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6つの演目を形作る、役者の“美学”とは~『時をかけ・る~LOSER~2』内藤大希×安西慎太郎×木ノ本嶺浩×赤澤ムック座談会

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左から 木ノ本嶺浩、赤澤ムック、安西慎太郎、内藤大希

『時をかけ・る~LOSER~2』が2025年10月30日(木)~11月4日(火)、東京・品川プリンスホテル Club eXにて上演される。歴史のヒーローたちの裏で消えていった「敗者」たちの物語が、ストレートプレイからミュージカルに至るまで多彩なジャンルによりオムニバス形式で描かれる人気作だ。

今作のテーマである「幕末・維新」を表現したビジュアル撮影直後の内藤大希、安西慎太郎、木ノ本嶺浩と脚本を務める赤澤ムックを直撃。今作上演への意気込みだけでなく、前作の秘話や濃密な稽古、作品の成り立ちについて詳しく語ってもらった。

――第一弾となった2024年の『時をかけ・る~LOSER~』やスピンオフ『羽州の狐』の好評を踏まえての第二弾。振り返りや手応えなどをお聞かせください。

内藤:稽古場には子供の絵本くらいカラフルな5冊の台本が積み上げてあって、それを1冊ずつ消費していくという。このメンバーで、(平野)良さんが演出で、いただいた本を仕上げていく作業がとても楽しかったという思い出が強いですね。大変だったはずなのに、楽しかった。

安西:お客さんに喜んでいただけて、ご要望の声をたくさんいただいたから第二弾がある。そういった意味では手応えを感じていますが、一方で「もっとこうやりたかった」という思うこともありました。物理的な問題なのか、自分の実力不足なのかはわからないんですけど、悔しかった思い出があります。それぞれの担当回があるから「この人には負けねぇ!」って気持ちになって、いい意味で結構バチバチするかなって思ったんですよ。でも、大変すぎて(笑)! 手を取り合う以外の手段がなかった(笑)。

内藤・木ノ本:そう!(笑)。

安西:でも手取り合ってみんなで一緒に上に行っている感じはあったので。それはすごく良かったな。

左から 木ノ本嶺浩、安西慎太郎、内藤大希

木ノ本:僕も大希くんと同じく、ずっと楽しかったですね。限定された時間の中でしたし、お稽古場で初めて「これ、できるのかな?」って思ったこともありました。でもやっぱり皆さん達者で、心強い方々で。特に、前川優希の場を仕切る力がすごくて。

内藤:一番年下なのに……!

木ノ本:そう(笑)。みんなが担っていく役割がどんどん組み合わさっていくのも、見ていて楽しかったですし。お芝居だけでなく、ミュージカルもダンスも殺陣も全部やる機会もなかなかない。そこを喜んでもらえているっていう手応えはもちろんありました。自分の演目の振り返りでいうと、稽古時間がたぶん一番が短かったんじゃないでしょうか(笑)。

赤澤:たしかに、他の作品に比べると少なかったかも(笑)。

木ノ本:ですよね(笑)。僕がひたすら喋る役どころだったんですが、皆さんが合わせてくださるんですよ。ペースメーカーみたいな走り方ができたのも新感覚でした。今までやってきたことをやったんですが、新しい経験ができた舞台だったような気がします。

――オムニバス形式ということで、複数の脚本を書き上げる作業は大変だったのではないでしょうか?

赤澤:短編なので、最初は楽かなって思ったんですけど……普通に書くより調べ物がものすごく多くて、大変で! その量に驚きました。前作は5本で、今作が6本。純粋に本数が増えたのと、幕末や明治維新に関しては近代なので資料がたくさん残っているんです。なので、調べ物は5倍くらいに増えました(笑)。

――配役やジャンルなどはどのように決められているのでしょうか。

赤澤:基本的には、る・ひまわりさん側からご提案いただく形です。内容についてはもちろん、打ち合わせしながら。人物については当て書きです。今作については、完全に当て書きになっていますね。

――この取材時点で、今作は執筆中だそうですね。

赤澤:すでに台本ができているものもあるんですが、根底からガラッと変わる可能性がありますね。ものすごく練っております。

木ノ本:個人的には、(平野)良くんがメインを演じるジャンルが気になります。

赤澤:もちろん決まってはいますが……ここから動くかもしれないので、詳しいことはまだ(笑)。

安西:今回は良さんが演出だけじゃなく演目にも出演されますし、新しい試みが増えます。新しいものが増えるということは、各々の負担もまた増えるということで(笑)。

赤澤:でも今回は、毎回6人中2人はお休みがいるんですよ。初めて楽屋待機という時間が生まれる可能性があります……が、まだわかりません。稽古場で「ここ出ましょうか」となるパターンもありますから(笑)。

安西:たしかに。「たぶん行けるんですけど」って顔をしていたら、良さんに「出ちゃいなよ!」って言われる気がします(笑)。

木ノ本:あり得ますね(笑)。

内藤:ムックさん、現場にも来てくださっていましたもんね。稽古をしながら作っていく過程もあった気がします。

赤澤:そうそう、(音楽担当の)オレノさんもいらっしゃっていて。こんなに稽古場に伺ったのは初めてだったかもしれないです。毎日お邪魔させていただいていました、すみません(笑)。

木ノ本:いえいえ! 良さんとセリフや歌詞の意味をその場でディスカッションしてくださることもあって、すごく助かりました。

内藤:僕らとしては「ムックさん、ここで笑うんだ!」って思うところもありました。

赤澤:私、面白いことであんまり笑わないんです(笑)。むしろ、感動したときに「わぁ、すごい!」って思わず笑ってしまっているんです。

内藤・安西・木ノ本:へー!

――ビジュアル撮影は主演回でのキャラクターで行われたとのこと。現時点で、それぞれの演じる人物や出演回についてはいかがでしょうか?

内藤:僕は徳川家茂ですが、初めて触れる人物ですね。

赤澤:徳川14代目将軍ですね。13歳で将軍になって、21歳で亡くなっています。

安西:(キャスト一覧を見ながら)待って、和宮役で松田岳さんがいる!

木ノ本:また可憐な紅一点が見られる……?

内藤:がっくんの可憐な踊りが! 筋肉質すぎる、キレが激しすぎるあの踊りはもう一回見たい!

木ノ本:ちなみに、前回はダンスの先生に「ごめん、がっくん。キレがありすぎるから少し抑えて」って言われていました(笑)。

安西:上手すぎるからこそ(笑)。僕は岡田以蔵ですね。今回もあるのかな、あのセリフ。

木ノ本:「えきゃきゃ」?

安西:そう(笑)。(ストレートプレイ 安国寺恵瓊『嗤う怪僧』の)台本に、本当に書いてあったんですよ!

赤澤:稽古場で皆さんから「これ、どうやって読むの?」って質問された記憶があります。書いてある通り読んでくださいってお伝えしました(笑)。

安西:いいセリフでしたよね、「えきゃきゃ」。以蔵も言うんですか?

赤澤:どうなんでしょう(笑)。私も「えきゃきゃ」は好きでした。

木ノ本:僕は勝海舟ですね。ムックさんからは、今回もたくさん喋ると言われています。

内藤:待ってください。僕、2番目に名前があるんですが……?

赤澤:サブですね。西郷隆盛ですし、すごく喋る方の相手役ということですし……ねぇ?

内藤:……今、震えています(笑)。

安西:わかります、メインよりもサブの配役に震えることもありますよね(笑)。

赤澤:皆さん、もしかしてサブのほうが意識高まったりします?

木ノ本:はい。足を引っ張れないなと。

安西:空気壊しちゃいけないなって思いますね。

内藤:前回の嶺くんメイン(裁判劇 小早川秀秋『被告人 ヒデトシ』)のときの安西、かなり大事な役どころだったよね。

安西:やばかったですよ。一歩を歩くのも怖かったです。

内藤:最初は嶺くんが台本外していて、脇の僕たちは台本持ってたんです。一通りできたと思って僕らもいざ台本外したら、緊張感に飲まれちゃって全然セリフが出てこない! どのタイミングで差し込むのとかも不確かで、「全然できてなくね!?」ってなったくらい。

木ノ本:大枠できたらすぐ次の台本へって感じでしたもんね。今回でいうと、松田岳くんメインの“エンタメ活劇”が怖いです。壬生浪士ですから……。

赤澤:今回も殺陣は多くしようかなと。

内藤:あ、よかった。俺出てない!

安西:俺も(笑)。

木ノ本:いやいや、「空いてるなら出ようか」ってパターンもありますから(笑)!

撮影された写真を見て爆笑する三人。終始笑いが絶えず取材が進んだ

――先ほど、演じる役は当て書きというお話もありました。赤澤さんは執筆する際、皆さんのどんな要素をピックアップされていらっしゃるのでしょうか。

赤澤:“LOSER”がテーマなので、お話は負けの美学から毎回生み出しています。美学という点でいうと、この6名の役者さんはそれぞれ異なる美学を持っているなと漠然と思っていて。内藤さんはやっぱり“悲しみ”の美学ですね。

内藤:へー!

木ノ本:その心は?

赤澤:やっぱり、明るいからですね。内藤さん自身にこの明るさがあるから、いくらでも悲しい物語を乗せることができる。より悲しい主人公を演じてもらいたくなるんです。安西さんは“ひたむきさ”。ひたむきさの美学が似合う俳優さんですし。

安西:それが、「えきゃきゃ」に繋がったんですか?

赤澤:そう。「えきゃきゃ」で隠す、ひたむきな心(笑)。木ノ本さんは、“達観した当事者性の美学”ですね。すごいと思います。バランスが優れている、のかな?

内藤:(木ノ本に)なんか今、ドキドキしてた?

木ノ本:してました(笑)。ありがたいです、こういうお言葉を聞く機会ってないので。

赤澤:皆さんのすごいところは、さらに支配力があるところ。“悲しみ”“ひたむきさ”“達観した当事者性”の美学をもって、約30分ものあいだ場を自分のものにしている。今回も本当に楽しみにしています。

――今シリーズで上演されるテーマは前回が「関ケ原の戦い」、今回は「幕末・維新」。歴史ファン必見の題材ですが、皆さんはもともと歴史好きですか?

赤澤:私は周りから歴女だと思われていることが多いんですが、まったく。むしろ、地理が好きです(笑)。るひまさんと出会うまでは、興味を持っていませんでした。

木ノ本:僕もそうかも。るひまさんの『ドリームジャンボ宝ぶね~けっしてお咎め下さいますな~』での山内容堂役が初めて歴史上の人物を演じる機会だったんですけど、役をもってして調べるようになりました。地元が滋賀県なので、安土城にまつわることは知識としてあるくらいでした。

安西:僕も浅いですね。「織田信長ってかっこよくね?」くらいの知識です。歴史ジャンルに入るかは微妙ですが、野球が好きなので、野球史はめちゃくちゃ調べていました。ベーブ・ルースの歴史とか。バリー・ボンズやイチローもすでに歴史に残る偉人ですから。

内藤:皆すごいよ。俺、勉強しなきゃいけない時期は「モテたい」しか考えてなかった。モテるにはどうしたらいいのかってことばかり掘り下げてたから……。

安西・木ノ本・赤澤:(笑)。

――最後に、公演への意気込みと読者の皆様へメッセージをお願いします。

内藤:今作では、良くんも演目のほうに参戦します。良くんのお芝居がより近くで見れて、ご一緒できるのが今から楽しみです。前回よりパワーアップした演目をお見せできるように、皆さんにお届けします。

安西:“時る”の大きな楽しみ方は、A~Fの異なる演目が見られるところ。公演ごとに組み合わせが違うことで、僕たちの気持ちの流れも毎回変わります。どれも悲しく、時には喜ばしい愛が詰まった作品になったらいいなと思っています。

木ノ本:前回の公演でいろんなジャンルを経験させていただいて、演劇ってこんなに楽しいんだって思いました。お客様に楽しんでもらえるのはもちろんですが、まず何より俳優が楽しんでやっている作品なんです。また、ずっと楽屋で喋ってるんだろうなって(笑)。絶対、面白いものになると思うので、いろんな組み合わせで見ていただきたいです。

赤澤:安定と破壊を目指していきたいと思います。もちろん、前回を超えるつもりで。でも、突飛なものをやるのではなく、確実に面白いものをお届けして、さらに刺激を入れられたら……と思っているところです。新しい見どころでいうと、前回よりも同じ人物が別の演目に登場する機会が多くなります。演目によって違う見え方をしたり、同じ役者が違う演目で同じ役をやったりもするので、そういったお楽しみもご期待ください。

取材・文=潮田茗、撮影=山崎ユミ

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