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ベルリン発、急成長を続ける全自動化コーヒーチェーンの光と影 Germany [Berlin]

料理通信

コーヒー豆の価格高騰とインフレの影響で、コーヒー1杯の価格がかつてない水準に達しているドイツ。人手不足もあって苦戦を強いられる地元カフェを尻目に、2023年に誕生したスタートアップ「LAP(Life Among People)」は、“Stop Paying € 4 For Coffee(コーヒーに4ユーロも払うのはやめよう!)”と大々的に広告を打ち、わずか2年で市内に18店舗を展開した。25年にはドイツ全土に進出。スターバックスより速いペースで勢力を拡大するコーヒーチェーン店として、話題を呼んでいる。


価格の高騰を受け、スーパーマーケットではコーヒー豆を狙った万引きが増加。多くの店が高価なお酒やカートンのタバコと一緒に、鍵がかかるガラスケースに入れている。photograph by Hideko Kawachi

LAPは全自動コーヒーマシンを導入し、テイクアウトに絞ることでコストを削減。エスプレッソが1.5ユーロ、カプチーノは2.5ユーロと、スペシャリティコーヒーを提供する他店に比べて1〜2ユーロ安く提供する。


また、有名なスポーツブランドとコラボレーションし、SNSを駆使したマーケティング戦略を展開。スタートアップ出身のLAP創業者は、コーヒーを投資家に魅力的なプロダクトとしてアピールし、ドイツやアメリカのベンチャーキャピタルの投資を掴んだのだ。低価格戦略、モバイルオーダーによる自動化といったビジネスモデルは、5年間で1万店舗に達した中国のコーヒーチェーン「Luckin Coffee」がお手本とも言われている。


LAPは“Life Among People(人々の中での生活)”を店名に掲げるが、地元に根付いた個人店に立退を強いるジェントリフィケーション(低所得地域を再開発し高級化を図る現象)を象徴する存在だと目の敵にされ、ベルリン市内の支店にペンキがぶつけられる事件も起こった。photograph by Hideko Kawachi

「生産、焙煎、カフェに関わる人間が生き延びられるフェアな価格を考えたら、カプチーノは少なくとも3.5ユーロになるはず」と、安価なコーヒーに警鐘を鳴らすのはフィリップ・ライヒェルだ。15年前にカフェをオープンし、コーヒーウィーク・ベルリンやロースタリー「Vote Coffee」、共同焙煎所「CC Communal Coffee」を立ち上げ、味はもちろんサプライチェーン全体に目を配り、コーヒーを深く知ろうと呼びかけ、活動してきた人物だ。コーヒーを取り巻く世界を深く知り、未来へと繋げようと尽力する。


ベルリンのコーヒー業界を牽引するフィリップ・ライヒェル氏。「どっちがより正しいとか、そういう議論をしたいわけではない。学び続け、よりよい形でコーヒーの世界の変化の一端を担えたらと思っている」とライヒェルは言う。スペシャリティコーヒーを提供する店の中でも比較的安価に上質のコーヒーを出し、サステナビリティを考え、地元に根付いた店づくりと幅広い交流の場を作ってきた人物らしい言葉だ。photograph by Sophie Doering and Ruby Watt for Cee Cee Creative

しかし今、その世界は岐路に立たされている。
「コーヒー業界も、職人的な価値観に固執しすぎていた」とライヒェルは自省を込めて言う。自動化や効率化を一概に拒まず、また、新しい形で広く伝える努力をしなければ、と。


LAPのようなビジネスモデルでは、コーヒーはただの“消費財“でしかないように映る。コーヒーに限らず「企業が市場シェア獲得のためだけに最低価格で製品を売りつけようとすると、消費主義を助長する。安すぎる価格の多くは、搾取と露骨な資本主義で成り立っている。そもそも“消費”という言葉が、何かを使い果たしてしまうことを意味しているんだ。その生産や創造に携わる人がいなくなってしまうまで」と、ライヒェル。


コーヒーを飲む側からすれば、もちろん値段は安い方がありがたい。しかし、閉店を余儀なくされた小さな個人店が、ミニマルな改装であっという間にLAPの支店になっていく様子には胸が傷む。半径1kmの間に7つもLAPの支店が集中する地区もあり、近く、業績が悪い店から次々閉店してしまう未来が見える。


自分にとって何が重要なのかを考えながら、店を選ぶ。店だけでなく客の側にも、意識の改革が促されているようだ。


CC Communal Coffee
Naumburger Str. 4, 12057 Berlin
https://www.communal.coffee/


*1ユーロ=176円(2025年11月時点)


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