。

最初は『素晴らしくない日々』が1曲目で、それ以外は弾き語りだったんですけど、それだと1曲だけバンドにして、残り8曲を弾き語りにする意図が薄まってしまうなと思って。リード曲だけ分かりやすく派手にアレンジ、それ以外は手軽に弾き語り、という風に伝わってしまうと、それはちょっと違うなと。もちろん入り口を派手にしておくのは大正解なのですが、弾き語りも勿論本気やし大本命で。だからアレンジの形態が大きく違っていても作品としての纏まりを出してくれる存在が必要だなと思って、オープニングのインストを入れようと思いつきました。

――砂嵐みたいなノイズから始まり、でもファンファーレも聴こえてくるという過酷な旅の始まりが告げられる感じが聴いていてドキドキワクワクしました。

ファーストアルバムでド頭砂風から始まるのは流石に攻めすぎとも思って、エンジニアさんに相談したら、GOサイン頂いたのでこれでいきました。
私、怪談が好きなので、ノイズはその不気味感に引っ張れている部分もあると思います。音楽を頭脳で作れるタイプではないので、ノリというか、とにかく聞き心地重視で詰めて作っていきました。

――このアルバムが完成して、気は晴れましたか?

私は音楽で発散出来るタイプじゃなくて、音楽でもフラストレーションを溜め込んでしまうタイプで。でも音楽でしか自分の気持ちを解放出来ない。歌ってても歌ってなくても最悪。活休してみたけど、自分が音楽を辞めるとか辞めないとかの次元じゃないと気付いて、音楽から離れられるかもという淡い期待も諦めました。
嫌でも側にあるもんなんやろなと。

こんな風にしか音楽を出来ない自分をコンプレックスに思う事もあったのですが、このアルバムは、それごと閉じ込めて届ける事を意識しました。
なのでアルバム完成して気が晴れたとかはあまりないかもしれません。
でも作品作りはやっぱり楽しいです。今までの制作で一番楽しかったです。

――そういう気概で作ったからこそ、素晴らしいアルバムやと想うんですけど、そう想わないですか?

考えた事無いですね。ベストは尽くしましたし、やり残した事は無いっちゃ無いですけど。納得いってないわけでもないですけど、言うたって、もう過去の自分ですから。みなさんが100点というなら100点ですけど、自分から100点とは言わないです。謙遜とかじゃなくてキモイので。

――だけど完全復帰とは言っても良いですよね?

また休むと言うとあれなんで濁しとこうかな。あんま決めんとこうと。やりたい時にやるし。偉そうですけど(笑)。でも楽しかったので、またレコーディングしたいなとは想いますけどね。言うても、まだ戻り始めですから。2年前は頑張り過ぎて止まっちゃったので、今は頑張らんとこがテーマかもです。白黒はっきりし過ぎたい人間なので、そんなに上手く滑らかに緩く頑張ったりサボったり出来るかはわからないですけど、『はい! 頑張ります!』やなくて、『はい! 頑張らんとこうと想います!』がテーマです。

――それで言うと、9曲目『死んでるみたい』が一番好きなのですが、今の話を聴いていてもTHE徳永さんが表現された曲だなと。1行目から『もう諦めています』で始まりますしね。

お世話になってるライブハウスの人にもそう言われたんですけど、自分的には2020年くらいに作った古い曲なんですよね。2019年に初めて全国流通リリースをして、これで世間に見つかると思っていたのに結果全然ついてこなくて、弾き語りというのも認められないし、絶望やって。後3年で音楽を辞めようと。そして省エネで生きていこうとなって作った曲ですね。

――今の頑張らんとこという気持ちと繋がってませんか?!

あっループしていた!

――そして、頑張らんとこうと想っている人にいうのもあれですが、弾き語りという分野を世間に知らしめる為にも、徳永さんには弾き語りをやり続けてもらわないと。こんなに苛立ち悲しみ虚無という衝動と熱量でアコギを掻き鳴らして弾き語っている若手はいないんですよ。

現状どこにも属せてない孤立してる奴になってしまってますが、どこの属性にも分類出来ない事の厄介さも痛いほど分かります。現に私は自分と似たような人となかなか出会えない寂しさが常にあります。ひとりを極める人が増えてきたら嬉しいです。

自分が売れたいというよりは、現時点で未分類とされているものがもう少しポピュラーになって、自分に似た人が一人二人と増えてきて、最終的には自分が生きている間に弾き語り激アツ時代みたいになったら最高です。
私は感動していたいだけです。人の作品や自分の作品に。
そして自分が心の底から惚れ込んだ弾き語りの素晴らしさが、もっと色んな人に伝われば嬉しいなと思います。

――今回のアルバムは本当に素晴らしいので、何も問題は無いと想います。

やりたくてやっているだけの事を褒めてもらえるなんて有難すぎます。

Text by 鈴木淳史
Photo by Yuka Ito

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