本番演技は成功だったのに大号泣!そのワケは?小4自閉症息子の運動会
監修:藤井明子
さくらキッズくりにっく院長 /小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医
ASD(自閉スペクトラム症)のミミが、運動会前に自ら練習をしだした!
長男のミミは小学4年生、ASD(自閉スペクトラム症)があります。学校ではストレスが多いらしく、学校を嫌がりながらもなんとか登校している状態です。
運動会が近づいたある日、運動会で踊る踊りを、家でも楽しそうに練習をし始めました。
保育園の頃は、運動会が苦手でだったミミ。小学校では参加はできていましたが、コロナ禍で小規模だったため問題がでなかったところもあったと思います。
タブレットでダンスの動画を見ながら日々練習しているミミを見て、私と次男ふーは拍手!
楽しそうに踊る姿を嬉しく思いつつも、それまでの運動会について思い出したのでした。
「周りの子は何でできるんだろう、うちの子は何でできないんだろう」保育園での最初の運動会で感じたこと
初めての運動会は、ミミが3歳の時でした。
親子で障害物を乗り越える競技では、歩くことすらできず泣いてしまったミミ。私が抱っこして、すべての障害物をスルーしました。保護者なしの演技では先生がミミ一人に付きっきり……。
「周りの子は何でできるんだろう、うちの子は何でできないんだろう」と思いました。その時の心細いような悲しい、切ない気持ちは忘れられません。
今思えば、ミミは保護者がたくさんいるいつもと違った状況で、緊張したんだろうなと思います。
来年の運動会はどうなることかと思いましたが、ミミは毎年ちょっとずつ成長を見せてくれました。
「参加できなくてもいい、期待しない」と思って臨んだ4歳の運動会。ミミが大好きな年長のお姉さんがミミと手を繋いでリードしてくれました。最後まで参加できた! 私は嬉しくなりました。
どうやら、運動会の練習の時から大好きなお姉さんの隣になるよう配慮してもらっていたようです。先生の対応に感謝しつつも、ミミも楽しそうでなによりでした。
私・パパ・ふーで見守った5歳の運動会。なんとこの年は一人で参加できたのです! 一人でしっかりほかの子どもたちの中にいるミミに感動しました。ですが、途中でお友達とぶつかったようで、そこからケンカに! 先生がお互いの気持ちを代弁してくれ、涙のミミをギュッと抱っこしてくれて気持ちを落ち着かせてくれました。すぐには収まらないので怒って涙顔だったけれど、なんとか最後まで参加できました。
コロナ禍のため、小規模開催だった小学校の運動会
小学校入学時はまさにコロナ禍真っ只中で、運動会自体開催されるのか危うい状況でした。結局小学1年生と小学2年生は学年毎に行う小規模開催となったのですが、自分の学年の分が終わったら各教室にすぐ戻るので、ミミにとっては負担も少なく良かったと思います。
そして小学3年生の時新型コロナの落ち着きに伴い、ついに全学年参加になりました。
手袋をして踊るお遊戯だったのですが、ミミの演技は完璧。感激してしまいました。
でも、その年の運動会は自分の出番が終わっても、ほかの学年の応援をするため校庭にいなければなりません。
運動会のあとの感想は「暑くて嫌だった」。長時間校庭にいるのは確かに疲れますよね……。来年はもっと長時間、大規模になるかも……? と思うと私は少し心配でした。
そして4年生の運動会、ミミは楽しく踊れるのでしょうか?
練習の成果は? どうなった⁉ 今年の運動会
そして今年の運動会! 太鼓とバチを持ったお遊戯は練習の成果が出ていてバッチリ成功! 真剣な表情を見せたり、時々笑顔で楽しそうに踊っていました。ミミ、よく頑張ったね。
そして徒競走。ミミは小さい頃から常同運動があり、フワフワ動くことで落ち着くタイプ。独特の動きなので、遠くに居るミミを見つけやすいのですが、この時もミミはフワフワした走りで最下位。これは想定内でした。最下位でも最後まで走り切れてえらい!
どうなるか心配だった運動会でしたが、ミミはすごく頑張っていたなと感心した私。私は運動会の片づけ係だったので、ミミは先に帰宅しました。私も片づけを終え、頑張ったミミをねぎらおうと帰りました。するとなんとそこには顔と目を真っ赤にして泣きはらしたミミがいたのです!
どうして? 誰かとケンカでもしたかな? と思って、パパに聞いてみると……。
帰宅したミミは、パパを見てホッとしてしまったのか、それまで我慢していた気持ちが溢れてしまい、号泣してしまったのだそう……。
演技が終わったあとも待っているのが嫌だったこと、日差しが強いし暑くてつらかったこと、目の前にいた応援団の声が大きくてうるさかったこと……。どうやらたくさんたくさん我慢していたようでした。
パパに、「ママが帰ってきたらこの顔(泣いた顔)を見せたい」と言ったそうです。こんなにつらくて悲しかったことを私に伝えたかったそうな……。私は(学校では怒らないで我慢していたんだね……)とミミの頑張りをほめたくなりました。
3年生までは、お遊戯を撮影した動画を何度もみんなで見て楽しんでいたのですが、今年の動画は「見ないで、見るな!」と嫌がりました。つらかったことを思い出すからでしょうか。
運動会では児童の席にテントもあったのですが、ミミの座席は最前列だったため直接日差しがあたっていましたし、応援団の声も届きやすい位置でした。
もう大丈夫だと思っていた運動会ですが、成長や環境によっていろいろとトラブルが出てくるのだなと思いました。来年の運動会の時には、ミミも5年生になるので自分から担任の先生に話して席をうしろにしてもらうように交渉してみたら? と促してみようと思います。
執筆/taeko
(監修:藤井先生より)
診察室にて「運動会の時に、わが子がほかの子と同様のことができていなかった」というお話を伺うことがあります。その時に私が言うことは、「お子さんのペースがあるから大丈夫、きっと成長したなと笑える日が来るから大丈夫」ということです。ご長男のミミさんのコラムを読ませていただき、改めて、お子さんのペースで成長するのだなと思いました。成長や環境によってトラブルがあるかもしれませんが、対応策を一緒に考えて、提案して、少しずつできたという経験が、これからの成長の糧になると思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。