『追放者食堂へようこそ!』連載インタビュー第11回:デニス役・武内駿輔さん|この作品のメインは「人の幸せを考えることの素晴らしさ」だと思うんです──“深夜の飯テロ人情アニメ”は「人生を生きる上でのヒントが散りばめられている物語」
2025年7月3日より好評放送中のTVアニメ『追放者食堂へようこそ!』。超一流の冒険者パーティーを追放された料理人・デニス(CV:武内駿輔)が、憧れだった食堂を開店し、看板娘のアトリエ(CV:橘茉莉花)とともに、お客さんに至高の料理を提供するという“新異世界グルメ人情ファンタジー”です。
アニメーション制作をてがけるのはOLM Team Yoshioka。食欲をそそる料理作画に加え、笑いあり、涙ありのストーリー展開がSNSを中心に話題をよび、第1話はXで日本トレンド1位を獲得するなど、“深夜の飯テロ人情アニメ”として注目を集めています!
アニメイトタイムズでは、アニメ放送後に掲載されるインタビュー連載を実施。連載第11回は、ついにデニス役・武内駿輔さんが登場です。
武内さんが感じる本作の魅力とは? デニスとヴィゴーが激突する第11話について、ヴィゴー役の鈴木崚汰さんとのエピソードなどを交えて語っていただきました。
【写真】『追放者食堂へようこそ!』デニス役・武内駿輔インタビュー【連載第11回】
本作が描く「人間の再生」
──武内さんが考える本作の魅力について教えてください。
デニス役 武内駿輔さん(以下、武内):原作を読んでいて、食事などのシーンももちろん素敵だなと思ったのですが一番は……「人間の再生」のようなところでしょうか。
デニスは「追放者」という表現をされていましたが、自分の目標を達成できないままパーティーを脱退させられてしまった。ただ、それまでも根本的な問題には真正面から向き合わず、違う形で充実感を得ようとしていた気がするんです。そこから今度は、自分が本当にやりたかった食堂を開いて充実感を得られるかどうかのチャレンジを始めていて。
アトリエは、彼女の人格が育まれる寸前に色々なものを奪われ、自分の意思とはかけ離れた環境に身を置くことになってしまった。その後デニスと出会って違う人生を歩み始めますが、二人はある種の似た者同士なのではないかなと。彼らが集まったとき、対話によって、それぞれの目的をもう一度見つめ直すことができるのか、というのが本作のテーマになっているなと感じたんです。もちろん料理シーンやギャグシーンも魅力ですが、本質的なところはそこにあるのかなと思いました。
──出会う人によってその後の人生が変わることもあるのかなと。アトリエはデニスに出会わなければ奴隷のままだったかもしれないですし、ヴィゴーにももしかしたら転換点があったのかもしれない。
武内:ヴィゴーについては、しっかりと彼に向き合う人がいなかったというのが、デニスとの大きな違いですよね。デニスはジーンという、揺るがない芯となる存在に出会えたことが大きかったと思うんです。
デニスとヴィゴーも似た者同士ではありますが、そういった意味でも対比構造が描かれているし、どうすれば自分自身を呼び起こすことができるのかというところでは、人生を生きる上でのヒントが散りばめられている物語なのかなと思っています。
──その際の食事の大切さもわかりますよね。やはりしっかりと食事を取れていないと、メンタルも良くならないといいますか。
武内:食は動物の本能ですからね。嗜好品というより、生きる上で必要なものですから、すごいパワーを持っていると思います。みんなが当たり前に取る行動ではありますが、それがどれだけ自分のメンタル、人生に影響しているのかは、この作品を見ていると改めて気付かされることだと思います。
──ちなみに、デニスはオーディションだったのでしょうか?
武内:はい。テープオーディションからスタジオオーディションへ進む流れでした。
──オーディションやアフレコ本番にて、デニスを演じるときに大事にしたことを教えてください。
武内:これは結果論なのかもしれませんが「意図して人を助けない」でしょうか。
デニスは「誰かに施しを」という思考を心の底からできるほど、余裕のある人間ではないと思うし、そういうタイプでもないんです。これまでの全ては、ただ自分の目の前で起こっていることに対して、自分にできることは何かを考えて動いた結果なんですよね。アトリエを奴隷商から買ったのも、自分自身にできた空虚感から生まれたものだったように思えるんです。
それは施しではなく、何かを埋めようとする気持ちであり、一度彼の中が空っぽになったからこそ見えてきた視点でもある。おそらく、冒険者時代であれば(アトリエを見て)「そういう子もいるよな……」と思うだけだったかもしれないですから。
──実際、そのシーンでも一度やり過ごそうとしていましたよね。「この世の不平全てに腹を立てていたら、体がいくらあっても足りない」と。
武内:そうなんです。でも、本人が意図していないところで変化が起こっていたと思うので、その雰囲気は大事にしたいと思っていました。
第7話で、デニスが風邪をひいたときに、アトリエがご飯を作ってくれるシーンがありましたが、そのときに出た言葉もアトリエのことを喜ばせようと思って言った「うまい、ありがとな」ではなくて。食事を通して人の温かさに触れたときの素直な言葉が、それだったんですよね。彼のそんなところが、アトリエの人格形成の大切な要素になっていたり、デニス自身がアトリエに助けられることによって、人として満たされていくことに繋がる。シンプルな卵粥だけど、ひたすら美味しい。でも何で美味しいかはわからない。絶妙に気が付いていないというニュアンスも、自分の芝居で描けたらいいなと思いました。
──デニス自身が成長していくお話のようにも感じました。
武内:結果として、Lv.100に繋がるというか。そこに自分も気づけていなかったんでしょうね。これまでも食事というものを通して人と繋がりを持てていた。別に自信がなかったわけではないけれど、結果として、多くの人の支えになっていたんだと気付いた上で、じゃあ「何をするのか」と考えるところが、彼の人生においての次のステップだったと思うんです。
結論、1クールのアニメの中では「この食堂を守り続ける」ということに繋がるわけですが、それは脚本の時点からしっかり描かれていたので、キャストとして、みんなでそれを作り上げることができたのかなと思っています。
──そんなデニスとの「対比」も描かれるヴィゴーについて、どのように思いましたか?
武内:まったく共感ができない存在でもないんですよね。むしろ、ヴィゴーがやっていることって、理解できる人も多い気がするんです。そんなヴィゴーの想いも、デニスなりにわかっていたところもあるんじゃないかなぁと思いました。これは最終話につながるお話になりますね。
何かの縁で、一度同じ時間を過ごしたからこそ、二人の間で感じるものがあったのかもしれないですね。最初は、デニスのほうがヴィゴーにとっては悪だったというか。ちゃらんぽらんに生きているように見えたし、自分自身に向き合わないことが気になっていたと思うんです。実際そういう風に見えるシーンもありましたよね。
──第11話の回想シーンでも、お互いの考え方の違いが見えていましたね。
武内:この作品のメインは「人の幸せを考えることの素晴らしさ」だと思うんです。自分自身だけの人生を歩もうとしても、結局限界がくる。それにデニスのほうが先に気がついて、それをヴィゴーにも技を持って叩き込む。そんな構図でもあったと思っているので、そのメッセージはヴィゴーがいたからこそ際立っていたなと感じています。
セッションの中で、相手のボールをどれだけ良いものにできるか
──ヴィゴー役の鈴木崚汰さんとの掛け合いはいかがでしたか?
武内:強大な敵として立ちはだかることができたと思っています(笑)。個人的に崚汰とは友達のような関係というか……上手く言語化はできないのですが、お互いに何かあったら「お前の面倒は俺が見るよ」みたいな、そんな間柄だと感じているんです。これは崚汰も同じようなことを言ってくれていて。
そんな関係なので、同世代の役者とライバルとなるキャラクターをやれたことがとてもありがたかったです。パーソナルな部分を役に乗せたくないとは思いつつ、崚汰がヴィゴーをやったからこそ出た芝居というものが、僕の中ではあった気がします。
──考えてみると、同世代で特に仲の良い役者さんと共演するチャンスというのも中々ないことかもしれません。
武内:そうですね。こういうご縁って中々ないんですよ。何度も共演する方、お仕事をする上で良いタッグが組める方はいますが、崚汰みたく空いた時間に古着屋さんに行ったり、焼肉を食べたり、ただただ肩の力を抜いた時間をお互い過ごせる存在とライバルや相棒のキャラクターになる機会って、そう多くないんです。
「もう一歩ステップを踏んで上に行くためには、どうしたらいいんだろう」と思う感覚は僕にもあるし、崚汰にもあると思うんです。アフレコではその気持ちをぶつけながら演じることができた気がするので、良い意味で役に作用させられたのかなと思います。
──バトルシーンも迫力満点でした。
武内:先ほど、2人のバトルシーンを改めて拝見させていただきました。思ったとおり崚汰はバッチリでしたが、僕も思っていたより悪くなさそうだなと(笑)。崚汰に引き出してもらったなと思います。
──役を演じていることが前提ですが、武内さんとしても「お前がそう来たんなら、俺はこういく!」のような心理も、演じているときに感じることがありますか?
武内:それはもちろんあると思います。相手がそう来たら、自分もそれに応える。相手の芝居をさらに良くするために、もっと良いボールを投げるにはどうしたらいいのかは、いつも考えています。
お互いが、相手よりも良い芝居をしよう!と考えて、そのセッションから生まれていく表現もあると思いますが、僕の場合は相手が投げてくれたボールを自分が演じ返すことによって「そのボールがもっと良くなるためには、どうしたらいいんだろう」と考えるタイプなんです。そういう意味でも信頼できる役者がいるというのは大事だと思います。
──あくまでも相手がいて成り立つこと、といいますか。
武内:まず役者って、本がないと何もできないんです。自分で書いちゃう方もいますが、基本的には共同作業の中にいる人間なので、信頼できる相手や気になる相手は、どんな役者さんにもいると思います。
今話した通り、僕の目指す役者像が「セッションの中で相手のボールをどれだけ良いものにできるか」なんですね。『追放者食堂へようこそ!』は感覚を研ぎ澄まさせてくれる現場でした。
──ビビア役の伊瀬茉莉也さんのインタビュー時に、「武内くんはどんな球でも必ず打ち返してくれる」「まだ20代後半だと思うけれど、人生何回目?って思うくらい、心の深いところまで全部わかっていて、なおかつそれをお芝居に全部乗っけられるくらいの技術力がある」とおっしゃられていました。
武内:いやいやいや、伊瀬さんこそですよ!
デニスに関しては、僕は毎話葛藤しながら演じていました。反省点を挙げるならば、最後まで自信が持てなかったところです。どのくらい自信を持って演じれば良かったのかという答えもないんですけどね。あまりに「俺について来い!」になってしまっても違うから、別に悪い反省点ではないと思いたいです。
作品はみんなで作るものだから、最終的に良いバランスになっていたらいいなと思うし、そこは音響監督の小沼則義さんや志村錠児監督が、しっかり演技をチョイスしてくださっていたと思います。
──皆さんの演技はもちろん、作画も料理だけでなく、バトルやギャグなど幅広いものを求められていたのにすべてが魅力的でしたよね。
武内:身体の動きもそうですが、表情にもこだわってくださっていましたね。アニメーション全体を通して感動したのは、アトリエの寄りの絵での機微! 髪の毛の揺れ方などにも重きをおいてくださっていて、妥協がなかったように思いました。
アトリエのようなキャラクターは、普段の表情変化が乏しい分、ほんの些細な動きで、セリフのニュアンスも違って聞こえると思うんです。彼女のことをとても写実的に捉えて反映させてくださっていたと思います。そうやって作り込んでくださったのは、作品ファンとしても感動する部分でした。
──アトリエが、何かをギュッと握るシーンをはじめ、アトリエだけでなく、それぞれのキャラクターの目の少しの動きなどで語るシーンが多かった印象です。
武内:キャラクターの細かい呼吸感や目の動きで、どれだけ立体的に感じられるか、命を感じられるかが決まると思うんです。そこをとてもこだわってくださっていたので、素敵な作品だなと思いました。
「皆様の食卓に混ざれるように」
──第10話までの印象的なシーンを教えてください。
武内:第6話の「貴様らはアトリエを侮辱した!」「俺が全員、焼き払ってやる!」は、オーディションでも演じたシーンでした。力だけではねじ伏せられない入り組んだ権力。そういったものに立ち向かうあのシーンは重要だと考えていたので、個人的に大変なシーンでした。探り探り、という自信のない言い方はしたくないのですが正直探り探りで、どういう形がいいんだろうと考えていたんです。
これまでも、デニスが大人としてやり取りをするシーンもありました。たとえば、バチェルが「夜の霧団」を抜ける話し合いをするシーンやアトリエの裁判。社会人として、相手と対話しようとするシーンですよね。アトリエの家の問題も、本当に相手をぶっ飛ばすことができたらそれでいいのかもしれませんが、きっと根本的な解決にはならないから話し合いから入る。そこでは会話劇が大事になるので、印象に残っています。
──では、追放者食堂で食べてみたい料理はありますか?
武内:親子丼が好きなので、コカトリス親子丼ですかね。玉ねぎが美味しそうなんですよ。自分で作っていても思うのですが、肉に目が行きがちだけど玉ねぎが一番風味を作るんです。それをアニメでも見事に表現していたと思います。
(資料を見て)……料理の設定資料を見たら、炒飯も米の一粒一粒まで、パターンが描き込まれているんですよね。卵を少しだけまとっているときの米とか。このあたりも感動しますよね。
──武内さんはお料理もされるのですね。
武内:最近料理をするようになりまして、結構楽しいんです。煮物をするのも楽しくて、筑前煮など、色々作っています。
あと、家で作るとなるとオムライスもこだわっています。最近、オムライスは卵よりケチャップがメインだと気付いたんです。ケチャップをいかにベチャベチャにならないように炒められるか、みたいな(笑)。その塩梅にこだわっています。
──使うケチャップにもこだわりがあったり?
武内:基本的に家にあるものを使いますが、できれば国産のケチャップが良いですね。なんとなく旨味を感じるような気がしています。
──ちなみに卵は昔ながらの雰囲気ですか? それとも半熟?
武内:半熟寄りかもしれないですね! 単純にチーズなどのトッピングのことを考えてですが。
──食堂や居酒屋での思い出はありますか?
武内:行きつけのような飲み屋があるんですよ。僕にとっての「追放者食堂」みたいな飲み屋なのですが、九州料理屋さんで、お母さんと息子さんで切り盛りしているんです。
そういう場所って、来ている人の拠り所になっている気がするんですよね。そこで仕事の話をしたりするのですが、会議室ではなく畳の上で自分の思っていることや仕事についての話をする。長机でしゃべるのとは違う視点で対話できるので、すごく大事にしている場所ですね。
──最後に、これから迎える最終話についてご紹介をお願いします。
武内:最終話は、皆様に良い安心感を与えられる内容になっていると思います。この作品を最後まで見て良かったと思えるような気持ちの良い第12話になりましたし、何度も見返すことができる作品になったと思っています。
それこそ食事の時などに気になった話数を見てほしいですね。「皆様の食卓に混ざれるように」が僕の中でのテーマだったので、日常に入り込める作品になれていたら幸いです。
【インタビュー・文:塚越淳一 編集:西澤駿太郎】