マッツ・ミケルセン、キロスぬい握インタビュー ─ 『ライオン・キング:ムファサ』で「機会があれば今後も歌に挑戦したい」
“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンが声優に挑戦だ。それだけでなく、美麗な歌声まで披露。ディズニーの超実写映画『ライオン・キング:ムファサ』で、ムファサとタカを追い詰める冷酷な敵ライオンのキロスを演じている。
THE RIVERでは、来日を果たしたマッツ・ミケルセンに単独インタビュー。劇中で響かせる美声についてや、声優ならではの演じ分けについて詳しく聞いた。
ミケルセンはインタビュー開始前から、終了後の写真撮影に至るまで、自身の演じたキロスのぬいぐるみを終始握りしめていた。ご機嫌インタビュー中のミケルセンの様子を撮影した動画と共にお楽しみいただきたい。
『ライオン・キング:ムファサ』キロス役マッツ・ミケルセン 来日 単独インタビュー
──また日本に来てくれてありがとうございます。こんなにたくさん来日してくれるなんて。
そうなんです。よく言われますよ。
──あなたのファンは、「もしかして日本に別荘でもあるのでは?」なんて話しています(笑)。
いえ、ありません(笑)。でも持つべきですね。東京はちょっと高すぎるから、郊外でね。
日本に来るのは大好きです。あいにくこちらでも仕事で忙しくさせてもらっているから、いろいろ見て回れるのは半日とか、せいぜい1日くらいしかなくて。だから次回はもうちょっと日程を伸ばして、数日はゆっくりしたいですね。
──日本には小島秀夫さんという親友もいらっしゃるかと存じますが、それ以外で日本のどんなところが好きなのですか?
日本の好きなところはたくさんあります。まずは国民性が素晴らしい。食事も、歴史も好きだし、自国の文化に誇りを持っているところが好き。これはとても重要なことで、全ての文化がそうであるとは限りません。以前にも言いましたが、ヨーロッパでは自国の文化を責める風潮があるのですが、誇るべきだと思います。だから、皆さんが自分たちに誇りを持っているところに憧れます。過去に酷いことがあったからといって、自国文化を誇れないということではない。そこが素晴らしいです。
──映画『ライオン・キング:ムファサ』を観させていただきましたが、とても素晴らしかったです。あなたのキャラクターが本当に良かった。カッコよくて、深みもある。特に、あなたの歌の上手さに驚かされました。歌の才能もお持ちだとは知らなかったです!
それは嬉しいですね!実は、今まで歌ったことなんてなかったんですよ。
──曲の中で、"Bye Bye"という歌詞をさまざまに表現しているのが素晴らしかったです。イジワルっぽく歌ったり、狡猾に歌ったり。
フフフ(笑)。変化をつけるために、たくさんのバリエーションを試しました。あの曲は楽しい曲ですが、同時に憎しみもあります。彼が大切にしていたものを失ったという曲ですね。だから、憎しみと楽しさの面白い組み合わせでした。
──今後も、もっと歌う機会に興味はありますか?
どうでしょう。あまり野心はありません。素晴らしい歌手は山ほどいますからね。彼らが彼らの仕事をやれば良い。それに、私より歌が上手い俳優も山ほどいます。でも、機会が訪れたら挑戦してみたいですね。
──キロスは悪役のような声色で喋ります。でも、彼は自分のことを悪とは思っていないでしょう。
そうですね。歴史上でも多くの悪役たちは自分のことを悪とは思っていないでしょう。歴史的にも、人はいつも自分は善の側にいると考えがち。もちろん、自分の利己のためと割り切っている人も何人かはいる。でも歴史上、極悪非道な行いをした人々には、多くの人と同じビジョンがあった。そこには道のりというものがあって、もしも誤った道を選んだら、まずい方向に進んでしまうのです。
──彼は群れに対して威厳を示す必要があったと思います。でも、映画としては悪役らしくある必要もある。悪役らしさと、一体のキャラクターらしさ、そのさじ加減はどのように考えましたか?
そんなに難しいことはないです。彼が悪に染まる以前、彼の人生には酷いことが起こってしまう。だから彼は復讐に駆り立てられるのです。彼は憎しみに満ち溢れたライオンです。アルビノであるので、動物の世界では生き延びることができない。だから群れを追い出され、自分で生きる術を見つけなくてはいけなかった。厳しい日々を乗り越えて、残忍なライオンになったのです。そして自分と同じようなアルビノのはぐれライオンたちに出会っていく。彼には、誰も一緒に遊んでくれない子どもだったというバックストーリーがあるのです。
(c) 2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
ムファサも同じように両親や群れを失っています。しかし彼は前向きな性格なので、ちゃんと新しい友や家族を見つけていきます。キロスはムファサとは違った人生観を持っているので、育った環境はそれほど違わないのですが、アプローチの仕方が違うのです。
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──せめて短編でも、キロスの単独作品があればいいと思いませんか?
それは面白そうですね(笑)。でも、あまり必要ないんじゃないかと思います。1作目ではスカーが悪役でしたが、今作ではスカーがどのようにしてスカーになったかが描かれたから。とても感動的で、はっきりした物語だと思います。あの幼いライオンは兄弟が欲しがっていて、兄弟ができたことで素晴らしい日々を過ごす。やがて、自分はヒーローではないこと、勇気も持ち合わせていないことに気づいていく。それが彼の周囲への感覚に影響していく。スカーの物語としても、とても素晴らしいと思います。
──スカーといえば、キエテル・イジョフォーが声を演じているというのも面白いですよね。あなたたちは『ドクター・ストレンジ』(2016)で共演していますから。
本作に出ている?若いスカー役で?
──いえ、大人のスカーです。前作の話ですね。
そういうことか!混乱しちゃいました。そう、その通りです。もう数年前になりますね。
──まさに“サークル・オブ・ライフ”ですね。
その通り!この仕事をしていると、こういう重なりがよくあります。私はアメリカ人じゃないけど、知り合いとまた重なることが多いから面白い。デンマーク作品ではしょっちゅうです。でも、確かにキウェテルでしたね。気づかなかった。
──キロスの八重歯のデザインは、あなたの実際の歯に影響を受けたそうですね。
らしいですね。面白い。
──ディズニーキャラクターのデザインに影響を与えた俳優としては、あなたが初なのでは?(笑)
私の歯が初めて役に立ちましたね(笑)。監督のバリー(・ジェンキンス)は、ライオンが不気味な見た目になるのを避けるために、あまり擬人化を望んでいませんでした。でも、少し面影を出したかったようで、リアルなライオンに見えつつも、俳優の特徴を取り入れたかったのです。
<!--nextpage--><!--pagetitle: 「飼っている犬の名前はメッシ」 -->
──今作は『ライオン・キング』の前日譚ということで、あなたがこれまでに演じたキャラクターの前日譚について考えてみたいと思います。今回はディズニー作品ですので、『ドクター・ストレンジ』のカエシリウスか『ローグ・ワン』のゲイレン・アーソを再び演じるとしたら?
うーん、私が面白いと思うのは……、ハンニバル・レクターですね。子ども時代のハンニバルが見られたら絶対面白いと思う(笑)。一方で、見たくないかもしれない。見ない方がいいかもしれない。彼が彼であることに、言い訳も理由もいらないのです。彼は彼、それでいい。
今作では、スカーの物語がいいですね。彼がなぜスカーになったかは、語られるべきだったと思います。でも、そういうことをしない方がいい映画もある。
──以前、『モンスターズ・インク』(2001)のデンマーク語吹替でも声優を務めていらっしゃいましたね(※ランドール・ボッグス役)。声優業の楽しいところはなんですか?
『モンスターズ・インク』の時は、できるだけオリジナル版をコピーしようとしました。オリジナル版はスティーヴ・ブシェミでしたね。なので我々はできるだけコピーをして、そこから自分らしさを出しました。
でも『ライオン・キング:ムファサ』は全く別でした。元となるものがないわけです。1枚のスケッチがあるだけで、それでシーンをやる。それから少しだけアニメーションが上がってきて、また収録していく。ゼロからの仕事になりました。どんな感じになるのかを想像しながらの仕事なので、元の素材が全てあるものとは真逆でした。
ディズニー映画でそんなことをやらせてもらえるなんて、すごく光栄でした。私が生まれるよりずっと前からあるものですから。伝説のクラシック映画がたくさんあるディズニーからオリジナルキャラを演じてくれと依頼されるなんて、素晴らしいことです。
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──今作では、人間のキャラクターとは違った喋り方を心がけましたか?
はい。全てが現実より少し誇張されている感じはありました。もしもカメラに顔を撮られていたら、大袈裟な演じ方はしなかったと思います。でも今回はカメラに写っておらず、アニメで描かれているので、全てを隠すことができる。もしも収録風景をカメラに収めていたら、全ての俳優たちはアニメーション的な調子で、身体を使ったり、叫んだりしていたと思います。これはカメラの前では絶対にやらないような演じ方です。でも、アニメーションの世界観なら少し大袈裟にできるので、そういう演じ方ができるわけです。
──Instagramで拝見する限り、あなたは犬を飼っていらっしゃる?
はい。
──じゃあ、どちらかというと犬派でしょうか?
動物はなんでも好きです。犬だけでなく、猫を飼ったこともありますよ。虎が飼えるなら飼いたいくらいです。飼っている犬の名前はメッシ。サッカー選手です。女の子なんですけどね。
──僕はアニメーション版『ライオン・キング』を観て育ったので、今作では全ての起こりが見られて興奮しました。あなたはアニメーション版にどのような思い入れがありますか?
私は小さい頃に観たわけではないですが、子どもたちは観て育っていますね。特に娘は小さい頃に観ていて、それから息子も。だから私も、DVDやBlu-rayで何百回も観ました。素晴らしい映画ですよね。いつ観ても色褪せない、クラシック作品です。
どの世代にもクラシックがありますよね。『アナと雪の女王』を観て育ったという世代もいるだろうし、私の場合は『ジャングル・ブック』でした。そういうわけで、『ライオン・キング』は大好きです。
──本作のテーマについて教えていただけますか?
テーマはたくさんあります。私にとってこの映画の中核は、タカとムファサの兄弟関係と、タカがスカーになるという流れ。シェイクスピア的な魅力があります。近しい間柄同士では、何か細かい亀裂が走ると、一方の性格が内側から蝕まれてしまう。嫉妬心が憎しみへと変わっていくのです。とてもシェイクスピア的で、見ていて辛い。それが私にとっての主題です。ムファサは、王座につきたい者などいないと考えていましたが、そこに選ばれるライオンもいる。そういう物語です。
映画『ライオン・キング:ムファサ』は2024年12月20日、公開。