インクルーシブ防災とは?【前編】障がい者・高齢者など災害弱者を取り残さない取り組みと社会づくり
2024年4月、障害者差別解消法が改正され、障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化されました。近年、多様な人たちがいることを理解し、受け入れる「ダイバーシティ&インクルージョン」の考えをもとにした社会推進の動きが顕著です。
「インクルーシブ防災」は「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という言葉から来ており、これは「あらゆる人が孤立したり、排除されたりしないように援護し、社会の構成員として包み、支え合う」という社会政策の理念を表します。
この記事では、以下の4点について解説します。
前編 インクルーシブ防災とは? 東日本大震災の事例 後編 災害弱者を取り残さない地域の取り組み 障がい者が感じる生活の不安を理解しよう
インクルーシブ防災とは?
東北福祉大学総合福祉学部社会福祉学科の阿部一彦教授によると、インクルーシブ防災とは「障がい者を含むあらゆる人の命を支えようという防災の考え方」です。
2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議では、東日本大震災の経験と教訓が取り入れられた「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、2030年まで世界各国が防災・減災に取り組む上での指針が策定されました。(※1)
東日本大震災における障がい者の死亡率は一般的な死亡率の約2倍で、災害関連死も障がい者の割合は全体の24.6%に達しました。また、2015年に仙台市で開かれた国連防災世界会議で「障がいと防災」が取り上げられるまで、障がい者が意見を述べる機会はかなり限られていました。(※2)
そのため、「仙台防災枠組2015-2030」では、国が防災・減災に関する全体の責任を持つものの、しなやかで力強いコミュニティづくりや全員参加型の防災・減災対策を進めるためには女性や子ども、若者たち、高齢者、障がい者などさまざまな立場の人がステークホルダーとして重要な役割を担っていることが強調されました。
インクルーシブ防災を実現するためには、防災に障がい者の視点を取り入れ、障がい者自らが主体的役割を果たし、地域や社会全体が障がい者を包摂し、支えていく仕組みづくりが必要になります。
具体的には「要配慮者はどこに、何人いるのか」「災害時にその人たちはどのように避難するのか」「その情報はどのように共有されるか」など、個人と自治体の防災意識を共有しておくことが大切です。
また、障がい者が災害時に直面する困難を周りが少しでもイメージしておくことも具体的施策を検討する際に助けになります。
例えば、聴覚障がい者は防災無線など緊急避難を促すアナウンスが聞えなかったり、聞こえにくく何が起こっているのか判断することが難しかったりします。視覚障がい者や車椅子ユーザーは自力で迅速に避難することは難しいでしょう。加えて、災害による直接的な被害を免れても健常者でさえ慣れない避難所生活で過度のストレスがかかり心身に支障をきたしたり、限られたスペースで同じ姿勢を強いられたり、体を動かす機会が減ったりすることで健康状態が悪化し、亡くなる障がい者の災害関連死も増えています。
今後も南海トラフ地震や首都直下型地震など、大規模な災害が起きる可能性があり、障がい者や高齢者が取り残されることがないよう、社会全体で考える必要があります。
出典:
※1 市民のための仙台防災枠組2015-2030
※2 インクルーシブ防災と防災コミュニケーション
東日本大震災の事例
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、被害が大きかった岩手県、宮城県、福島県の3件で収容された死亡者は15821人(2015年3月11日時点)、そのうち年齢が判明している15738人のうち60歳以上の高齢者は10396人と66.1%を占めました。(※3)
また、岩手県、宮城県、福島県の3県の障がい者手帳所持者1655人が犠牲になりました。障がい者手帳保持者全体に占める死亡率は1.5%で、全住民の死亡率0.8%の2倍近くに上りました。
東日本大震災の被害状況から浮かび上がってくるのは、犠牲者全体において、高齢者や障がい者など、自力で迅速に避難できない人たちの占める割合が高いことです。今後、さまざまなステークホルダーを巻き込んだインクルーシブ防災の取り組みが求められます。
出典:
※3 6 高齢者の生活環境|平成27年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府
※4 岩手、宮城、福島3県 障害者1655人犠牲|河北新報