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インバウンド需要増加。日本の不動産・住宅の“安全保障”はどうあるべきか~時事解説

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外国籍の購入者による不動産取得が、社会問題にも

外国人観光客から人気のニセコを擁する北海道俱知安町

このところ、外国籍の購入者による日本国内の不動産取得が社会問題になる事態が相次いでいる。

例えば、北海道倶知安町では、2023年から中国系とみられる人物と建設会社が森林伐採と建物建設を進めており、当初森林の伐採面積は0.99haと、森林法による届け出・許可が必要な面積以下としていたが、実際には約4倍にあたる3.9haが伐採されていることが判明し、道は工事停止の勧告および都市計画法違反についても調査を開始する事態に至っている。

また、板橋区では、築40年の7階建て賃貸マンションの新たなオーナーとなった中国籍の人物が運営する企業から、これまでの約2.6~3.2倍に賃料を引き上げる旨の通知が届き、賃借人数名が退居。残った賃借人が弁護士に相談の上、賃料引き上げを拒否する内容証明を送ったところ、これまで使用していたエレベーターが点検・部品交換のためと称して一方的に使用中止にされた。このことは国会でも取り上げられるなど、看過できない社会問題として広く報道される状況となっている。

これらはいずれも日本人からすれば“常識外れ”であり“社会通念上あり得ない”話なので、驚きをもって大きな話題となっている。
日本国内の不動産や住宅は主権国家である日本の国土に根ざす資産であり、守り受け継がれる主権者たる国民が所有するものだから、外国籍の人物が日本人と全く同様に購入可能な状態にしておくことは望ましくないと考える人もいるだろう。もちろん買ってはいけないと禁止することは経済合理性に欠けるが、以前から指摘されていたように、地域の水源地や歴史的に重要な土地・建物など、外国籍の人物が購入することが適切ではないと多くの人が考える不動産について、一定の購入制限を設けることも選択肢に入る。

また、特に東京都心部など都市圏中心部で住宅価格が急騰し、ここでの生活や育児、資産形成に資する住宅の購入に対するハードルが極めて高くなっている。これも海外マネーが投機(不動産投資ではなく値上がりを待って売却するだけ)の対象としていることが一因とされており、これについては、例えばカナダでは、外国人の住宅購入を一律2年間禁止という措置を実施し、オーストラリアでも2025年4月から、外国人が既存住宅を購入できないとする時限措置(解除時期未定)を導入している。

このような日本の不動産および住宅に関する“安全保障”をどのように考えれば“居住の安全・安心”を守ることができるのか、有識者の意見を聞く。

日本の不動産・住宅を安全・安心・安定の視点で考える~矢部 智仁氏

矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中

「安全保障」という言葉は生命や生活にとって欠かせない価値を脅威から守ることを指す。その意味で不動産や住宅にこの言葉をあてるのは少々大袈裟に聞こえるかもしれない。しかし、貴重な資源や財産としての不動産というかけがえのない価値はまさに命や生活にとって欠かせない価値そのものであり、それらを脅威から守るという意味ではまさに安全保障の対象である。北海道倶知安町での申請内容に反する大規模な森林伐採や東京都内での賃貸住宅での突然の家賃引き上げといった事例は単なる市場取引上のトラブルではなく、まさに暮らしの安心と安定を揺るがす出来事であり安全保障の一分野として論じるに値する事象と言える。

不動産の三つの側面


不動産・住宅の安全保障を考えるうえで出発点となるのは、「不動産は誰のため・何のためのものか」という視点だ。不動産には三つの側面がある。国民全体にとっては社会を支える共通財産であり、生活者にとっては暮らしを成り立たせる基盤であり、投資家にとっては市場で扱われる金融商品である。
これらはしばしば相互に制約し合い、同時に最大化することは難しい。そのため、衝突が生じたときにどこにより大きな重みを置くかを考えることが重要になる。私は、共通財産>暮らし>市場の順で重みづける立場を提案したい。

①社会を支える共通財産としての安全


水源地や防衛上の拠点といった国の機能を支える地域や文化財など豊かな社会生活を支える不動産は、誰が所有しどう利用するかなどついて「自分たちで判断できる権利」を確保することが重要であり、市場の理論よりも優先されるものだと考える。これは将来世代にきちんと国民の共通財産を引き継ぐためには当然の方針だ。具体的には、取引の透明化(登記や実質所有者の把握)、用途や開発の条件付与、リスクエリアでの事前審査などが考えられる。そうした施策は市場に一定の制約を与えるが、共通財産としての性格を守るための最低限の安全装置は必要だ。

②暮らしの安心


住まいは生活の基盤であり、市場のダイナミクスを活かしつつも極端な賃料高騰や居住排除を防ぐ仕組みが不可欠だと考える。具体的には家賃補助や社会住宅、アフォーダブルハウジングといった政策的手段を用いて市場に介入することが考えられる。ただしその要点は誰かを排除することではなく地域の暮らしを支える条件整備であることが前提だ。

③市場の安定と公共性


新たな資本流入は市場を活性化させる一方で、仮にそれが短期的な投機マネーであれば価格変動の幅を増幅して地域を不安定にする。市場の動きを受け入れながらも、例えば長期投資へのインセンティブ、地域還元を伴う開発協定、情報開示と説明責任の強化などを通じて投資を公共性に資する方向へ誘導することも考えるべきだ。外資か否かではなく投資の性格と時間軸をコントロールする発想が重要だと考える。

公共の福祉の最大化を基軸に


結局のところ不動産は共通財産であり、暮らしの基盤であり、金融商品でもある。それを理解した上で、排除でも全面自由化でもなくどこに重みを置いて国民生活の安心と安定を確保するのかを明確にすることが必要だ。それはつまりは公共の福祉をいかに増進するか。その視点を軸にすることだ。

国がグランドデザインを、自治体は地域に応じた施策を~長嶋 修氏

長嶋 修:日本ホームインスペクターズ協会 理事長、さくら事務所会長(創業者)。不動産デベロッパーの支店長を経て、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、株式会社さくら事務所を設立。現会長。国土交通省、経済産業省などの委員を歴任。NHKドラマ「正直不動産」の監修を一部担当。『2030年の不動産』(日本経済新聞出版)他、著書・メディア出演多数

日本の大都市圏の不動産価格は、他の先進国の都市と比べるとまだまだ安すぎるのが現状だ。他の先進国と肩を並べたいのであれば、規制などせず、むしろ呼び込むための政策を推進すべきだろう。とはいえ、これは国家運営の哲学の問題であり、どちらが良い・悪いという話ではない。

一方、一定程度の規制をしたところで、都心・駅前・駅近・大規模・タワーに代表される立地が良くニーズの高い不動産の価格高騰への抑止効果は限定的だろう。外国人の需要が制限されたとしても、国内の富裕層、投資家、パワーカップルなど、購入したい人は列をなして後ろに控えている。

規制をしなければ、今後さらに一般世帯が好立地の不動産を取得しにくくなることは目に見えている。これに歯止めをかけるには、都市計画や国土のグランドデザインといった根本的な政策の見直しが必要になってくるだろう。

現在、空き家の増加や一部地域の過疎化が深刻化する中、不自然なまでに東京一極集中が加速している。あえて意見を述べるとすれば、人口も機能も一定程度分散させるべきだろう。先般、千代田区が打ち出した新築マンションの転売規制は、単なる一自治体の対応ではなく、都心のマンション市場の構造を変える最初の波になる可能性もある。

とはいえ、都心以外のエリアでこのような政策をとってしまえば、投資家どころか住人も離れてしまいかねない。均衡を取るには、都市計画やグランドデザインの大枠は国が舵を取るにしても、地域ごとの実情に応じた施策は自治体が担っていく必要がある。外国人や投資家を呼び込むかどうかについての意思決定も、自治体の判断に委ねていいのではないだろうか。

結局のところ、これまでの住宅政策の不作為な歪みが顕在化しているのが今なのだろう。戦後の高度経済成長期に住宅建設計画法のもと、住宅を量産しているうちにバブルが崩壊。そして失われた数十年を経て、住宅が景気対策の道具になってしまっている中で、人口減少、空き家の増加、格差の拡大などあらゆる問題が露呈している。政策転換が必要なのは歴然だ。

戦後に真剣に考えたように、住宅を中心とする国土のグランドデザインの方向性を全体で決め、きめ細かな政策については各自治体に任せていくのが望ましい。自治体政策については正解はなく、市民の声と意思で決めていくことが大切であり、市民にはその自覚を持つことが求められる。

摩擦の発生自体を理由として差別的に抑制するべきではない ~中川 雅之氏

中川雅之:1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日経・経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある

近年外国人・外国法人が日本の土地を所有するという行為について、包括的で厳格な措置が必要であるという意見を広く聞くようになった。そのような主張は国益のためという文脈で行われることが多いが、本当だろうか。

まず認識しておく必要があるのは、資本移動もサプライチェーンもグローバル化し、激しい人口減少にさらされている日本では、ヒト・モノ・カネのいずれも海外からの流入を予定しなければ、経済、社会を保つことが難しいという現実である。それでも国民や地域社会で困っている点があるとすれば、それを丁寧に拾い上げることは必要だろう。インバウンド需要が家賃や地価が上昇し、これまでその不動産を利用していた者が利用できなくなる結果、土地の利用形態が変化し、当該地域の環境や雰囲気が変化することを問題視する議論がある。

たしかに日本においても外国人居住者が多い地域では、生活習慣の相違、子どもの教育、コミュニティのルールをめぐる摩擦などからさまざまなトラブルが生じている。これらは、旧住民たちによって形成された環境が新住民たちから影響を受けることに伴って生じる一般的な問題であり、土地利用や所有者が変化する際に、強制力のない地域のルールをどこまで、どのように遵守させる工夫を取り得るかという問題である。

また、その都市が何によって付加価値を生み出しているのか、だれが付加価値を生み出しているのかが変化したとき、居住者の変更が当然のように付随する。この点はインバウンド投資に固有の問題ではなく、一般に不動産利用の用途変更にともなって生じる問題である。この問題も、エッセンシャルワーカーなどの都市機能維持に必要な人たちのアフォーダビリティをどのようにして確保するかと問題に帰着する。

一方国家安全保障上重要な不動産について、地政学的な意図をもった取引が脅威を及ぼす可能性が指摘される。それを特定化して、一定のコントロール下に置くという政策は必要であろう。しかしこのような懸念に対応するために、重要土地等調査法が成立、施行されている。 

国際不動産取引に伴って地域に新たな摩擦が生じる可能性があるとしても、それを一つ一つ解決することに注力すべきであり、摩擦の発生自体を理由としてインバウンド取引自体を差別的に抑制するべきではないと考えられる。「外国人・外国法人の日本の土地所有」という行為に対して、漠然とした不安や評価しようがないリスクに対して過剰な反応をとることなく、冷静な議論が必要であろう。

この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。

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