SFTS感染拡大 マダニはどこまで来ている?
きょうは「マダニ感染症」についてです。先日、東京で「犬」の感染が初めて確認されたというニュースがありました。人の場合はマダニに直接かまれて感染するほか、感染した犬や猫からうつるケースもあります。過去には、感染した猫を診た獣医師が亡くなった事例もあり、他人事ではなくなってきています。
うちの子は大丈夫? 飼い主たちのマダニ対策
では、犬や猫の飼い主のあいだでどのくらい危機感が広がっているのか、街で聞きました。
これトイプードルです。草むらには入れないようにしてます。毛がフサフサなんで、草むら入るとダニもそうだし、ゴミだのホコリだの、いろんなもくっつけて出てくるんで。ダニついててもわかんないですからね。
豆柴です。毎日、洗ってるんです。散歩から帰ると洗ってるんです。家の中で住んでますので、一緒に。(マダニの話って知ってます?)今聞いたことないね、飼い主同士で。
猫です。お薬をつけてくださったりするんですけど、獣医さんに最近行ってなかったんで、行かなきゃって思ってたとこです。
猫いっぱい飼ってます。家の中に4頭で、外に8頭ぐらい。家猫はもう出さないので、一応マダニのお薬はちゃんとつけて。外猫も月一で、(薬を)つけているので、マダニのニュース聞いてるので、ちょっと怖いから処理はしてますが。病院に行くと「マダニの処置をしてください、飼い主さんへのお願い」って警告で出されているので、猫のためもあるし、自分のために。しょうがない。
<マダニ(イメージ)>
皆さんそれぞれに対策しているようです。ただ聞いてみると、犬よりも猫を飼っている方のほうが、危機感が強い印象でした。実際、感染のデータを見ても「猫の方が多い」という傾向が出ています。
そもそも問題になっているのは、マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」。2013年に日本で初めて確認されて以降、全国に広がっています。マダニが持つ「SFTSウイルス」に感染することで発症し、発熱や意識障害などを引き起こすことがあり、人の致死率10~30%と、油断ならない病気です。
人への感染ルートは大きく2つ。
草むらなどでマダニに直接かまれて感染するケース感染した犬や猫を介してうつるケース
なかでも猫がマダニにかまれてウイルスを持ち、その猫を通じて人にうつるケースが多いとされていて、たとえば感染した猫の血液やよだれが、人の傷口や粘膜に触れたときなどに感染したりするそうです。
猫から感染!致死率25%のSFTSに注意(2022.5.31)
「SFTS」については3年前にも取材しました。それ以降、犬や猫の感染が報告が増えているようで、3月末時点で猫およそ1000頭、犬およそ60頭の感染が確認されています(2025年3月末時点)。
現状、ペットの対策としては、首のうしろにダニ予防の薬を垂らすなど、定期的なケアが大切ということでした。
「SFTS」広がりの鍵はシカとイノシシ
感染エリアは、西日本から、関東や北海道など全国に広がりつつあるのですが、それにしてもなぜここまで広がってきたのか。宮崎大学・教授で獣医師でもあり、「SFTS」の研究を長年続けている、岡林 環樹さんに聞きました。
宮崎大学 農学部 産業動物防疫リサーチセンター 教授 岡林 環樹さん
正確には「これだ」っていうのはまだわからないんですけれども、例えば、野生動物の中のシカとかイノシシが、自然界で(SFTSを)維持してるだろうというふうには考えられているんですけども。その野生のシカやイノシシが、徐々に生息域を拡大している。
シカの「SFTS陽性率」が上がってくると、患者さんが出るという指標的な動物の役割になってますので、そういった自然界での広がりっていうのが、人への広がりに影響しているというふうに考えます。
ただし、北海道にちょっと飛んでしまった理由としては、シカとかイノシシでは説明がつかないなぁということにはなるんですけれども。渡り鳥がマダニを運んでいるということもありますので、北海道への報告があったんじゃないかというふうに考えられます。
2013年に山口県で国内で初めて「人の感染」が確認されてから、九州・四国・中国地方を中心に広がり、いまでは愛知、静岡、千葉など、東日本でも患者の報告が出ています。
背景にあるのが、シカやイノシシの生息域の拡大。山の奥にいた野生動物が、人の暮らすエリアのすぐそばまで出てくるようになって、その体についていたマダニも、一緒に人の生活圏へと下りてきた。そうした環境の変化が、感染拡大に影響しているのでは…と国立感染症研究所なども指摘しています。
治療薬ファビピラビル(アビガン)が承認 それでも防ぐのは難しい
ただ、希望の光もあります。これまでSFTSに対する「特効薬」はなく対症療法が中心だったのですが、去年、その状況が大きく変わったようです。
宮崎大学 農学部 産業動物防疫リサーチセンター 教授 岡林 環樹さん
治療薬に関しましては、人の方では昨年度、いわゆる「ファビピラビル」というものが、SFTSの治療用として認可を受けていて、いくつかの患者さんで投与が始まっているとことは聞いております。ただ実際には、非常のこの「マダニからの感染」というものを、一般の方が抑えるっていうのは非常に難しいなと思います。
まず初期症状としての発熱・倦怠感、リンパ節が腫れるだとか、下痢をするとかあるんですけれども、これはSFTS特異的かっていうと決してそうではないんですよね。「体がしんどい時、風邪ひいた時、どんな感じですか?」って言われたら、発熱があって、だるくて、ちょっとお腹痛くて。人も猫もそうなんですが、「ちょっとしんどい」というところからスタートしているので、どうしても難しい。
ただ、マダニに噛まれていることが気づいたとき・そしてそこで体調が悪くなったときに、「『SFTS』っていうのがあったな」っていうのを思いつくのが大事かなというふうに思っております。
いま使われている「ファビピラビル」、もともとはインフルエンザの薬で商品名は「アビガン」。これがSFTSのウイルスにも効くということで、去年から実際に治療に使われるようになったそうです。
とはいえ、やっぱり一番の対策は「刺されないこと」。マダニの活動は10月、11月も元気に動いているそうなので、引き続き注意が必要ということでした。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)