カープの監督“新井さん”の原点・広島。「選手と町の距離が近く、むかしもいまも身近な存在です」
広島生まれ、広島育ち。子どもの頃から根っからのカープファンだった新井貴浩さん。広島東洋カープの監督に就任して3年目。常に前向きで、市民に愛され続けるそのパワーの源は、やっぱり広島愛! カープ色あふれる、広島旅へご案内します!
新井貴浩
あらい たかひろ/1977年、広島県広島市生まれ。県立広島工業高校、駒澤大学卒業。1998年、ドラフト6位指名で広島東洋カープに入団。2005年、本塁打王を獲得。2008年に阪神タイガースに移籍するも2015年、カープに復帰。2016年に四番打者として25年ぶりのリーグ優勝を牽引し、リーグMVPに輝く。球団史上初のリーグ3連覇に貢献し、2018年に現役を引退。2023年からカープ監督に就任。
Instagram:@araitakahiro_official
新スポット続々。平和の尊さを感じる場所も
——広島に初めて訪れる方を案内するなら?
新井 宮島ははずせませんよね。特に嚴島(いつくしま)神社の大鳥居が佇む景色が素晴らしくて、その向こうに広がる瀬戸内海もきれいです。もみじ饅頭は宮島が発祥なので、島内では焼きたてが食べられたり、いろんな種類があったりして、こちらも見逃せません。
せっかく広島を訪れるのなら、戦争や原爆の悲惨さについても知ってもらいたいなという気持ちがあります。僕自身も学生の頃、平和学習の一環で広島平和記念資料館や原爆ドームに何度も足を運びましたが、生々しい資料がたくさんあるので、すごく怖い場所だという印象が強く残っています。
こういったことを深く体感できるのは、広島と長崎だけじゃないですか。だからこそ、平和記念公園はぜひ訪ねてほしいです。そして広島に原爆が投下されたあと、みんなが力を合わせて町を復興させてきた、そんな歴史も知ってもらえたら。
カープも戦後復興の光であり象徴だったので、それもあって、地元の人たちにはより身近な存在なのかなとも思います。
——食べ物のおすすめは?
新井 お好み焼ですね。一番オーソドックスな肉玉そばが好きです。
家で母が作るお好み焼も大好物でしたし、近所にお好み焼屋さんがたくさんありました。
小学生の頃は土曜は午前中だけ授業があったのですが、終わって帰ったらテーブルに500円玉が置いてあったんです。それを握りしめて、近くのお好み焼屋さんに一人でよく行っていました。懐かしいですね。
——お好み焼のおすすめ店を教えてください。
新井 僕のイチオシは『まるき』。元選手がやっている鉄板焼のお店です。何を食べてもおいしいのでちょくちょく行きます。
必ず頼むのが、鉄板で焼いた花ソーセージとがんす。シンプルですが、飽きがこない味わいで気に入っています。もちろん、締めのお好み焼も間違いない味。
——近年、広島市内は再開発ラッシュで、新しいスポットも増えていますね。
新井 広島駅、にぎわっていてすごいですよね! 新駅ビルの『minamoa(ミナモア)』や映画館もオープンして話題になっています。
新しくなった広島駅にいままで以上に人が集まり、カープロードも拡張されて、必然的にマツダスタジアムも盛り上がっていくんじゃないかなと期待しています。
8月には、路面電車が駅の2階に乗り入れるんですよね。完成が待ち遠しいです。
生まれ変わったといえば、旧市民球場跡地の「ひろしまゲートパーク」も。あそこも雰囲気がすごく変わりました。
市民球場があった頃から何度も通った場所ですが、目に浮かぶのは入団当初の若い頃。練習も厳しかったし、よく怒られていたので、汗と泥にまみれた場所というか……。当時の苦しかった情景が思い浮かびます。
——市内中心部には、新サッカースタジアムや広島城三の丸の商業施設などの見どころも。
新井 市内のど真ん中にスタジアムがある県ってなかなかないですし、周辺には憩いの場やオープンスペースもあるので、旅の合間にのんびり過ごすのもよさそうです。
車で少し足を延ばすのもいいですね。山口、島根、岡山、鳥取と中国エリアはほどよい距離ですし、四国も例えば今治(いまばり)なら2時間ちょっとと、想像以上に近い。
僕も引退してすぐは、よくゴルフをしに四国へ出かけていました。しまなみ海道が好きで、美しい瀬戸内海と小島を眺めながらのドライブは爽快です。
1泊といわず、2泊3泊して、瀬戸内エリアをたっぷり満喫していただきたいなと。
バレないように猫背で!? 遠征地では必ずサウナへ
——遠征中の楽しみは?
新井 やっぱり、その土地ならではのおいしいものを食べること。ただ、試合終わりとなると遅い時間からなので、行けるお店は限られてきますね。
もう一つ欠かせないのがサウナ。宿泊ホテルの近くで探して、マネージャーと散歩がてらリフレッシュしに行くのが楽しみの一つです。
——急に新井さんが入ってきたら、びっくりしますよね。
新井 背の高さでバレるので、ちょっと猫背気味で歩いています(笑)。
あとは伊達メガネをして、タオルをすっぽりかぶっているので、あまり気づかれることはないですね。
いつも、サウナと水風呂があるところ、しかも水風呂がしっかり冷えているところを選んでいます。スッキリ汗をかいて、一日の締めくくりをしたいので。
——印象に残っている旅先はありますか?
新井 選手を引退したあとの2019年に、笑福亭鶴瓶(つるべ)さんの旅番組で北海道の北広島市に行ったんです。日本ハムの本拠地「エスコンフィールド」ができる前に、建設予定地を見に行ったんですね。
その時は本当に何もない、ただの雑木林でした。4年後にとても立派なスタジアムができて、すごいなって驚いたのを覚えています。
ちなみに「エスコンフィールド」には、サウナ施設もあるんですよね。観戦しながら温泉やサウナに入れるらしいので、一度利用してみたいです。
——球場といえば、マツダスタジアムの魅力も教えてください。
新井 まずは、シートのバリエーションの豊富さ。レフトスタンド下の「すごいびっくりテラス」(グループ席)は、半地下のような少し低い位置に部屋があって、選手たちの足元のほうから試合を観戦できます。他球場では、なかなかそういう目線で見る機会はないと思いますね。
ほかにも、ソファでくつろぎながら観戦できる「チルアウトテラス」など、いろいろな席があるので、何度訪れてもおもしろいですよ。
個人的には、どこからでもフィールドが見える、コンコースがお気に入り。ぐるっと一周できるので、試合前にコンディションを整えるため、よく歩いています。
イベントもありますし、シーズン中の試合がない日には、球場の裏側を見学できるツアーも開催しています。男性も女性も、大人も子どもも楽しめる、そんな場所。球場というよりアミューズメントパークに訪れるような感覚で、遊びにきてほしいですね。
広島に根づくカープ愛。観戦を旅の目的の一つに
——ふるさと・広島は、新井さんにとってどんな場所ですか?
新井 自分が生まれ育った町なので、僕の原点なのは間違いないですが、それに加えて広島といえばカープ。僕自身も子どもの頃からカープファンでした。広島って、町がカープ一色なんです。
観戦となれば、どんなに遠くても家からユニフォームを着て、そのまま電車に乗る。もちろん、僕も子どもの頃はそうでしたし、パジャマもカープのデザインだったぐらい大好きでした。
特別なことじゃなく、それが日常なんです。
——選手とファンの距離も近い気がします。
新井 ほかの球団と比べて、絶対近いと思いますね。だから、声をかけられることも多い。僕の中ですごく印象に残っているのが、まだ駆け出しの頃。試合が終わったあとに焼肉屋で食事をしていたんですね。22 時とか23時とか、結構遅い時間に。
そこで偶然会ったファンの方に「こんなところに遅うまでおらんと、帰って素振りせぇ」って言われて。びっくりしました。
でもそうやって声をかけてくださるぐらい、地元の方にはカープの選手って身近なんだなって。それだけ広島という町に、カープが根づいている証しだと思います。
——選手とのコミュニケーションで大事にしていることは?
新井 正直であることですね。どんなときでも本音で話し、思ったことを素直に言う。上辺だけの言葉で会話をしない。そこは気をつけています。
僕もかつてそうでしたが、監督に言われたことって選手は絶対覚えていて、ずっと残るものなんですよね。だからこそ、正直に自分の心から出る言葉で会話をするのを心がけています。
もし前回と違う答えになったとしても、いまの気持ちはこうってちゃんと伝える。やっぱり言葉って大事だと思うので。
——新井さんといえば大ジャンプ! 選手よりも先に飛び出していることもありますよね(笑)。
新井 僕、うれしかったら「うわぁ~!」ってテンションが上がるので、つい跳んじゃうんですよね。
でも、まさかあんなにジャンプしているとは思っていないので、あとで写真で見て「こんなに跳んでたんだ」って、自分でも驚くことがあります。さすがに、いつか肉離れするだろうなって(笑)。
次に代打を出さないといけないときでも「よっしゃ~!」ってなったら、跳んで忘れてしまうので、いつもヘッド(藤井ヘッドコーチ)がフォローしてくれるんです。頼りにしています。
——現役時代から続けている高野山での護摩行は、2025年で21年連続となりましたね。
新井 今年もきつかったですね。監督就任3年目になりますけど、2025年も勝負の年。優勝に向かって突き進んでいきたいです。
広島はスポーツが盛んな町。カープ以外にも、サンフレッチェさん、ドラゴンフライズさん、JTサンダースさんなど、プロスポーツの球団がこれだけたくさんあるというのも、地方都市では珍しいと思います。
これから先、広島に訪れる多くの人が、スポーツ観戦も旅の目的の一つにしてもらえたら。
聞き手=佐藤明日香 撮影=福角智江
『旅の手帖』2025年7月号より