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“試合がなくても人が集まる” 「長崎スタジアムシティ」。民設民営のスタジアムのどこがすごいのか

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なぜ大手通販業のジャパネットグループがスタジアムを建設したのか

長崎スタジアムシティはスタジアムを中心にアリーナ、オフィス、ホテル、商業棟が集まる複合施設。2階、3階から移動が可能(筆者撮影)

関係者が初めて現地・三菱重工業長崎造船所幸町工場跡地を訪れた時から7年。その後、企画・建設に約6年をかけて誕生した「長崎スタジアムシティ」(以下、スタジアムシティ)はサッカースタジアムを中心とした、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスの5つの施設から構成される東京ドーム1.5個分という広大な複合施設である。

これまで日本ではスポーツ施設の多くは自治体が所有する公共施設が中心だったが、このところ民設民営、つまり企業が建設して運営を手掛けるスタジアムやアリーナの開業、建設計画が相次いでいる。

2000年のFLAT HACHINOHE(青森県八戸市)、2003年のエスコンフィールドHOKKAIDO(北海道北広島市)、今治里山スタジアム(愛媛県今治市)、そして2024年には長崎スタジアムシティ、LaLa arena TOKYO-BAY(千葉県船橋市)、2005年にはGLION ARENA KOBE(兵庫県神戸市)、TOYOTA ARENA TOKYO(東京都江東区。10月3日開業予定)と造られており、今後も愛知県安城市、神奈川県川崎市、同平塚市などで建設が計画されている。

欧米ではスポーツ施設を核としたまちづくりが進んでいるが、日本にも同じ流れが生まれ始めており、そのモデルケースともいえるのが、この長崎スタジアムシティ。2021年9月にはスポーツ庁および経済産業省が定める「多様な世代が集まる交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」に選定されている。

上空からの長崎スタジアムシティ全体(写真提供/株式会社ジャパネットホールディングス 以下ジャパネット)

そのスタジアムシティを運営するのは通販大手のジャパネットグループで地域創生事業を手掛けるリージョナルクリエーション長崎。ジャパネットは長崎発祥の企業であり、本社も長崎にある。
長崎では2022年の西九州新幹線開業に伴う長崎駅周辺の大改造を機に100年に一度の変革期とさまざまな取組みを行っているが、それ以前から基幹産業だった造船業の衰退による人口流出などさまざまな課題を抱えていた。

「転出者数が転入者数を上回る転出超過状況がワースト圏内に入る状況が続いていた長崎市ですが、一方で本当に魅力の多いまちです。美味しい食べ物、歴史ある町並み、美しい夜景とさまざまな要素が揃っています。
ジャパネットでは良いものを“見つけて・磨いて・伝える”という考えのもと事業に取り組んでおり、地域創生事業もこの考え方のもとで取組んでいます。地元を活性化したいという思いを込めて、スタジアムシティプロジェクトは始まりました」と、株式会社ジャパネットホールディングススポーツ・地域創生広報の片倉杏梨さん。

通販と地域創生はまったく異なる事業にみえるが、根底に流れる考え方は同じということなのである。

“平日から人が集まる場所”とすることで持続可能なスタジアムを

約2万人収容可能なサッカースタジアム。青と緑のコントラストが美しい(筆者撮影)

スポーツ・地域創生事業が始まったのは、2017年5月にプロサッカークラブ「V・ファーレン長崎」をグループ会社化したことから。同年にはスタジアムの建設現場を初めて視察している。

「サッカーの試合は年間約20~30試合で、それだけで収益をあげ、先行投資した総事業費を回収し、黒字化していくことは難しい。そこでスタジアムを中心にしたまちにすることで年間を通じた賑わいを創出することを目指しました。平日から人が集まる場所となることで、試合以外でも売上をあげ、ビジネスとして黒字化することで持続可能なモデルになるのではないかと考えました」
 
そのため、スタジアムシティはサッカースタジアムを中心にアリーナ、ホテル、ショッピングモール、オフィスからなる大型複合施設となった。

「アリーナを造ればバスケットの試合もでき、音楽イベントもできるという観点から、2020年にプロバスケットボールクラブ『長崎ヴェルカ』を立ち上げ、そのホームとしてHAPPINESS ARENAを建設しました。開業後はアリーナがあるおかげでスポーツに限らず、音楽やその他のイベント開催が可能になり、さまざまな形で使われています」

HAPPINESS ARENA。プロバスケットボールクラブ長崎ヴェルカのホームであり、各種のイベントの会場ともなっている(写真提供/ジャパネット)
スタジアムと一体になったホテル。スタジアムの上空に伸びている線はジップラインのもの。ここを滑空するのだ(筆者撮影)

スタジアムシティホテル長崎はスタジアムのバックスタンドと一体化した構造となっており、243室の客室の約7割がスタジアムビューとなっている。
ホテルからドア一枚を隔てたところにフードコート、コンコースがあるという距離感に訪れた人は驚くそうで、それを実現できたのは民設民営ならでは。
新幹線開業以降、長崎ではラグジュアリーなホテル建設が続いているが、その中でも他にはない個性のあるホテルといえるだろう。

バルコニーには椅子などが用意されており、寛いで試合を楽しんだりできる(写真提供/ジャパネット)

長崎スタジアムシティは民設民営だからできることが多数

幅広い層が集まり、思い思いの時間を過ごしていた(筆者撮影)

では、現地の様子を片倉さんの解説を交えながらみていこう。
まずはスタジアム。収容人員約2万人で、全席屋根で覆われているため、雨天時にも快適に観戦が可能。座席幅も最大で60㎝、全席にドリンクホルダーがあった。
それ以上に特筆すべき点は2つ。ひとつは試合がない日にはコンコース、客席が一般開放されているという点。これは国内はもちろん、海外でも珍しいのではないかという声があるほど。2階のフードホール、3階のコンコースは平時も営業しており、公園のように誰もが気軽に活用できる空間だ。

実際、取材にお邪魔した日も土砂降りだというのにかなりの人が来ており、食事や会話を楽しんだり、勉強や仕事をしたり。観客席以外にもソファ席、テーブル席とさまざまな席が用意されているうえに敷地内では無料のWi-Fiが使える。あらゆる人がさまざまな用途に使える場所になっているのだ。

しかも、スタジアムという大空間を前にするのは実に気持ちがいい。ピッチの鮮やかな緑が目に楽しく、遮るものがない大空間の眺めは海をみているかのよう。自宅やオフィスでこれほど開放的な場所はない。くつろげる空間が広がっているのだ。

火曜日は60歳以上に、木曜日は学生になど曜日によって特典が変わるサービスがあったり、夜間にはピッチを利用したレーザーショーが行われるなど来場を促す取り組みも多くある。近所に住んでいたら、ちょくちょく通ってしまいそうである。

大型のソファ席なども用意されており、のんびりするのも良い(筆者撮影)
一番前の位置に注目。臨場感ある観戦が楽しめるはずだ(筆者撮影)

もうひとつの特徴はメインスタンド、バックスタンドに加え、両ゴール裏でも最前列はピッチまでの距離が約5mと短く日本最短で臨場感を味わえるスタジアムであること。そして、その特徴と民設民営であることを活かした特別席が多種類用意されていることである。

「行政が造る施設では公平性が重要とされる部分が多いと思いますが、私たちは幸福の最大化という考え方をしています。いくらかプラスの費用を投じてもその分の価値が得られるなら、と考える方に対してそうした場を提供していこうということです。もちろん、通常の他のスタジアムと変わらない価格の席も用意しており、見る人が見たいスタイルで観戦できるようになっています」

ヨーロッパのスタジアムではVIPエリアが充実しており、試合前後に食事をしたり、他の観戦者と交流をしたりできるようになっており、そこでビジネスの交流が生まれたりすることもある。スタジアムシティではそうした文化、交流も含んだ空間をつくろうとしている。

「試合前後の演出に凝っているのも特徴のひとつ。花火を上げるなど試合の前から気持ちを盛り上げていこうとしています」

個人的には日本初というサッカースタジアムでビールの醸造を行うブルワリーレストラン「THE STADIUM BREWS NAGASAKI」にも惹かれた。年間100種類ほどのビールを提供する予定だという。

ブルワリーレストラン。種類も多く、季節ごとのオリジナルが楽しめる(筆者撮影)

多様に使える可変式アリーナ、長崎初と長崎発がそろう魅力あるフードコート

アリーナ内部。こちらもブルーの座席(写真提供/ジャパネット)

プロバスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」のホームアリーナ『HAPPINESS ARENA』は最大で約6,000人を収容でき、スタジアム同様、プレイの臨場感を楽しんで観戦できるように造られている。通常だと最上階に配されがちなVIPエリアを、1.5階とコートに近い位置に設置。2024~2025年のシーズンは全16室を完売した。2024~2025年シーズンの「長崎ヴェルカ」全ホームゲームも完売とのこと。長崎には熱いスポーツファンが多いのだ。

可変のアリーナは各種イベントの会場にもなっている。コンサート、ヒップホップのフェス、アイスショーに大相撲、歌舞伎とほぼなんでも開催できる空間。2025年8月からは月替わりで世代を超えて愛されるスターたちの歌声やトークを楽しめるイベントも予定されている。

また、アリーナ屋上にはフットサル、チームの練習場としてつくられたクラブハウスにピックルボールコートが設置され、“スポーツをする場所”も用意されている。

アリーナの屋上ではスポーツが楽しめる。説明を聞いて思ったが、スタジアムの上空をジップラインで使うなども含め、使える場所はフル活用されている(筆者撮影)
ホテルの半露天ジェットバスからの眺め。楽しくないはずがない(写真提供/ジャパネット)

スタジアムと一体につくられたスタジアムシティホテル長崎は、客室はもちろん、プールやサウナなどホテル内のさまざまな場所からサッカースタジアムが一望できる日本初のホテル。5階は客室と客席を兼ねており、スタジアム側のバルコニーには椅子も。試合がない日も夜間のレーザーショーを眼下に楽しむことができる。

フードコートを含めた商業エリアはスタジアムシティ全体に配置されている。サウスのように全体が商業という建物もあれば、一部に商業の入るオフィスなど濃淡はあるものの、スタジアムシティ全体がショッピングモールのようなものという解釈が一番分かりやすいと片倉さん。
全体では飲食、物販などを合わせて約80店舗が出店、特徴は長崎初、長崎発の店舗があること。これは地元の人、長崎を訪れる人双方に楽しんでもらいたいという気持ちから。

「東京の原宿発祥のマリオンクレープは長崎初出店ですし、佐世保バーガーやちゃんぽん、角煮まんじゅうは長崎発の長崎名物です」

フードホール入口。曜日ごとに特典が用意されている(筆者撮影)

無料の屋上足湯、アクティビティとしてスタジアム場を滑走するジップラインも

写真奥が足湯。手前がバーベキュースペース(筆者撮影)

それ以外の施設として目を引くのはスタジアムシティの地下1,500mから湧出した天然温泉の温浴施設。サウスの6~7階にあるのだが、屋上には無料の足湯があり、気軽に利用するならこちらがお勧め。足湯にも肌がすべすべになるという泉質の温泉が使われており、7月からはバーベキューも楽しめる。

なにより眺望がすばらしい。長崎港から周囲に広がる斜面地までが一望できる上、スタジアムを上から眺めることも。仕事帰りのビジネスマンや若いカップルなど広い層に利用されているそうだ。夜は長崎名物の夜景も楽しめ、ロマンチックな雰囲気となる。

足湯から長崎港方面。天気が悪くてこれである。晴天の日、あるいは夜間だったらどうだろう、想像してしまう(筆者撮影)
ジップラインの説明。スカートで行っても大丈夫、パンツが用意してあるそうだ(筆者撮影)

スタジアムを挟んで反対側、オフィスのあるスタジアムシティノース12階からスタジアム上空を越えてサウス屋上に至るジップライン(高所から低所へワイヤーロープを滑車で滑走するアクティビィ)も勇気があったら試してみたい。
滑走時間は人にもよるが約20~30秒ほど。体験するまでは躊躇しても、一度体験するとその爽快さにもっと飛びたいと思うようになるのだとか。近年、各地にできているが、スタジアム上を滑走するのはもちろんスタジアムシティが初だ。

それ以外にも屋外型スポーツエンターテイメント施設「VS STADIUM NAGASAKI」など長崎初という施設もあり、楽しむつもりになったら1日遊んでいられる。初めて行く人なら、スタジアムとアリーナをガイド付きで見学できる「スタアリツアー」に参加してみるのも手。普段は入れない選手ロッカーやピッチ、VIP専用ルームなどにも入れてもらえるそうだ。

さまざまな施設、楽しみがあるわけだが、ほとんどのものはジャパネットグループが自前で運営している。協力会社に依頼している部分も一部にはあるが、ホテルのフロントスタッフやシェフ、醸造家に始まり、大半のスタッフはジャパネットの社員。これは珍しいことかもしれない。

敷地内のガイドツアーも面白そう。スポーツ好きなら入れないところに入れるのは楽しいはず(筆者撮影)

満床間近の長崎最大級のオフィスビル。地元活性化のイベント取組みも

オフィス。これだけの規模のオフィスは長崎市内では少ない(筆者撮影)

長崎最大級という規模のオフィスビルもある。3階までは商業施設で、その上がオフィス。もちろん、ジャパネットグループの本社もある。

「4階に長崎大学、10階にコワーキングスペース、11階にオフィスの入居者が利用できる共同の会議室があり、それ以外はオフィス。県内外の幅広い企業に入居いただいており、満床もみえている状況です」

長崎は東京その他の都市のようにオフィス街然とした場所があまりなく、かつ大きなビルも少ない。
街中ではマンションの建設現場をよく見かけるが、オフィスビルとなると古いものが多い。そんな中で大規模、最新鋭のビルである。しかも、話題の場所にあり、敷地内にはさまざまな生活利便施設があって便利。スポーツ観戦も身近となればニーズが高いのは当然かもしれない。

勤めている人にとってもランチの選択肢が豊富で、食後にのんびりできる場があるのはうれしいはず。スーパーや商業施設も多いので仕事帰りの買い物にも便利(筆者撮影)
商業施設では他の施設ではあまり見なかったスポーツ系の店舗が多いように感じた(筆者撮影)

以上、話題の長崎スタジアムシティを見学してきた。

単独でも楽しめる、賑わいを生む施設だと思うが、取材後にはさらなる地元活性化への取組みも発表。それが2025年7月1日から一ヶ月限定で市内5つの商業施設が合同で行う夏のお買い物大抽選会というキャンペーン(※現在は終了)。

長崎市内にある大規模複合商業施設は5館あり、実際に行ってみると分かるのだが、個性はそれぞれ。それらの施設を買いまわることが抽選のチャンスとなるというもので、市民にとっては新たな施設を知る機会になる。回遊性が高まることで賑わいも生まれる。
商店街ではよくあるキャンペーンだが、それをまち全体でやるのは面白いところ。施設ひとつで何かをするのではなく、地域全体で一緒に長崎を盛り上げようという姿勢が感じられる。

冒頭にあったように長崎は多面的な魅力のあるまち。それを伝えること、知ることがまちを面白く、活気のあるものにしていくはずだと思う。

■取材協力
長崎スタジアムシティ
https://www.nagasakistadiumcity.com/

全体としてわざわざ行くというより、日常の中でつい寄りたくなるスタジアムという印象。近所に住んでいたらつい行ってしまう、そんな居心地のよさが長崎スタジアムシティの魅力ではなかろうか(筆者撮影)

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