「東証の後場が30分延長」は個人投資家にどのような影響がある?
上場企業が発信するものに「適時開示」があります。株価に影響することも多いものであり、ポジティブな発信・ネガティブな発信に関わらず、午後3時過ぎに発表されることが多いです。これはなぜなのでしょうか。最近取引所で売買が可能な時間、いわゆる後場(うしろば)の30分延長が実行されました。30分という僅かな延長ですが、日本の株式市場にとって大きな影響があるものです。詳しく解説するとともに、個人投資家にとってどのような影響があるのかを考えます。
証券取引所の役割と仕組み
証券会社は有価証券の売買を仲介する機関です。株式や投資信託(投信)に限らず、債券やオルタナティブ資産など応用性の高い金融商品を売買することができます。証券取引所の存在意義は、当事者取引の多い新興資産(暗号資産やNFTなど)と比較するとより理解できます。
新興資産は民間の仲介会社こそありますが、買い手と売り手による非公開性の高い当人取引の側面は残ります。このような取引の場合、売り手に悪意があれば即座にトラブルや詐欺に繋がってしまいます。証券取引所の存在は、公開性と安全性を担保するためということもできるでしょう。
証券取引所は東京のほか、名古屋・福岡・札幌の全国計4カ所にあります。それぞれ本則市場(一部・二部)のほかに新興企業向け市場、プロ投資家向け市場があります。今回、営業時間を延長するのは、そのうちの東京証券取引所のみです。ただ、取り扱い取引量や知名度から、「証券取引=東京証券取引所(東証)」と捉えている人も少なくはありません。
なぜ東証は取引時間を30分延長するのか
東証の取引時間は前場(まえば)の9時から11時半と、後場の午後0時半から3時の計5時間です。このうち後場が2024年11月5日から変更され、午後3時半までとなりました。取引時間の延長は、午後2時から3時に延長した1954年以来となります(2011年には昼休みを短縮し、前場の終わりを11時から11時半に変更)。
延長の背景は、2020年10月に大規模なシステム障害が発生したことに起因します。この障害で東証の売買は終日停止し、大きな損害を生じました。
今回、後場の終了時間を午後3時半までとすることで、今後トラブルが発生しても、復旧後に投資家が取引に戻れる機会を確保します。多くの人が「30分延長したところで、それほどトラブルに対しての対策力が向上するのか」と疑問に思いますが、この延長でセキュリティやバックデータの強化が図られると予想されています。しかしその部分については私たちに対して、全面的に情報公開されるものではありません。
クロージング・オークションの導入
また東証は今回の時間延長に合わせて、「クロージング・オークション」と終値を決める仕組みを新たに導入します。この仕組みは取引終了の5分前(15時25分)からは投資家の注文は受けるものの、売買は成立させず、午後3時半に買い注文と売り注文を一斉に突き合わせて終値を決める、というものです。
終値は翌日の寄付き(取引の開始)までその会社の「現在の株価」として扱われることもあり、取引終了の間際に注文が集中したり、注文の取り消しがあったりすることがありました。東証によると仕組みの導入によって注文動向が可視化され、価格決定の透明性が高まるとされています。
東証は投資家にとって株式を購入できる場所であることに加え、海外の投資家などから見て「日本の株式相場を代表する存在」でもあります。各株式銘柄は対象企業の経営に大きく影響するばかりではなく、集合値として日本の経済を代表する指標になります。2020年のトラブルを受けて、日本株市場の信頼度が毀損されることのないよう、対策を加えていることが、新たな仕組みの導入からもわかります。
延長されることによる個人投資家のメリットとデメリット
では30分延長することで、個人投資家にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
今回拡大する午後3時から3時半は、多くの投資家にとって活動的な時間です。遅めの昼食を取りながら、ネット証券にログインする人も多いでしょう。必然的に投資家の取引機会が増え、市場の利便性が高まることが期待されます。
影響を受けるのが各企業の適時開示です。これまで後場が終わってから適時開示をする企業も多かったのですが、今後は後場が開いている時間に開示をするケースも増えるでしょう。ポジティブな情報開示であれば急伸に繋がる一方、逆にネガティブな適時開示は売却の進む失望売りの懸念があります。
取引時間の延長は70年振りですが、後場の終わりにおける終了時間の変更は初めてです。少しずつ各企業の対応体制も整備されていくことでしょう。
まとめ
東証における取引時間の30分延長について解説しました。再び2020年のような大規模トラブルを発生させないためのアップデートは、企業の適時開示におけるタイミングが変化するなど、各所における影響が考えられます。この30分が東証における株取引を改めて活発化させ、日本経済の株価上昇に繋がることを願います。