「こころとからだはなかよし」性教育の今 自分や相手のすべてを大事にする「人間学」へ
「性教育」と聞いて自分が受けたものを思い出すと、「生殖」や「性行動」に関することが多いのではないでしょうか。
いま教育の現場では、「性」を切り口とした幅広い学びに期待が寄せられています。
連載「じぶんごとニュース」
「いのち持ってきた人、手あげて!」「はーい!」
「じゃあどんな形してるの?」「丸!」「ハート」
札幌の保育園です。園児たちに向け行われているのは、「いのち」についてのおはなし。
講師の高杉ゆう子さんは、学校や自治体などからの依頼を受け、北海道内外で活動しています。
「お口とお胸とパンツをはくところのことを、プライベートゾーンって言います。心とつながる大事なところ。プライベートゾーン見られそうになったり、触られそうになったらどう思う?」
園児
「いやな気持ち」
「心でいやだなって思ったらどうする?」
園児
「『やめて』って言う」
「こころとからだはなかよし」、このメッセージは小さな胸にも刻まれているようです。
今、「包括的性教育」というものが注目されています。
養護教諭、いわゆる「保健室の先生」を目指す学生たちが行う、性教育の模擬授業です。
「お友達に勝手にキスをしてもいいか、〇か×か、どっちかあげてください」
「この人はちょうど半分で男性の心と女性の心が分かれていますが、男性の心が大きい人もいれば女性の心が大きい人だっています」
選んだテーマは、「プライベートゾーン」や「LGBTQ」、恋人同士で起こる暴力「デートDV」についてなど、多岐にわたります。
いわゆる「生殖」や「性行動」についてだけではなく、「性」を切り口に自分を大切にすることや、人権、人間関係などについて、広く学ぶことを目指すもので、文科省も学習指導要領の中で推奨しています。
家庭や地域など、外との連携の大切さを学生たちも実感しています。
自身も養護教諭である北翔大学教育文化学部の野口准教授は、「包括的性教育」は、時代のニーズを反映していると語ります。
「今までは物質的な豊かさをずっと求めてきた。今は実感できる豊かさの方が大切になってくる。人との関わりや人権、リスクを避ける、SOSを出せる、失敗してもて立ち直れる、それらを含めた力を、学校という教育の中でつけていくことが求められる」
性教育は「いのちのおはなし」だけど学校現場の現状は
北海道余市町の高校です。
今年は各学年につき1コマ、養護教諭が教壇に立ち、「性」に関する授業をすることになりました。
多くの学校では、年間の授業計画の中で養護教諭による授業の機会が確保されているわけではありません。養護教諭の提案により行われるのが、一般的だといいます。
この日の授業もロングホームルームの一コマをもらっての「保健講話」。
「デートDV」がテーマです。
余市紅志高校の長島里美養護教諭はこうした授業の意義についてこう話します。
「都会に出たときに困らないような人間関係の構築や、コミュニケーション能力みたいなものをもうちょっとアップさせてあげたい。結局は人間学だから」
道内外の学校などで講演をつづける、高杉ゆう子さん。
この日は「いのちのおはなし」をしに、後志の赤井川小学校へやってきました。
配られたカードをかざすと見えるのは、針であけたようなとっても小さな穴。
これは受精卵の大きさ、いのちの始まりの大きさです。
高杉ゆう子さん
「母乳って何からできるか知ってるかな?」
妊娠によるお母さんのからだの変化、赤ちゃんが育ち、産まれてくる仕組みなども明るく、わかりやすく伝えます。
「“性”のことは人権とか命の問題に直接関わってきていて、命自体も性から始まる側面もあるので、必ず命の話から入るようにしています」
高杉ゆう子さん
「みんなの心には実は扉がついている、残念ながら内側にしかドアノブはついていない。自分の命をやめちゃいたいなってとき、心の扉は閉じてる?開いてる?」
児童
「閉じている」
高杉ゆう子さん
「誰が開くの?」
児童
「自分、自分なのに扉から離れている」
高杉ゆう子さん
「『ひとりぼっちだな』『寂しいな』と思ったときは、誰にだったら扉を開けるかなっていう人を、1人でもいいから持っていてほしい」
「いのち」を大切にするということは、自分自身を大切にするということ。
これからの性教育は、いまの生活やその先の人生を豊かにすることが目指されます。
「いのちのおはなし」を語る高杉さんは、子どもたちに「大人になると心と体を別々に動かせるようになって、知らないうちに自分の心が何を感じているかわからなくなる」とも話していました。
「こころとからだは仲良し」。
だからこそ自分の体と同時に自分の心を守ることも大切ということですね。
自分と他人を守る気持ちが具体的な行動につながってほしいですし、性や自分を大切にする心は子どもたちだけでなく、大人も大事。
学び直しという意味でも「じぶんごと」で性教育に向き合っていきたいですね。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年6月12日)の情報に基づきます。