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【逗子 イベントレポ】小坪漁師タクシ2025ー-漁師さんと巡る逗子の海

湘南人

画像出典:湘南人

千年続く漁師町・小坪のあたらしい海業

逗子マリーナがあることでも知られる小坪湾には漁港として紡がれてきた千年もの歴史があります。その名が初めて文献に登場するのは鎌倉時代に編纂された「吾妻鏡」。源頼朝がここに妾の亀前を住まわせていた頃には鎌倉に魚貝を供給していたそうです。

時は流れ、1970年に漁港が造られたときには漁師が100人以上、船も100艘以上ありました。統計を取り始めてから最盛期となった1989年の水揚げ量は最盛期466t。それが2020年には73.7tまで落ち込んでいます。

画像出典:逗子市

逗子でただ一つの地場産業でもある小坪漁港。そこで生きる漁師さんたちの暮らしを守っていく為に漁協が逗子市経済観光課と共同で推進しているのが「海業」。中でも漁港を観光コンテンツ化したのが今回試乗させて頂いた「漁師タクシー」。漁をしていない時間帯に逗子・葉山の海を漁船でクルージングするという逗子の新たなマリンレジャーです。その実用化に向けた五回目の実証実験が3月2日に行われました。

画像出典:湘南人

初夏のような3月に喜べない理由

当日は3月にもかかわらず初夏のような陽気。マリンレジャーには最高のコンディションなのですが、手放しで喜べない理由がありました。それは小坪漁港の特産物である「わかめ」。寒い時期に冷たい海の中で生長する海藻です。ところが2024年は10月に入っても何度も夏日を記録するような異常気象。おかげで冬になっても海水温が思うように下がらず、生育が遅れていました。本来ならこの日は毎年恒例の「小坪わかめ収穫祭」も予定されていたのですが、こちらは生育不良で中止に。

実はそんな環境の変化こそが、小坪漁港の水揚げ量を減らした原因であり「漁師タクシー」を生んだきっかけでもあったのです。

漁師タクシー体験記

今回乗船させて頂いたのは「鮎丸」という漁師さん二名を含む6~7人乗りの漁船。わたしは小学生の子どもとともに乗せて頂きました。乗船料にはライフジャケットのレンタル代も含まれています。

画像出典:湘南人

小坪漁港の岸壁を出港。穏やかな凪の海を滑るように沖に進んでいきます。スピードは速過ず遅過ぎず。潮風が心地良く頬を撫でていきます。右手に江ノ島を眺めつつ、ウインドサーフィンの群れを通り越してさらに沖へ出ると行く手には水平線だけが広がっていました。

画像出典:湘南人

「霧が晴れてれば富士山が見えたんだけどね」と漁師さんが申し訳なさそうに言いました。いつもこんなところで働いている漁師さんを羨ましく思いました。
「ここからは逗子の漁場じゃないんだけどね」
低空飛行のカモメと追いかけっこを楽しみながら船は名島へと向かっていきます。裕次郎灯台の向こうに葉山の街並みが広がっています。
「森戸海岸が見えるよ」
子どもたちもうれしそうにはしゃいでいます。海から見る海岸線はいつ見ても新鮮な驚きをくれます。

画像出典:湘南人

和賀江島周辺で船を止めると漁師さんが言いました。
「海の中を覗いてみる?」
船縁から子どもと一緒に覗き込むと底の砂地まで透けて見えました。
「すごい透明度ですね」と褒め言葉のように伝えると「よく見えるでしょ?」ともう一人の漁師さんが苦笑いしていました。
「昔はアカモクなんかが船に絡みつくぐらい生えてて何も見えなかったんだけどね」

画像出典:湘南人

磯焼けによる海の砂漠化です。海水温の上昇で越冬するようになったウニなどの食害でカジメやテングサ、アカモクなどの海藻が100分の1程度まで減っているんだそうです。海藻が生い茂る藻場には稚魚や稚貝が育つ海のゆりかごとしての機能もあります。それが消えるということはそこで育っていた魚や貝も消えるということ。

「サザエもアワビも獲れなくなっちゃったんだよ」

その影響は漁師さんたちの暮らしを、そしてそれらを食べていたわたしたちの食卓にも及びます。

「子どもの頃、漁師さんが『海がしょっぱいうちは大丈夫だ』って言っていたんだけどね」

水揚げ量が減ったのは海水温の上昇だけではないと思う、と漁師さんは言いました。護岸工事の結果、山から海に流れ込む川の水が栄養分のない真水になってしまったのも原因なのではないかと。さきほど覗き込んだ透明度の高い海を思い返しました。わかめの生育が遅れているのも海の栄養分が減っていることと関係しているのかもしれません。

原因は複合的で解明されていないことも多いですが、ひとつだけはっきりしていることがあります。それは、すべてはわたしたち人間が招いた未来だということ。

40分に及ぶ漁師タクシーでの遊覧はクルージングという非日常体験のみならず、地域貢献にもなり、環境課題も共有できるという学びのある時間でした。

千年続く漁港を未来に繋いでいく為に

小坪漁港では今年も春を告げるわかめの天日干しが始まっていました。昔ながらの変わらぬ風景です。この風景を子どもたちに残していく為にわたしたちに何ができるのか。漁師タクシーはひとり一人が考えるきっかけになってくれるのかもしれません。

画像出典:湘南人

第5回漁師タクシー実証実験 漁師と巡ろう逗子の海

開催日時

2025年3月2日 09:00〜15:30

開催場所

小坪漁港(渚マリーナ行、遊覧)、渚マリーナ(小坪漁港行)
住所:逗子市小坪

駐車場:近隣に有料駐車場あり

参加費

片道:1人1,000円/約15分

遊覧:1人2,500円/約40分

※実証実験中の為、参加費は今後変動する可能性があります。

主催

小坪漁師タクシーチーム・逗子市経済観光課

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