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滋賀の風を感じるメディアアートとは?高校生たちと伝え、作る新しいつながり

しがトコ

【しが文化交流プロジェクト/Abstraction:風】

琵琶湖を渡る風。
比良から吹き下ろす鋭い風。
夕暮れに街を包む、やわらかな風。

滋賀の暮らしの中には、いつも風がいます。
見えないけれど、確かに“滋賀らしさ”を運んでくれる存在。

その風を「美」として捉え、かたちにしてみるとしたら——。

紫洲書院が取り組む「滋賀の風を感じるメディアアート」は、
そんな問いから始まりました。

アートの現場で使われる光の仕組みを、高校生へ伝え、
自分の手で“風の作品”をつくりあげていく。

今回は、そのプロジェクトの様子をそっとのぞいてみます。

技術室から生み出されるアート

訪れたのは、立命館守山中学校・高等学校。
新しい学びに挑戦し続ける、中高一貫の学校です。

アートの授業だから美術室…と思いきや、案内されたのは技術室。
少し不思議な気持ちで扉を開けると、
そこには20人ほどの生徒が、小さな基板に向き合っていました。

目を輝かせ、息を呑むように“光の仕組み”をつくっています。

ChatGPTとマイコン。高校生が作る“アートの一歩目”

生徒たちの手元にあるのは、マイコンと呼ばれる小さなコンピューター。
そこにLEDや距離センサーをつなぎ、
パソコンからコードを流し込むと、光がふっと灯ります。

手を近づけると反応して光るようにしてみたり。
時間の経過に合わせて光が変わるようにしてみたり。

各々の作りたいことを表現する仕組みをつくるために、
生徒たちはパソコン画面と向き合います。

その画面を少し見せてもらうと
ーーそこには、ChatGPTが映ってました。

「この基盤で、この回路で、こういう動きをさせたい」とAIに問いかけ、
返ってきたコードを回路に流し込み、
実際のLEDの反応を確かめる。

まさに今の”ものづくり”の現場で起きてる作り方を、
実際に、授業として教えてもらいながら体験しています。

教えているのは、滋賀へ戻ってきた若いアーティスト

技術室の前に立ち、静かに授業を見守っていたのは、
紫洲書院の代表・竹本智志さん。

立命館守山高校の卒業生で、今年、滋賀にUターンして起業した27歳。
若いエネルギーをそのままアートと教育に注ぎ込むような人です。

「昔は、プログラムを全部自分で書かないといけなかった。
でも今は、AIに聞けば答えが返ってくる。
だからこそ、『何をつくりたいか』に集中できるんです」

竹本さんが教えているのは、
単なるプログラミング技術ではありません。

光や音、動きといった”メディア(媒体)”を使って、
人に気づきや感動を与える、「メディアアート」という表現です。

世界の最前線で生まれるメディアアート

前半のワークショップが終わると、後半はアーティストトークの時間。
登壇したのは、メディアアーティストとして活動する
唐神一樹(からかみ・かずき)さんです。

唐神さんは、東京都出身。
日本大学芸術学部で音楽と情報技術を学び、
今年はオーストリアで開催された
世界最大級のメディアアートの祭典
「アルスエレクトロニカ」にも参加しました。

そこで展示されていた作品の一つが、
AIで制御された“逃げ出す犬のロボット”。

鎖につながれた犬のロボットが、
鎖を引きちぎろうと暴れる——そんな衝撃的な作品です。
唐紙さんは制作チームのエンジニアのひとりとして関わったそう。

動画でもぜひ、ご覧ください。

「これは軍事用に開発されたロボットなんです。
でも、それをアートとして見せることで、
『技術って何のためにあるんだろう』って考えるきっかけになる」

唐神さんは授業を通してそういうことを生徒たちに伝えます。

レオナルド・ダ・ヴィンチから坂本龍一まで、
唐神さんは、メディアアートの歴史をたどりながら、
時代を超えてアートと技術が交差してきた物語を語ります。

和ろうそくの炎から生まれる、“滋賀の風”のかたち

そして今、竹本さんと唐神さんが
一緒に作っているのが、「Abstraction:風」という作品です。

二人がテーマに選んだのは、“風”。
琵琶湖も比良山系も、夕暮れの光も、
すべての背後にある“滋賀の空気”を見つめたいという思いからでした。

着目したのは、高島市でつくられる 和ろうそく。
炎は風に揺らぎ、その揺らぎには“風の癖”が宿ります。

二人はその炎をハイスピードカメラで撮影し、
揺らぎの動きを数値データとして抽出。
そのデータをもとに、約50体の白い彫刻が“ゆっくり回転する作品”へと生まれ変わります。

教室の机に並んだ白い彫刻は、まだ制作途中。
中には小さなモーターとマイコンが仕込まれ、
風のゆらぎをなぞるように動く予定です。

「これが50個並んだ時、風の“うねり”が生まれるんです。
それが、滋賀の風です」

竹本さんの言葉に、生徒たちは作品をもう一度じっと見つめていました。

生徒たちが見つけた、“風”と“未来”のつながり

授業が終わったあと、
二人の生徒に話を聞きました。

ずは大阪から通う高校2年生の 佐々木菜那さん。

「チームラボみたいな作品をつくってみたかったんです。
でも実際にやってみると、LEDを光らせるだけでも難しくて…
でも、基本的な作業ほど“自分の手で作っている感”があって、楽しいなって思いました」

大阪から守山へ通う日々の中で、
彼女が語ってくれた言葉が印象的でした。

「琵琶湖って、毎日ちがう表情を見せてくれるんですね。
その“変わっていく景色”を表現してみたいと思いました」

続いて、彦根市から通う渡辺幸大朗さん。
2024年に開催された「ロボカップ世界大会」で優勝し、
世界一に輝いた経験もある高校3年生です。

「将来、カンボジアでロボット教育を広めたいんです。
ロボットって、技術を学ぶだけじゃなくて、
“自分で課題を解決できる”という自信をつけられると思うんです」

メディアアートと国際協力。
一見遠いようで、渡辺さんにとっては同じ線の上にあるようでした。

滋賀の風が、静かに未来を押していく

「プログラムを書くことが目的じゃなくて、
どう見せたいか、どう表現したいかが一番大事なんです」
竹本さんはそう話します。

その中でたどり着いた今回の作品、滋賀の風。
風が大地を包み、地域を繋いでいくように、
今回の作品が、アートと教育、そして滋賀県内の各地をつなぎながら、
静かに広がっていこうとしています。

12月には「Abstraction : 風」が完成し、県内で展示される予定。
和ろうそくの炎から生まれた約50の彫刻が並び、
どんな“風の景色”を見せてくれるのでしょうか。

滋賀に、新しい風が吹きはじめています。
その風はきっと、未来を選ぶ高校生たちにもそっと届くはずです。

『Abstraction:風』作品展示の詳細

きのもと交遊館(滋賀県長浜市木之本) 会期 2025年12月10日(水)~12日(金) 場所 きのもと交遊館(滋賀県長浜市木之本町木之本1118) 開館時間 9:00~16:00 ※初日は午後のみ。最終日は午前のみ 駐車場 施設に若干数あり co.shiga.fes(立命館守山中学校・高等学校) 開催日 2025年12月13日(土) 場所 立命館守山中学校・高等学校(滋賀県守山市三宅町250) 開催時間 9:00~17:00 駐車場 会場の駐車場は利用不可。公共交通機関をご利用ください 立命館大学びわこ・くさつキャンパス 開催日 2025年12月18日(木) ※事前予約必要 場所 立命館大学びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市野路東1丁目1-1) 開催時間 10:30~12:05 駐車場 キャンパスに有料駐車場(はじめの1時間無料)あり 予約フォーム 予約はこちらから お問合せ アドレス s.takemoto@shidzu-shoin.com(合同会社 紫洲書院 竹本) ・いずれも入場無料
・写真撮影可

※この記事は、滋賀県の「地域資源活用交流創出事業に係るレガシー創出事業」の一貫で、『しがトコ』が企画・取材を担当し制作しました。 http://bino-shiga.net/

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