TVアニメ『フードコートで、また明日。』古賀一臣さん(監督)インタビュー|“何も起きない会話劇”をアニメにする挑戦
全6話構成で、現在アンコール放送がされているTVアニメ『フードコートで、また明日。』。和田(CV.宮崎ヒヨリ)と山本(CV.青山吉能)がフードコートで駄弁っている日常を描き、その中で、ちょっと心が動くようなドラマがあるのだが、一見、アニメとして描くのが難しそうな本作について、どのように映像化していったのか、主要スタッフに話を聞いた。
全3回でお届け中のインタビュー第2回は古賀一臣監督。声優のお芝居についてや、OP/EDアニメーションの制作秘話を語ってもらった。
【写真】『フドあす』古賀一臣監督が語る“何も起きない会話劇”をアニメにする挑戦【インタビュー】
スタッフのセンスと才能が活きたシリーズ構成とキャラクターデザイン
──原作を読んだときに、魅力的に感じた部分を教えてください。
古賀一臣監督(以下、古賀):2人の会話だけで進行する何も起きないようで2人の間で確かに進行しているドラマでしょうか
──原作の話数順ではなく、入れ替えたシリーズ構成になった理由を教えてください。
古賀:今回の構成に関しては花田さんに全てお任せした形です。僕からは1点だけ「ショートエピソードの3〜4本立てで…」ということくらいですね。素晴らしい脚本を仕上げていただきました。
──花田さんの脚本の素晴らしいところはどんなところですか?
古賀:全てにおいてセンスの良い方だなと尊敬します。特に会話劇における緩急や掛け合いのリズム感が映像でしっかりと想定できていると感じました。
──今作は和田と山本が、ただ駄弁っているだけの話が展開していきます。映像にする際の苦労などはありましたか?
古賀:一番は絵変わりが少ないので単調なカットつなぎになりやすい…といったところでしょうか。
気(手)を抜くとバストサイズのキャラが切り返しで映るカット兼用の連続になりがちですが、そこに会話の内容から様々なシャレードや、その時のキャラの感情の揺れを元に画角の変化を入れて工夫するのは演出の醍醐味と言えると思います。そこに遊びがいがあると思える人は、演出に向いていますね。
──キャラクターデザイン・総作画監督の坂井さんには、どんな要望をしましたか?
古賀:キャラデザに関しても坂井さんにお任せでした。『坂井久太が描く女の子キャラは可愛い』…これはアカシックレコードに刻まれた宇宙の真理です。坂井さんはとても少ない線の情報量で魅力的なキャラを描ける方で、可愛いキャラの黄金比とも言えるラインを引けるのが素晴らしいと思います。
一番最初のエピソードには2人が駄弁る理由と関係性が描かれている
──和田と山本の声は、宮崎ヒヨリさんと青山吉能さんが担当しました。お二人を選んだ理由はどんなところだったのでしょうか。また、お芝居はいかがでしたか?
古賀:宮崎ヒヨリさんを選んだのは一線級の演者が集まったオーディションで新人であるにもかかわらず、とても度胸のある思い切りのいい芝居をしていたからですね。
そして、それはOAを観た視聴者の方々にも和田の魅力の一つとして確かに伝わったのではないでしょうか。
青山吉能さんはその芝居を受ける側として、どんな球が来ても受け止めてキャッチボールを成立させられる技量と2人のバランスを考慮して選びました。こちらもまたOAでおわかりいただけたと思います。
アフレコはほぼ2人だけで進行することになるので、アフレコ初日に2人には仲良くなって、アフレコ外でも話をしてほしいと伝えました。お互いの呼吸や会話の間を早めに掴んでほほしかったので……。その場で2人は連絡先を交換していたようで、その後のアフレコやイベントでの様子を見るに、息もピッタリで効果があったと思います。仲良きことは美しき哉…。
──その他、エイベル公爵役の福山潤さん、斉藤さん役の早見沙織さんは、どういった理由で選ばれたのでしょうか?
古賀:2人のキャスティングに関しては音響制作さんから幾つか候補をいただいて、都度選んだ形ですね。福山潤さんはソシャゲに詳しいスタッフからプッシュがあったのかな? 僕も以前にお仕事させていただいて、イメージ的にもピッタリなのでOKしました。斉藤さんはギャップを狙って可愛い声にしたいというプランがあったので、早見沙織さんを選ばせていただきましたね。アフレコ時のテストでは低めの声で演じられたのですが、チェックバックの時に音響監督の(明田川)仁さんにプランをお伝えしたら、「もっと天使に」「もっと」「もっと」と可愛らしくコミカルにしてくれて、素晴らしい芝居になりましたね。僕は終始笑い倒していました。
──古賀監督が好きなエピソードはありますか?
古賀:僕が好きなエピソード…ひとつだけ選ぶとしたら#1の『WADA1234』ですかね。最初のエピソードということもあって、あのエピソードには2人があのフードコートで駄弁る理由と関係性が端的に語られているので。今の時代に『顔を見て話したい』は殺し文句ですよね。
──OP/EDも印象的でした。こちらのこだわりと、改めて見てほしいところを教えてください。
古賀:OPは踊らせてほしいというオーダーでダンス先行だったのですが、最近流行りのロトスコープにはしたくなかったので、ダンスの参考動画を元に各アニメーターにはタイミングも動きもそのままなぞらずに和田や山本らしく踊らせてもらいました。また、本編中は写実的な実景BGがほとんどだったので、逆にイメージBGを多用してアニメっぽいOPにしています。
EDもデフォルメ等身のキャラとシンプルなBGにしていますが、演出・作画を担当してくれた佐藤ヒロカズさんのおかげで少ないコマ数の動きだけど、ちゃんとよく動いて見える全原画の芝居で、スローなテンポの楽曲に合った、とても見応えのあるものにしていただけました。
──アニメ『フードコートで、また明日。』は監督にとって、どんな作品になりましたか? ファンの方へのメッセージもお願いします。
古賀:この作品は、アニメの放送本数が増加する一方で、タイパが重要視され、アニメすら倍速視聴が持て囃されてきつつある今…ただ流行りの作品の情報だけ詰め込むような視聴の仕方じゃなくて、自分が気になった作品を『ちゃんと顔を見て』(正座して観ろ!とかそういう事ではなく…)演者達の芝居に耳を傾けてくれるといいなぁ…と思いながら作ってました。
1週目よりも2週目…なんとなく観てたら気づかなかったことに気づけるかもしれません。
それでは皆様、『フードコートで、また明日。』…(最後まで)お楽しみに♪
[構成・塚越淳一]