海に捨てられていた深海魚＜カゴカマス＞の小型個体を食べてみた おいしく味わう調理法とは？
底曳網漁業は大きな網を広げて船で網をひき、底のほうにすむ魚を多量に漁獲するという漁法です。
この漁法は深い海の生態系に大きなダメージを与えうる漁法であり、網の目のサイズや漁期に制限があります。
しかしながら、それでも利用されずに海に戻される魚は多く、一方で海に戻された魚は弱っており、ほとんどの場合すぐに死んでしまいます。
カゴカマスという深海魚も小型個体は利用されることが少なく、海に戻されることが多いです。
小骨が多く、食用にしにくいカゴカマスの小型個体をなんとか利用できないか、また、どのように食べるのが美味しいのか。
そこで、ある調理法を試してみました。
カゴカマスと分類
今回ご紹介するカゴカマスは名前に「カマス」とついていますが、カマス科ではなく、クロタチカマス科の深海魚です。
クロタチカマス科は、サバ科などと同じ「ペラジア」と呼ばれるグループに含まれています。
これは従来のサバ亜目+イボダイ亜目およびほかのいくつかのグループが含まれる包括的単系統群ですが、カマス科はこの中には含まれていません。
クロタチカマス科とは
クロタチカマス科は世界中の深海に生息するグループです。体は長めであり、クロタチカマスやホソクロタチ、ナガタチカマスなど著しく長いものも含まれています。
多くの種はサバ科のような小離鰭（しょうりき／背鰭や臀鰭後方にある小さな遊離した鰭）をもちますが、もたないものもいます。また、側線の形状、腹鰭が顕著であるか否か、尾柄部の隆起線の有無などバラエティにとんだグループといえます。
食用になるものが多く、塩焼きや煮つけなどにして食されますが、種によっては小骨が多く食べにくいものもいます。
一方で、なかにはバラムツやアブラソコムツのように、身にヒトが消化できないワックス成分を多量に含むことから、食用としての販売が原則禁止されているような種も含まれています。
クロシビカマスとのちがい
カゴカマスとよく似ている魚に、クロシビカマスという魚がいます。
見た目はよく似ていますが、クロシビカマスはクロシビカマス属、カゴカマスはカゴカマス属とそれぞれ別属の魚です。
クロシビカマス属はクロシビカマスのみからなる1属1種ですが、カゴカマス属の魚は7種が知られています。
カゴカマスは側線が2本ありますが、クロシビカマスは側線が1本しかなく、それで見分けるようにしたほうがよいでしょう。
カゴカマスの漁法
カゴカマスの成魚は、メヌケ類やキンメダイなどを狙う深海延縄漁や、遊漁の深海釣りで釣れます。
底曳網漁業においても大きい個体が水揚げされることはありますが、全長10センチ前後の小型個体が多量に漁獲されています。しかし、カゴカマスの小さい個体は骨が多くて食べにくいため、多くの場合は投棄されてしまいます。
底曳網漁業というのは、1艘または2艘の漁船で着底した網を曳いて、魚やエビ、カニ、イカなどの水産物を漁獲するという漁法。深い海の生き物を多量に漁獲してしまうので、海底の生態系に大きなダメージを与えてしまうとも言われています。
もちろん、漁期であったり（多くの場合で夏は休漁期）、網の目のサイズに規制があったりと、資源管理への取り組みは行われていますが、それでも小型の魚が網に入ってしまうことは多いです。
そして、網に入ってしまった小型魚は多くの場合、そのまま海に戻されます。しかしながら体表が傷ついているなどダメージが大きいものも多く、戻してもすぐに死んでしまうというものが大多数です。
日本のカゴカマスは比較的小型であり、重要な食用魚とはなっていません。一方で、オーストラリアやニュージーランドなどにすむミナミカゴカマスなどは全長1メートル近くにまでなり、食用として利用されています。
カゴカマスの小型個体を食す！
2024年12月、筆者のもとにカゴカマスの小型個体が多数やってきました。
このカゴカマスは鹿児島県沖で行われている、深海性のエビなどを漁獲する底曳網漁業で漁獲されたものです。
一部の個体には、魚の口腔内に寄生する生物・ウオノエの仲間がいるのも確認できました。見た目はなかなかインパクトがあるのですが、ヒトには無害です。
ちなみに、ウオノエの下にある“長い棒のようなもの”は、カゴカマスが食べた、もしくは網をあげているときに口の中に入ってしまったであろうエビの仲間の触角のようです。
それにしても、小型なのにすごい歯をしています。
小型のカゴカマスをたたいて食べてみる
今回やって来たカゴカマスはいずれも全長10センチほどの小型個体で、普通に食べると小骨が多くて食べるのが難しいところがあります。
初めてカゴカマスを食して以降、この問題には長いこと悩まされてきました。焼いても、煮つけでも食べるのが難しかったのです。
そこで今回は、カゴカマスを焼いたり煮たりせず、ネギとあわせて、細かくたたいて食べることにしました。
小骨が多い小魚でも、こうすればうまく食べることができるかもしれないと思いました。
千葉県発祥の郷土料理「なめろう」のようなものですが、私は味噌の味付けをあまり好まないため、味付けをせず、そのまま刺身醤油で食べました。
その味はきわめて美味であり、さんざん悩まされた小骨に悩まされるようなこともありませんでした。
近年は、静岡県沼津市の「深海魚直送便」「ヘンテコ深海魚便」などにより、一般の家庭でも深海魚が手に入れやすくなりました。
もしこのような箱の中にカゴカマスの小型個体が入っていたなら、ぜひたたいて食べてみてほしいと思います。
（サカナトライター：椎名まさと）
文献と謝辞
橋本芳郎、（1977）、魚介類の毒、学会出版センター
宮 正樹．2016．新たな魚類大系統ー遺伝子で解き明かす魚類3万種の由来と現在．慶応義塾大学出版会．東京．
中坊徹次編（2013）、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会
岡村 収・尼岡邦夫（1997）日本の海水魚、山と溪谷社、東京
今回のカゴカマスは鹿児島県魚市場の田中水産 田中 積さんよりいただきました。ありがとうございました。
