海岸に漂着していた<カツオノエボシ>を観察してみた 風が運ぶ多種多様な生き物たち
季節や天候により自然界で見られる生物は変化しますが、特定の条件下のみで見られるものも少なくありません。
鮮やかな色が特徴の刺胞動物「カツオノエボシ」も、その一つと言えるでしょう。普段、カツオノエボシは外洋の表層で浮遊生活をしていますが、風が吹くと海岸に漂着することがあるのです。
カツオノエボシは刺胞に強い毒を持つことから、大量に漂着すると注意喚起としてしばしばニュースになります。その一方で、独特なフォルムと鮮やかな青色は他の生物では味わえないものであり、有毒生物にもかかわらず魅了される人も少なくありません。
筆者もその一人であり、夏場、南風が強く吹き付けた後の海岸で、カツオノエボシを含めた漂着生物の観察を行いました。ただし、波がまだ高い可能性があるため、波打ち際から離れた場所で観察を行います。
風が吹いた後の海岸で出会える生きものたち
風が強く吹き付けた後の海岸では、普段出会うことが難しい生きものたちに遭遇することができます。しかし、このことはあまり知られていません。
例えば、海岸に漂着した大きな漂流物。白い部位に緑色のナイロンが連結しているので漁具の一種でしょうか。一見すると大きなゴミのように見えますが、よく見ると白い貝のようなものが付着していることが分かります。
これはエボシガイ(詳しい種は不明)と呼ばれる生物で“カイ”と付つものの、実際には甲殻類の仲間です。エボシガイのような付着生物はこういった浮遊物に群生していることが多く、典型的な漂着生物の1つと言えるでしょう。
この日、発見したエボシガイは乾燥しており、死んでしまってから時間が経過したものを思われますが、打ち上がるタイミングによっては潤いがあり、うねうねと動く様子が観察できます。
浜辺で目立つ青色生物
エボシガイも十分に面白い生物ですが、やはり目を引くのはカツオノエボシやカツオノカンムリなどをはじめとした青い刺胞動物です。
自然のものと思えないほど鮮やかな青色を持つこの生物たちは、大きなものであれば数メートル先に落ちている個体も簡単に見つけることができます。特にカツオノエボシは風船のような気胞体がよく目立つため、見つけるのは難しくありません。
この気胞体には一酸化炭素なども気体が詰まっており、カツオノエボシは浮力を得ることができます。また、気胞体の下に伸びた鮮やかな触手は非常に強い毒をもち、場合によっては呼吸困難に陥ることもあるようです。
この日、海岸に漂着していたカツオノエボシは大小様々であり、ごみに絡みついてしまったものもいれば、小さな個体は風に煽られてコロコロと海岸を転がっていくものもいました。このような個体は乾燥しており、色もくすんでしまっていることがほとんどです。
観察のタイミングがよいと、漂着したばかり潤いを保った個体を見ることが可能。生きている個体を発見できれば気胞体がふねうねと動く様子を観察することができます。
カツオノエボシを観察してみた
まず、カツオノエボシを観察する際の注意ですが、カツオノエボシを移動させる場合は必ずゴム手袋等を着用しましょう。また、風でたなびいた触手が腕などにつく可能性があるため、カツオノエボシを風上に置かないように注意も必要です。
加えて、もう一つ注意したいのが、カツオノエボシは死んでも毒は残っていること。万が一刺された場合は触手をピンセットなど直接手で触れない方法で取り除き、適切な方法で洗浄しましょう。
安全が確保されたらバケツやバットなど適当な容器に水を張り、カツオノエボシそっと中に入れて観察します。
漂着していたカツオノエボシを水に浸したことにより纏わり付いていた砂が落ち、生き物本来の姿を見ることができます。気胞体の下部にある鮮やかな栄養個虫は捕らえた獲物を消化し、体に栄養を送る役割を持つ部分です。
長く伸びた触手は螺旋のような見た目をしており、非常に美しい構造をしていることがわかります。
体から何かが分離
カツオノエボシの観察を続けていると、バットの中に青いフワフワしたものが漂っているのを発見。
これは生殖枝と呼ばれるものであり、カツオノエボシの生殖体から切り離されたものだそう。最近、この生殖枝に着目した研究が行われ、謎に包まれていたカツオノエボシの繁殖生体について少し明らかになっています。
気になる方は『Scientific Reports』に掲載されている「Physalia gonodendra are not yet sexually mature when released」をチェックしてみてください。
毒に注意して観察しよう
今回、風が強く吹き付けた海岸でカツオノエボシやカツオノカンムリ、エボシガイを見つけることができました。
風が強く吹いた後は波が高いこともあるため波打ち際には近づかないこと、カツオノエボシ等の有毒生物を観察する際には刺されないよう十分な安全対策を行う必要があります。
観察には細心の注意を払いましょう。
(サカナトライター:まうまう)