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いちにち全力で授業を受けたら、つぎの日はがっつりやすむ。【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

NHK出版デジタルマガジン

いちにち全力で授業を受けたら、つぎの日はがっつりやすむ。【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

統合失調症VTuber・もりのこどくさんによるエッセイを公開

統合失調症は100人に1人程がかかるといわれていますが、症状や悩みを打ち明けづらく、苦しんでいる方も多い病気です。

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続ける「もりのこどく」さん。

高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴った初めてのエッセイを、ダイジェストにてご紹介します。

※NHK出版公式note「本がひらく」より。「本がひらく」では毎週月曜日に連載最新回を公開中です。

#8 だいじな休暇

 こどくの2024年の抱負は、「いちにちおき」だ。いちにち全力でやったなら、いちにち全力でやすむ。この抱負は、できるだけまわりに伝え、ぜったいに守ることを誓っている。かぞくから、主治医の先生、カウンセラーさん、おともだちまで。伝えて、覚えていてもらうことで、こどくが忘れても、まわりが思いださせてくれるからだ。

 ではなぜ、「いちにちおき」なのか。

 2023年、こどくは大学に通い始めた。高校6年目にしてやっと合格できた大学で、こどくは充実したキャンパスライフをスタートした。大学の授業も、新しくできたおともだちとのつきあいも、課題や製作でさえも、全力でたのしんだ。しかし、たのしいキャンパスライフは、わずか1か月で崩壊への一途をたどった。

 ある日、こどくは大学へ行くために道を急いでいた。数日前から、あさ起きられなくなり、遅刻気味だったためである。しかし、通学途中で、こどくは派手に転んでしまった。

 転んだ瞬間は、頭が真っ白になってあまり覚えていないが、気がついたら、こどくのまわりにいたひとたちがこどくを抱き起こしてくれていた。

 なにやら、大丈夫か、といったことを聞かれた気がするが、こどくはそれも覚えていない。

「すみません、すみません」

 膝をおおきく擦りむいたこどくは、意味もなく謝り、大学の保健室へ行った。その後病院へ行き、全治2週間と言われた。

 そのできごとが起こった日から、こどくの体調不良は加速していった。最終的には妄想や幻覚などの陽性症状と呼ばれる統合失調症の症状が現れ、こどくは入院することになった。

「なんでこんなに悪くなってしまったんでしょうか」

 診察室で、話せないこどくのかわりに、かぞくが主治医の先生に聞く。先生は、即答した。

「過労ですね」

 こどくはそれを聞いて、悲しくなった。

 こどくはただ、たのしい大学生活を送りたいだけなのに。そんなこともできないのか。すこし、たった1か月、大学に通っただけじゃないか。

 そして、2週間ほど入院して、理解した。こどくに必要だったのは、やすむことと、そのための時間と、そのための勇気だ。入院生活のなかで、ただぼーっとしているあいだに、こどくは回復していった。入院という「強制やすませ期」があって、はじめて、やすむことの重要性に気がついた。

 そして、大学に復帰した後期からは、「いちにちおき」にやすむことを心がけた。いちにち全力で授業を受けて課題もやったなら、つぎの日はがっつりやすむ。それをくりかえす。

 このやりかたをはじめてから、こどくが体調不良に見舞われる日はがくんと減った。大学にも毎日通い、後期の単位はひとつも落とさず、前期はほとんどの単位を落としたにもかかわらず留年もしなかった。

 こどくのことしの抱負は「いちにちおき」だが、らいねん以降も続けていこうと思う。つねに全力を尽くしてしまうこどくにとって、それは、だいじな、休暇だから。

イラスト:もりのこどく

#9 見えないもの

 こどくは幼少のころから、妄想するのがすきだった。ここでいう「妄想」は、統合失調症の症状の「妄想」ではなく、なにかについて思いを巡らす、統合失調症ではないひともする「妄想」だ。

 たとえば、よる、みんなが寝しずまったあとに、ぬいぐるみたちがひみつのお茶会を開いているだとか。太陽は、本当は空という天井にくっついたからくりじかけのおおきな時計だとか。この折り紙で折った鶴はしゃべれないだけで、じつは感情があるだとか。とにかく、つねに、ありえないことを想像しては、ひとりでくすっとわらったりしていた。

 そのなかに、長らく妄想していたものがふたつある。

 ひとつは、イマジナリーペット。じつは、こどくはちいさなりすを飼っていたのだ。だれも知らないし、だれにも見えないけれども、そのりすはつねにこどくのこころのなかにいた。さみしいときはずっと隣にいてくれたし、たのしいときはいっしょに飛び跳ねてくれた。いつからか、こどくのもとからは去ってしまったけれども、その子はだいじなおともだちだった。

 もうひとつの、妄想。それは、こどくが見ている世界と、他人が見ている世界は、じつはまったく別のもの、という妄想だ。たとえば、こどくにとって、「赤い」と感じるものがあるとする。他人にとっても、それは「赤い」が、そのふたつの「赤」がまったく同じものだと、どうして言えるだろうか。犬と人間の見ている世界が同じではないように、人間同士でもちがうものが見えている可能性はないだろうか。

 こどくには、そういう「だれにもわからない世界」が存在していた。その世界のなかで、育まれたものはおおきいと思う。見えないからといって、存在していないわけじゃない。見えているからといって、同じものが見えているわけではないのかもしれない。

 そんな「見えない」ものたちが、こどくに影響を与えたのだろうか。こどくはいまでは、統合失調症という「見えない」病気と闘っている。

イラスト:もりのこどく

※「本がひらく」での連載は、毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

YouTube:もりのこどくちゃんねる

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