Yahoo! JAPAN

「国際バカロレア」認定校が127校に 幼稚園〜高校で「知識」だけでなく「概念」も学ぶ理由〔専門家が解説

コクリコ

国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」について、「国際バカロレア」の普及に努めてきた玉川大学大学院教授・星野あゆみ先生に取材。教育内容と認定校が急増している理由など。(全4回の1回目。

【中高生の性教育】中学生に「コンドームの使い方」を教える “4児の母“の数学教師が明かす「理由」とは?

「『国際バカロレア(IB)』は、国際的な視野を持ち、社会で活躍する人材を育てるための教育プログラムです」とは、20年近く国際バカロレアの日本での普及に尽力してきた玉川大学大学院教授の星野あゆみ先生。今回は、国際バカロレアの教育内容と、この10年間で認定校が増えた理由をお聞きしました。

認定校は国内で127校に達した国際バカロレア(IB)

──そもそも「国際バカロレア」というのは、一体どのようなプログラムなのでしょうか?

星野あゆみ先生(以下、星野先生):「国際バカロレア」というのは、1968年にスイスのジュネーブで生まれた国際的な教育プログラムです。

ジュネーブは国際機関や多国籍企業が集まっているので、駐在員の子どもが通うインターナショナルスクールが昔から多くあります。

国籍、宗教、文化などさまざまなバックグラウンドをもった子どもたちが一緒に学ぶわけですから、カリキュラムも世界共通で使えるものを独自に開発し、多様性を育む非常に豊かな学びが実践されてきました。

その学びを世界の大学が入学資格として認めたのが「国際バカロレア(=IB)」です。

「国際バカロレアの認定校は国内外で増え続けています」(星野先生)。

星野先生:追跡調査をすると、IBの資格を持つ子どもたちはとても優秀で、大学卒業後も各国で活躍していることがわかってきました。

そこで徐々にニーズが高まり、各国の名門大学が資格を持つ学生を受け入れるようになり、IB教育を実践する認定校も世界各地で増えていきました。

現在、世界163の国と地域で約6000校、日本国内でも127校が認定されています(2025年3月時点)。

──半世紀も前からある教育プログラムなんですね。

星野先生:はい。しかし国際バカロレアは世界の研究者の最新の知見を持ち寄って作り上げるプログラムで、その内容は常にアップデートされています。

今、学校で学んでいる子どもたちが社会で活躍するのは10年後、20年後。変化の激しい現代において、20年後にどんな課題があるのか、それを解決するためにどんな知識が必要かを予見することはできません。逆に今求められていても20年後には使い物にならない知識がたくさんあるはずです。

そこで国際バカロレアでは、社会がどう変わっても生かすことができるベースとなる学力、学び方や考え方、課題への向き合い方や人間性を育むことを目指しています。

「知識」だけでなく「概念」も学ぶ理由

星野先生:つまり、国際バカロレアでは知識の獲得だけを目的にはしていません。

そこをゴールにしてしまうと、特定の分野や課題でしか活かすことができないからです。そうではなくて、一つのテーマについて学ぶ中で得られた知識を、抽象的・普遍的な観点で捉え直すことで、一見全く関係ない分野や課題でも生かすことができるようになります。

国際バカロレアでは、そのような「概念学習」を重要視しているのです。

星野先生:たとえば、恐竜について学ぶとして、恐竜の名前をたくさん覚えただけでは応用が利きません。

しかし恐竜絶滅の「原因」や、恐竜絶滅によって起きた「変化」など、絶滅について概念的に深く理解することができれば、現在生きている動植物の絶滅や、生物に限らず言語や文化の絶滅などを考える際にも、その知識を生かすことができるのです。

認定校は幼稚園から高校まで

──国際バカロレアというと、留学に有利というイメージから、高校や中高一貫校を思い浮かべる人も多いと思うのですが、幼稚園や小学校でも認定校(園)があることを知りました。

2回目で紹介する、東京都にあるバカロレア認定園の『町田こばと幼稚園』。

星野先生:国際バカロレアは、より平和な世界を築くことに貢献する国際的な視野をもった人材の育成を目指しているのですが、その具体的なイメージとして、

①探究する人、②知識のある人、③考える人、④コミュニケーションができる人、⑤信念をもつ人、⑥心を開く人、⑦思いやりのある人、⑧挑戦する人、⑨バランスのとれた人、⑩振り返りができる人

という10の学習者像を掲げています。

こういった人間性は一朝一夕に育つものではありません。そこで、幼児期から年齢に応じた教育プログラムを実践しているのです。

3~12歳向けがPYP(Primary Years Programme)、11~16歳向けがMYP(Middle Years Programme)。

16~19歳対象で、最終試験に合格すると大学進学に活用できる国際バカロレアの資格を得ることができるのが主にDP(Diploma Programme)とCP(Career-related Programme)です。

CPは、大学進学のみを目的とせずキャリア教育や職業訓練に特化していて、最近、日本初となる認定校がでたばかりです。

認定校は私立・公立・インターまでさまざま

──国際的なカリキュラムということですが、学習内容も一般的な日本の学校とはだいぶ違うのでしょうか?

星野先生:IBは先ほど挙げた10の学習者像やさまざまなスキルを育むために「どう学ぶか」の枠組みを定めたもので、「何を学ぶか」はPYP とMYPは各国、各学校に委ねられていますし、DPやCPでも学習指導要領の内容とうまく整合性を取りながら決めることが可能です。

日本国内の認定校も、インターナショナルスクールから私立や公立の一条校(学校教育法第1条に規定されている幼稚園や学校)までさまざまですが、一条校では、学習指導要領で定められている内容をIBのプログラムに合わせて組み直すなどの工夫をして指導しています。

つまり、世界で活躍できるスキルや人間性を磨きながら、日本で必要とされる学力もきちんと獲得することができるのです。

「ただ教えたことを覚えさせるのではなく、なぜ学ぶのか、この学びが社会でどう役に立つのかを意識する学習をし、自律的な学習者を育てるのもIBの特徴です」(星野先生)。

認定校が増えている理由

──ここ数年でIBの認定校が増え、注目されているのはどうしてでしょうか?

星野先生:実は日本でのIB教育の歴史も意外と古く、1979年から始まっています。そこから普及に向けてさまざまな検討や協議が重ねられて、2013年に文部科学省との協議会が立ち上がりました。

──国としてもIBを推しているんですね。

星野先生:これまで日本の学校ではとにかくたくさんの知識を詰め込む教育が行われてきました。しかし、さまざまな格差や、少子高齢化、温暖化など、答えのない問題が山積みの今、求められる人材も変わってきています。AIの存在感も高まっていますしね。

2020年から完全実施された現在の「学習指導要領(注1)」には、「主体的・対話的で深い学び」という言葉が盛り込まれ、探究心や批判的思考力の育成が求められるようになりました。実はこの内容がIBとシンクロする部分がとても多いんですね。

しかし多くの学校では、実際に何をどう変えていけばよいかわからないというのが現実です。先生たちはとても忙しく勉強する時間がなかなかとれませんし、何より先生たち自身が知識詰め込み型の教育しか受けてこなかったからです。

そこで、最新の研究に基づいて開発更新されているIBのプログラムを導入する学校が増えているのです。

最終試験は日本語で受けられる科目も

──求められる英語力は、やはり相当高いのでしょうか?

星野先生:年齢や学校によって違います。幼稚園から小学校に当たるPYPでは、7歳から第2言語を必修にしていますが、特別に高いレベルではありません。あくまで母語と違う言語があることや、異文化を学ぶツールとして導入しています。

MYPでも英語で受けなければいけない授業はありませんが、DPでは最低2科目の授業と試験を英語で受けることを定めています。

多くの学校は、英語と数学など、ハードルの低い科目を選んでいるようですが、国語以外の全教科を英語で学ぶ学校もあります。

最終試験に関しては、日本の学習指導要領と整合性のある多くの科目を日本語で受けられるようになっています。

──海外進学を見据えて英語力を伸ばしたいのか、海外進学をする予定はないけれど、これから必要とされる力を伸ばしたいのか、目的に合わせて学校を選ぶことも大切なんですね。

星野先生:そのとおりです。IBの認定校と言っても千差万別です。地域性や各学校の文化・伝統がIBのカリキュラムによって損なわれることはありません。

雰囲気や行事、授業の進め方なども学校によってさまざまなので、ぜひ自分に合った学校を見つけていただきたいですね。

───◆─────◆───

国際的な視野を持った人材育成を目指す国際バカロレアは、さまざまな課題を抱える日本でも導入が求められているカリキュラムであり、これからの教育の道しるべになるものであることがわかりました。

次回は、PYP(Primary Years Programme)を導入している『町田こばと幼稚園』の取り組みをお伝えします。

撮影/安田光優
取材・文/北京子

星野あゆみ(ほしの・あゆみ)
玉川大学大学院教授。教育学研究科教育学専攻。専門は日本における国際バカロレア(IB)の教育。
1987年より20年間国立大学附属高校で英語教員として勤務の後、2007年より国公立初のIB認定校で中等教育プログラム(MYP)とディプロマプログラム(DP)の立ち上げに関わり、10年を過ごす。
その間、MYPコーディネーター、DPコーディネーター、主幹教諭、副校長を歴任。また、IBのアジア太平洋地域日本担当開発マネージャーも2013年より兼務。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. アニメ『アオアシ』第2期が制作決定! 2026年放送予定、制作はトムス・エンタテインメントが担当

    PASH! PLUS
  2. 声優・石見舞菜香さん、『【推しの子】』『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』『転生王女と天才令嬢の魔法革命』『さよならの朝に約束の花をかざろう』『白猫プロジェクト』など代表作に選ばれたのは? − アニメキャラクター代表作まとめ(2025 年版)

    アニメイトタイムズ
  3. 海浜公園でGW恒例「春のわくわくフェスタ」

    赤穂民報
  4. 『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』東雲絵名(CV:鈴木みのり)の誕生日アンケート結果発表! 絵名をの可愛さ、スゴさとは? ファンのみなさまから寄せられた魅力をお届け!

    アニメイトタイムズ
  5. フィロソフィーのダンス×清竜人25 対バンライブ「Great Hunting Night Summer Edition」東京キネマ倶楽部で開催決定!

    WWSチャンネル
  6. 【2025年初夏】とんでもなく垢抜けるよ。アラフォーのための最新ネイル

    4yuuu
  7. <ネタバレあり>『BE:FIRST World Tour 2025 -Who is BE:FIRST?-』ロサンゼルス公演 オフィシャルライブレポート

    WWSチャンネル
  8. つぼみ大革命、なんばグランド花月にて大阪ラストライブ開催<ライブレポート>

    WWSチャンネル
  9. 【2025年5月】多幸感たっぷり。最高に今っぽいオレンジピンクネイル

    4MEEE
  10. 約20年ぶりに『ディッピンドッツ』を食べたら記憶よりも遥かに美味くて感動 / フレーバーを混ぜてみたら「アノ味」になって大爆笑!

    ロケットニュース24