魚の中に潜む小さな骨が「縁起物」と言われるワケ まるで魚に見える骨<鯛の鯛>とは?
魚を食べているとおもしろい形──“魚の形をした骨”を見つけたことはありませんか?
これは「鯛の鯛(たいのたい)」や「鯛中鯛(たいちゅうたい)」と呼ばれる骨で、胸びれを支えています。鯛に限らず、胸びれがある硬骨魚類はほとんど、この小さな魚の形の骨を持っているのです。
「鯛の鯛」は胸びれを支える小さな骨
「鯛の鯛」は、魚のかたちをした骨です。魚の「カマ(頭と胴体をつなぐ部位)」と呼ばれる部分を食べているときなど、骨を探っていると見つかることがあります。
魚の胸びれを支える役割を持つ「鯛の鯛」は、2つの骨が癒合してできており、それぞれ「肩甲骨」と「烏口骨(うこうこつ)」から成っています。
まるで魚の頭のような形に見えるほうが肩甲骨で、尾のほうが烏口骨です。
魚の体の中では肩甲骨が上向き、烏口骨が下向きとなり胸びれを支えていますが、飾られたり標本として集めたりするときには横向きにして魚のかたちに見えるように並べかえることが多いようです。
「鯛の鯛」はどうやって取り出す?
「鯛の鯛」は胸びれを支える役割があることから、胸びれの付け根にあります。なので、魚を一尾丸ごと購入するか、カマの部分を購入することで手に入れることが可能です。
カマの胸びれ付近の骨を探すと、小さな穴のあいた骨が見つかります。この部分から、肩甲骨と烏口骨で構成される「鯛の鯛」を取り出します。
「鯛の鯛」は魚によってはとても小さく崩れやすいため、慎重に取り出さなければなりません。
また、骨から肉を綺麗に剝がすには、焼くよりも煮たほうがよいでしょう。お箸やピンセットを使うと、細かい肉を剥がすことができます。
鯛の鯛を保管するには
取り出したあとは、薄めた中性洗剤に浸して一晩おいておくか、アルコールなどで脂を取り除き、よく乾燥させます。
乾燥が不十分だとかびてしまう可能性があるので、注意しましょう。
「鯛の鯛」は縁起がいい?
この魚のかたちをした骨は、なぜ「鯛の鯛」と呼ばれているのでしょうか。
美しい真っ赤な魚体が特徴のタイ(マダイ)は、古代から日本人を虜にしてきました。平安時代中期に編纂された『延喜式』には、既に朝廷への献上物として記述があったといいます。
その赤色は“縁起が良い”とされ、味も良いことから神事や祭事、祝宴で重宝されてきました。
そんな縁起の良い魚「タイ」の中に、さらに小さなタイがあるということで、「鯛の鯛」や「鯛中鯛」と呼ばれたのが始まりです。
なお、一般的にタイ以外の魚でも、この部位は「鯛の鯛」と呼ばれますが、「ニシンのニシン」「イワシのイワシ」など該当する魚の名前を当てはめて呼ばれることもあります。
縁起物の中にある縁起物──ということで、「鯛の鯛」はかつてより縁起物として扱われてきました。現代でも、自宅に飾っている人が時々いるようです。
「鯛の九つ道具」=9種の骨?
江戸時代に作成された魚類図譜『水族写真』(奥倉辰行、1850年頃)や『水族四帖』(奥倉辰行、1957)には、「鯛の九つ道具」という9種の骨が描かれており、その中には「鯛の鯛」も含まれています。
また、『水族写真』には、この9種の骨を持っていると、物に不自由なく幸福になるとも書かれています。
「鯛の鯛」を集めて図鑑にする中学生も
「鯛の鯛」は、烏口骨が短かったり丸かったり、肩甲骨が丸かったり、穴が小さかったりと、魚によって形が全く違い、これを収集する人もいます。
現在中学3年生の佐々木蒼大さんは、さまざまな魚の「鯛の鯛」を取り出して骨格標本を作製。その写真と手書きの説明文、イラストをまとめて、手作りの図鑑を作成する活動を行なっています。
4年前、小学5年生の頃から始まった活動で集まった「鯛の鯛」はなんと187種。それらをまとめた独自の『鯛の鯛図鑑』は全9巻に及びます。
そんな佐々木さんはこの度、『鯛の鯛図鑑』全9巻に書き下ろし10種を加えた197種を1冊の本にまとめるプロジェクトを始動。10月10日(ととの日)からは、書籍製作に向けたクラウドファンディングも開始しました。
誰もが知っている魚から市場でなかなか見ることのない貴重な魚まで、多様な「鯛の鯛」も掲載されているといい、「唯一無二の楽しい図鑑」を目指しているそうです。
魚を食べて「鯛の鯛」を見つけよう!
誰でも手に入れることができる縁起物「鯛の鯛」。まずは普段食べている魚から見つけてみるのもいいかもしれません。
見つけた「鯛の鯛」をじっくりと観察してみると、水族館で泳ぐ魚を観察するのとは違う視点から魚の魅力に触れることができますよ。
(サカナト編集部)
参考文献
大西彬(1991)、鯛のタイ、草思社
日本人にとって特別な魚「鯛」-