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困難な時代を、力強くも柔軟に乗り越えてきた日本の30年。NHK「新プロジェクトX 挑戦者たち」待望の書籍化!

NHK出版デジタルマガジン

困難な時代を、力強くも柔軟に乗り越えてきた日本の30年。NHK「新プロジェクトX 挑戦者たち」待望の書籍化!

 18年ぶりの新作放送で話題を集めるNHK「新プロジェクトX 挑戦者たち」の書籍化がスタート。第一弾『新プロジェクトX 挑戦者たち1』は「東京スカイツリー」「カメラ付き携帯」「三陸鉄道復旧」「明石海峡大橋」を収載。挑戦者たちはいかにして困難を乗り越えてきたのか?その「成功のカギ」に迫ります。刊行を記念し、本書の「はじめに」を特別公開します。

『新プロジェクトX 挑戦者たち 1』書影

「失われた30年」と呼ばれた時代

 「プロジェクトX 挑戦者たち」の新シリーズが始まりました。

 旧シリーズの放送が2000〜2005年ですから、およそ20 年ぶりの復活です。おかげさまで多くの反響を頂き、その声を励みに、取材や撮影に走り回っています。「昔、学校の授業で見た」「子どもの頃に親と一緒に見た」という方から、「大人になって、いざ働く立場で見たら沁みました」等の感想を頂くと、こちらも思わず気持ちが熱くなります。

 プロジェクトXは、無名の方々が主人公という、珍しいテレビ番組です。有名人もタレントさんも出てきません。画期的な製品開発や災害復旧、医療現場、建設工事、スポーツ。よく知られた出来事を縁の下で支えた、知られざる人々の姿を描きたい、そんなコンセプトの番組です。誰にも知られずに崇高な志を立てたリーダー。個人の力では越えられないハードルを、チーム力で突破していった方々。そして人が人を支える貴さ。埋もれた資料や貴重な写真を関係者の方と一緒に探し、ときにはドラマのようなエピソードに目頭を熱くしたりしながら、制作に当たっています。

 さて、旧シリーズが主に取り上げたのは、昭和のプロジェクトでした。黒四ダムの建設工事やトランジスタラジオの海外営業、国産乗用車の開発など、戦後の日本が技術立国として成長していく時代には、過酷な戦争体験や戦後のどん底の貧しさを、復興への志に変えた人々が数多くいました。

 それから18年が経過して始まる新シリーズは、大きく時代を下り、平成・令和のプロジェクトが中心となります。日本にとって、いわゆる「失われた30年」と呼ばれる時代です。今回、新プロジェクトXを立ち上げたいと思った大きな理由の一つが、このワードへの疑問でした。何も生まれなかった時代と一口にくくられる悔しさを、同時代を生きる一人として感じてきたからです。

明石海峡大橋

 改めて振り返れば、バブル崩壊に始まるこの30年は、IT革命で技術の趨勢が変わり、グローバル化により海外の動向が国内に影響を及ぼすようになり、東日本大震災などの災害の発生といった、想定外の事態がこれでもかと押し寄せた時代でした。その中でも、逆風に負けず、不可能と思われる難題に立ち向かい、ブレークスルーをなし遂げた、気高い挑戦者がいたはずではないか?そんな方々を探してみたいと考えたのが、新シリーズの出発点です。

困難な時代を、力強くも柔軟に乗り越えてきた日本

 昨年秋、若手のディレクターを中心に制作班を立ち上げ、リサーチを開始してすぐに、無数の偉業があることに気づきました。その一つ一つを丁寧に紐解くと、困難な時代を、力強くも柔軟に乗り越えてきた日本の30年の素顔が浮かび上がります。「やらねばならなかった」のが昭和のプロジェクトの特徴であるならば、「やりたい」「面白い」を原動力に多様な個の力を結集するのが平成・令和のプロジェクトの特徴かも知れません。その一方で、人と人が力を合わせるきっかけや、困難を励ます言葉には、時代を超えた普遍的な力を見出すことが出来ます。

三陸鉄道

 この本に収載したのは、新シリーズの最初を飾った4つのプロジェクトです。

 第1回は東京スカイツリーの建設。私自身、最新のテクノロジーを使えば高層建築も簡単に建てられるのではなどと思い込んでいたことを恥じることになりました。想像を絶する難工事を担当した技術者たちの覚悟には、背筋を正される迫力を感じます。

 第2回はカメラ付き携帯電話の開発。今や世界標準とも言うべき仕様を世に送り出したのは、後発キャリアと後発メーカーの弱小タッグ。逆境にあってこそ志が生まれることを、鮮やかに教えてくれます。

 第3回は、岩手・三陸鉄道の復旧。東日本大震災の後、6年はかかると言われた復旧工事を、子どもたちの入学式に間に合わせようとわずか3年で成し遂げたプロジェクト。鉄道会社や建設会社の方々はもちろん、沿線住民の方々の真摯な姿に多くの反響を頂きました。

 そして第4回は、明石海峡大橋の建設。「白昼夢」「夢の架け橋」と揶揄されながら、構想をあきらめなかった元土木技術者の力強い言葉に触れて頂ければと思います。

 時代は変わっても、どんな困難のときにも、「地上の星」は必ずいると信じて、番組を制作していきたいと思っています。ここに登場するのは、ひょっとすると通勤電車であなたの隣に座っているかもしれない、無名のヒーロー&ヒロインたちの物語です。

NHK「新プロジェクトX」チーフ・プロデューサー 久保健一 

NHK「新プロジェクトX 挑戦者たち」
さまざまなプロジェクトに関わった人々の知られざるドラマを届けるドキュメンタリーが18年の時を経て復活。新シリーズでは、「失われた時代」とも言われる平成・令和の挑戦者たちを主にクローズアップする。2024年4月放送開始。

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