佐藤流司「エンタメの一つの正解の形」ミュージカル時代劇に手応え! ムビ×ステ舞台『邪魚隊/ジャッコタイ』ゲネプロレポート
映画×演劇のメディアミックスプロジェクト【東映ムビ×ステ】第5弾『邪魚隊/ジャッコタイ』。その舞台公演が、2024年8月9日(金)に東京・サンシャイン劇場にて初日を迎えた。
『邪魚隊/ジャッコタイ』は、江戸を舞台に死刑囚のならず者たちが、恩赦を得るために幕府の隠密部隊として危険な任務に挑む姿を描くアクション活劇。死刑囚たちが闇仕事に挑む姿を“ミュージカル時代劇”という斬新な切り口で表現。舞台に先んじて公開された映画『邪魚隊/ジャッコタイ』は、挑戦に満ちた【東映ムビ×ステ】シリーズらしい内容が大きな話題となった。
舞台では、映画で大暴れした邪魚隊の面々が新たな任務に挑む。鱗蔵役の佐藤流司をはじめ、水野平馬役の阿久津仁愛、スルメ役の橋本祥平、鮒右衛門役の小柳心、比売知役の廣瀬智紀、蓼丸玄庵役の輝馬、多々良役の玉城裕規といった顔ぶれが映画から続投。また、舞台キャストとして新たに蘭舞ゆうや井俣太良(少年社中)、中村誠治郎らが出演する。
初日を前に行われた囲み会見とゲネプロの模様をお届けする。
物語は、今回の任務の舞台となる絶海の孤島の女王・テコナ(蘭舞ゆう)の怪しげな歌から幕を開ける。宝塚歌劇団花組男役として活躍した彼女の存在感ある歌声が、邪魚隊に困難な任務が降りかかることを予感させる。
一方その頃、相変わらずドタバタと騒がしく、それでいて鮮やかに任務をこなす邪魚隊の面々の姿は江戸にあった。映画でおなじみの口上や楽曲、ナレーション(千葉繁)を耳にすると、改めてあの邪魚隊の活躍が再び観られるのだと心躍る。
邪魚隊は、幕府老中・尾形(井俣太良)に呼び出され、新たなミッション——誘拐された幕府要人の奪還を言い渡されることに。邪魚隊の腕輪に仕込まれた毒の解毒係を担う御典医の蓼丸玄庵(輝馬)を引き連れ、一行は孤島に向けて大海原を渡る。
要人解放と引き換えに要求された徳川の秘宝の名を聞いてからどこか様子がおかしいスルメ(橋本祥平)に、映画で倒したはずの多々良(玉城裕規)の再登場など、序盤から雲行きは怪しい。さらに、島に近づいた一行は何者かに襲われ、散り散りに上陸してしまう始末。果たして、鱗蔵(佐藤流司)をはじめとした邪魚隊の面々は、巨大な陰謀とスルメの禁断の過去が絡み合う今回のミッションを無事達成できるのか——。
命と隣り合わせの捨て駒集団・邪魚隊は、佐藤流司に阿久津仁愛、橋本祥平、小柳心、廣瀬智紀といった舞台、それも殺陣やアクションの多い作品を多数経験してきたキャスト陣が揃う。映画でのアクションも見応えがあったが、やはり舞台上での魅せる殺陣の上手さは抜群。
詳細な設定がないからこそ、それぞれが台本から想像を膨らませてキャラクターを肉付けしていったと、以前実施したインタビューで語っていた。そのおかげか、キャラクターとしての魅力に役者の個性が重なり、キャラクター同士の生きたやり取りが際立っていたように思う。
今作のキーパーソンとなるのは、橋本演じるスルメだ。映画では多くの謎に包まれていたスルメの過去が、本作では明らかとなる。語尾に「にょろ~」とつけて話すひょうきんで掴みどころのないスルメと、壮絶な過去を生きてきたスルメとの二面性が、本作のドラマの根幹を担う。橋本の得意とする、全身からあふれ出る感情をぎゅっと瞳や言葉に凝縮させた芝居が役にピタリとハマり、本作の見どころの一つとなっていた。
映画からのキャストでいえば、多々良や蓼丸も意外な一面を見せてくれる。映画で愛する安食満親(石井一彰)を失った多々良のその後や、人物像が深堀りされていなかった蓼丸のキャラクター性など、映画を観てから観劇するファンはよりいっそう楽しめるだろう。日替わりのお楽しみシーンで、邪魚隊に一発芸を無茶振りしては満足げな笑みを浮かべる輝馬も必見。ちなみにゲネプロでは佐藤がその餌食となっていた。
舞台キャストには、テコナ役の蘭舞をはじめ、ウラナミ役の舟木 健(NORD)、タテハ役の竹野留里、尾形役の井俣太良、虎徹役の松本寛也、ゴマダラ役の森 大、ヒイロ役の中村誠治郎といった安定感ある実力派が名を連ねる。
民謡の最高峰の大会優勝した経歴を持つ竹野がその歌声を披露し、井俣と松本はラップ調の楽曲に挑戦する。さらに、殺陣師としても活躍する中村の流れるような殺陣や、EBiDAN NEXTに所属する長福丸役の小林郁大のキュートな歌とダンスなど、この作品ならではの遊び心が随所に散りばめられている。まるで作品全体が型にはまらない邪魚隊を体現しているよう。
緩急の付け方が上手い佐藤を筆頭に、クスッと笑える軽妙なやり取りがあったかと思えば、怒涛の殺陣アクションがあり、胸に刺さるドラマもある。まさに心休む暇のない、約2時間10分。作品を象徴する劇中歌「What's Showing? 邪魚隊」で繰り返し叫ばれる「わっしょい!」のフレーズを、帰り道に自然と口ずさみたくなってしまう。そんな心踊る舞台『邪魚隊/ジャッコタイ』をお見逃しなく。
■囲み会見レポート
ゲネプロの前には、佐藤流司、阿久津仁愛、橋本祥平、小柳心、廣瀬智紀、毛利亘宏(脚色・演出)が登壇する囲み会見が実施された。その模様もお届けする。
ーー初日を迎える今の心境、本作にかける意気込みをお聞かせください。
佐藤:今日という日を迎えられて本当に良かったなという気持ちがあります。この作品はお客様に観ていただいて初めて完成する、そんな作品になっているかと思いますので、今から初日が楽しみです。頑張ります。
阿久津:本当に面白くて熱い、そんな舞台です。皆さんと最高の夏を過ごせたらなと思っています。よろしくお願いします。
橋本:映画の撮影から始まり、この舞台の稽古がスタートして、そして今ここに立って、今日という日を全員で迎えられるということを本当に噛みしめて立たせていただきたいなと思っています。内容も老若男女楽しめるような作品です。夏休みということで、学生の方にもたくさん来てほしいなと思いますし、なんなら自由研究のテーマを邪魚隊にしてもいいんじゃないかと(笑)。そう思ってもらえるような作品を届けたいと思います。
小柳:粒揃いなキャストと、素晴らしいクリエイター陣とで生まれたとても面白い冒険活劇になっているのではと思っています。この作品は僕が客席から観たいくらいで、ボーッと観てパーッとした気持ちで帰れるそんな作品になっていると思いますので、ぜひお楽しみください。
廣瀬:本当に素晴らしい演劇だと出演しながら感じています。作品自体に疾走感があって、わちゃわちゃとお祭りみたいな部分もたくさんありますので、夏を感じていただけたら嬉しいです。
ーー本作の脚色・演出を手がける毛利さんの意気込みもお聞かせください。
毛利:あえてこういう言葉を使わせていただきますが、【東映ムビ×ステ】シリーズ、何作かやらせていただきましたが、間違いなく最高傑作と言える作品になってるのではないかと思います。
一同:おお~!
毛利:音楽の和田(俊輔)さん、作詞の藤林(聖子)さん他、素晴らしいクリエイター、スタッフの皆さんが集まり、最高にかっこよくてバカな役者が集まり、稽古していて本当に楽しかったです。自分たちはやりたいことやっているんだという気持ちでこれまで1ヶ月みんなで頑張ってきました。本当に早く皆さんに観ていただきたい。そんな気持ちでいっぱいです。
ーー見どころや注目ポイントを教えてください。
佐藤:個人的なところで言えば、最後に大立ち回りがあるんですが、昨日そのシーンの場当たりを1回やっただけで靴が壊れました(笑)。急遽予備を増やしてもらっているところでございます。そのシーンでは衣裳も少し変わるんですけれども、ギリギリまで調整してくださっていて、全てにおいてこだわりを感じられるシーンになっているかと思いますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
阿久津:たくさん殺陣とアクション練習をしたので、そこを皆さんに観ていただきたいです。あと流司くんのアクションがめちゃくちゃかっこいいので、そこもぜひ注目してください!
橋本:みんなで行動することの多い邪魚隊の中で、今回のスルメはちょっと違和感のある立ち位置なんですが、その違和感を観ていただきたいです。個人的な見どころとしては、小道具です。細かなところまでスタッフさんの遊び心がふんだんに感じられるので、そういう細かいところもチェックしてもらえたら嬉しいです。
小柳:この作品は、枝の部分にも見どころがたくさんあって、とてもきらびやかです。その枝葉がすごくきらびやかだからこそ、幹としてしっかり作品を支えてくれているスルメとテコナの関係性と、そこの演劇的な部分をぜひご堪能いただければなと思います。
廣瀬:今、心ちゃんが言っていたように、この作品を1本の木だとすると、そこに1輪咲く“比売知”の花……。
小柳:あ、ご自身のこと(笑)?
廣瀬:はい、今作のヒロイン・比売知です。というのはジョークなんですが。
一同:(笑)
廣瀬:やっぱり映画でスクリーンを通して見ていたキャラクターたちが、目の前で躍動する姿というのは感動していただけるんじゃないかなと思っています。舞台から参加のキャストの方々も個性を生かして役作りをされていて、本当に目が足りないくらいだと思いますが、全てが見どころとなっています。
ーー演出の毛利さんから見た見どころはどこでしょうか。
毛利:やっぱり映画よりスルメが顔出ししているところですかね。そうですよね、流司さん。
佐藤:さようでございます。本日、スルメ役の橋本祥平さん、クランクインです。おめでとうございます。
一同:(笑)
佐藤:すみません、一つよろしいでしょうか。先ほどスタッフサイドから、映画も観たくなるようなコメントをしてほしいと言われていたんですが、すっかり失念しておりました。ここまで映画の話をまったくしておりません、失礼いたしました。え〜ですので、映画も観てください! ですが、私個人の意見としましては、映画は観てなくても大丈夫だと思います。なぜかというと、舞台を観たら絶対映画も観たくなる。そういう自信がございます。この作品は、舞台におけるエンターテインメントの一つの正解の形だと思います。これをつまらないなんて言う人がいたらひねり潰してやります、というくらいの意気込みで本番に臨みますので、どうぞよろしくお願いいたします。
キャスト陣の「よっ!」という掛け声とともに、主演の佐藤が前のめりに熱く意気込みと見どころをコメント。ところがこのあと、司会からさらに「佐藤さん、最後のメッセージをお願いします」と追加のメッセージを求められる形に。佐藤は「いまのが締めのメッセージだと思ってた(笑)。すべて喋り尽くしてしまいましたが……」と前置きをしながらも「何度も観たくなるし、腹を抱えて笑ったり胸が熱くなったり、本当に素晴らしい作品です!」と、再度作品をアピール。最後まで賑やかな囲み会見となった。
取材・文・撮影=双海しお