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『フジロック』にある音楽フェスの原風景、その後の人生を変えた苗場での感動体験【音楽ライター・リレーコラム(最終回)】

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『FUJI RCOK FESTIVAL』

年に一度、夏に3日間だけ現れる、大自然に囲まれた巨大な音楽空間『フジロック』には、大小様々なステージが点在し、日本国内はもとより世界中のアーティストが自己表現をしにやってくる。オーディエンスはその音楽に触れながら、自分を解放したり、取り戻したり、何かを吸収したり、発見したりして、各日数万人が自由に過ごす。とりわけ山というロケーションで行われる大規模な音楽フェスは世界的に見ても他に例がなく、海外からの出演者や来場者からもその点について語られることが多い。

そして『フジロック』は、私が音楽フェスの原体験をし、仕事の経歴にも絡む思い入れの深い現場でもある。その時々で参加スタイルも居場所も異なるため観たステージには偏りも限りもあるが、それでも記憶に刻まれた場面は数多くある。苗場に会場を移してから25周年を迎える『FUJI ROCK FESTIVAL'24』開催直前の今、これまでの“『フジロック』in 苗場”について私的目線で振り返ってみよう。

■音楽フェスの原風景は、苗場の『フジロック』にあり

私が苗場の『フジロック』に初めて参加したのは2001年で、会場が移ってから3年目だった。というのも、1997年の初開催の時に受けた洗礼があまりにも強烈だったため、また行こうと思えるまでかなりの時間を要したのだ。

天神山では嵐がリアルに吹き荒れていて本当に参ったけれど、4年後に訪れた苗場の『フジロック』はまったく違っていて、何から何までが感動の嵐となって押し寄せてきた。青い空、緑に囲まれた広い会場、アーティストによる多彩な音楽とオーディエンスの熱気、おいしいフードに旨い酒。「こんなに楽しい音楽空間がこの世にあるなんて!」という驚きの連続で、天神山の時と比べたらまさに天国と地獄。体感としてはそのぐらいの差があったし、その進化は目を見張るものだった。今思えばそのギャップのせいで感動がより大きなものになったのかもしれないが、この年の『フジロック』での感動体験がその後の私の人生を大きく変えるきっかけとなった。

まず、当時担当していた日本人アーティストを『フジロック』に出演させようと画策、本人の歌唱力が高く評価され見事実現した。その後イギリスに渡り、『グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)』にも行って泥まみれになり、海外アーティストと仕事がしたくて英語も学んだ。あれから23年が経った今では海外アーティストの現場通訳として働く機会も得ており、『フジロック』ではライティングのほかに、子どもと一緒に『フジロック』に参加する人をサポートするメディア「こどもフジロック」に2016年の立ち上げから参画し、開始当時1歳だった子どもと母と共に親子三世代で楽しませてもらっている。

■忘れられない『フジロック』in 苗場で観たステージ

エミネム(2001年) (C)Kenji Kubo

第一に、私の人生を変えた2001年の『フジロック』ラインナップの充実度たるや半端なかった。ニール・ヤング・クレイジー・ホース(Neil Young Crazy Horse)やエミネム(EMINEM)、他にもすごいメンツが揃っていた神年で、特に覚えているのは初日のトリのオアシス(Oasis)と、2日目にグリーンステージで真っ昼間に観たパティ・スミス(Patti Smith)だ。オアシスでは兄弟が喧嘩することもなく、幸せオーラ全開のオーディエンスとその大合唱に埋もれ、その場に存在するすべてが一体化したかのような不思議な感覚とそれまでの人生では体験したことのなかった多幸感というものを初めて味わった。ビール片手にみんなで歌ったあの時間、すごく幸せだったなあ…という感情とともに脳裏に残るこの時の光景。これが私の音楽フェスの原風景となったわけだけれども、ここでの体験が『フジロック』に長年参加し続けている動機の根底にあるように思う。

オアシス(2001年) (C)Kenji Kubo

そしてあまりにも素敵で泣いてしまったパティ・スミス。パンクの女王は履いていたブーツを放り投げてステージ下まで降り、我々オーディエンスに音楽でストレートに対話してきた。20歳そこそこだった自分はあの時ぶつけられた彼女のロック魂を自分なりに受け継ぐと一大決心をし、大興奮のまま向かったオアシス(※フードエリア)で売られていた地元新潟の利き酒がおいしくて止まらず、ぐいぐいと進んでしまい、楽しみにしていたステレオフォニックス(Stereophonics)を爆睡して見逃し、起きたらアラニス(Alanis Morissette)がくるくると華麗に回っていたのも今では良き思い出だ。

パティ・スミス(2001年) Ⓒ Shigeo Kikuchi

翌年はアヴァロンにシークレットでポエトリーディングを披露した姿もしっかりキャッチして、客エリアに降りてきたパティの元へダッシュして握手をしてもらったこともあった。そんな風にオーディエンスと何度も積極的に直に交わっていたアーティストは後にも先にもパティしか観たことないかも。その頃、何年か立て続けに出演していたけれど、今はぱったりと止んでしまった。彼女は間違いなく苗場でまた観たいアーティストの一人だ。

そんなパティのステージを観て「ここで歌いたい!」と言った矢野まきちゃんは翌年アヴァロンのステージに立ち、パティへのオマージュとして1曲目に「Because The Night」を届けた。こうしたアーティストからアーティストへ継承されるスピリッツがドラマのような一幕となって観ることができたりするのも『フジロック』の醍醐味のひとつだろう。

さて、初苗場とその派生だけでこの分量では完全に文字数オーバーになるので、ここからは駆け足でダイジェスト風にいこう。

晴れた昼のグリーンステージで踊りまくった東京スカパラダイスオーケストラ(2002年)。なぜ昼に観るのかがわからなかったTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT(2003年)。レジェンド、ルー・リード(LOU REED/2004年)。そして初年のリベンジでようやく観られたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers/2002年)と『フジロック』20周年(2016年)、レッチリの後で20周年を締めくくった電気グルーヴ(2016年)の凝った演出は抜群だった。

雨で思い出すのは歴代でも突出して酷い雨の中で観たシーア(SIA/2019年)、雨に当たったレーザーが幻想的だったスクリレックス(Skrillex/2018年)、降り出したので他曲を中断して雨歌を披露したトラヴィス(Travis/2008年)もピースフルでとてもよかった。

美しい空といえば、ホワイトステージ特有の夕暮れ時に現れる紫色の空をバックに観たエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(Explosions In The Sky/2012年)とエレファントカシマシ(2018年)、同じくホワイトステージといえばド派手な演出のビョーク(Bjork)を通り過ぎて観に行ったイギー・ポップ(IGGY POP/2003年)、真夏で野外という難しい環境にオーケストラを引き連れてきたMONO(2012年)も印象深い。轟音つながりでは永遠に続くと思われたマイブラ(My Bloody Valentine/2008年)、シガー・ロス(Sigur Rós/2005年)も凄まじかった。

MCでは、ロックを好きなのは自分だけだと長いこと思っていたけれど、自分以外にもこんなにいっぱいいたと知ってうれしいという名MCでオーディエンスを号泣させたTHE HIGH-LOWS・甲本ヒロト(2002年)、コロナ禍の難しい中でヘッドライナーという重責を背負って立った葛藤が痛いほど伝わってきたKing Gnu・井口理(2021年)と、いつでも全力で愛を叫ぶサンボマスター・山口隆(2021年)の言葉が心に響いた。

フー・ファイターズ(2023年) 撮影=大橋祐希

そして昨年のフー・ファイターズ(Foo Fighters)の出演には泣きに泣いた。それ以前の2015年のデイヴ・グロールが足の骨折のため玉座に座ったまま出てきたレアなステージも思い出深いが、2023年はドラマーのテイラー・ホーキンスの亡き後、バンドの行方を案じていたところでの出演発表からドラマティックで感動的だった。苗場で観たステージも無論最高で、やはりロックフェスにはロックバンドがよく似合う圧巻のステージだった。

それから、『フジロック』でいつも観られるのが当たり前だと思っていた忌野清志郎、電撃ネットワークの南部虎弾、そしてTMGE、ROSSO、The Birthdayのフロントマンであり、ソロでも出演したチバユウスケ。『フジロック』で幾度となく観た彼らのパフォーマンスは忘れない。

■2024年の『フジロック』注目のアクト

クラフトワーク(KRAFTWERK)

今週26日からいよいよ開催される今年の『フジロック』にも個性豊かなアーティストが日本はもとより世界各国から集結する。伝説のステージが新たに生まれるまであと少しだ。そんな2024年の『フジロック』の注目のアクトはたくさんいるが、中でもクラフトワーク(KRAFTWERK)の初フジロックは理由なしで観ておきたい。ザ・キラーズ(The Killers)は彼らを好きだという外国人が周囲に多いのに加えて、これまで一度も観たことがないので外せない。

ザ・ラスト・ディナー・パーティー(THE LAST DINNER PARTY)

そのほか、ストーンズのオープニングアクトをつとめたロンドン発のザ・ラスト・ディナー・パーティー(THE LAST DINNER PARTY)、71歳(!)のキム・ゴードン(KIM GORDON)、久しぶりに二人揃って苗場のステージに立つ電気グルーヴ、上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonderは観たいところだが、上原ひろみはザ・キラーズとかぶっているのでとても悩んでいる。

ケロポンズ

そして、「こどもフジロック」的ヘッドライナーのケロポンズとスペシャルゲストのむぎ(猫)の共演も楽しみにしているアクトだ。一見、子ども向けだと思われがちなケロポンズだが、決してそうではない。本気で踊れて本気で泣けるステージが毎年繰り広げられている。おそらく『フジロック』最多出演者なのではないだろうか? まだ観たことがないなら、「エビカニクス」を予習して、カニツメを持って2日目アヴァロンに集合だ!

文=早乙女 ‘dorami’ ゆうこ

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