奥多摩の渓流釣りが禁漁に 熊の出没も相次いだ今シーズンを振り返る【東京】
9月末で禁漁を迎えた奥多摩の渓流。今季は熊の出没騒動もあり、自然と向き合う厳しさを実感するシーズンとなった。今回は、イワナやニジマスに出会う一方で、山に生きる生き物たちの現実を目の当たりにした奥多摩エリアの渓流釣りを振り返る。
奥多摩で相次いだ熊の目撃
近年の奥多摩ではツキノワグマの目撃が相次ぎ、今夏には渓流釣り中の男性がクマに遭遇し軽傷を負う事例も報じられた。
山の実りが少ない年には人里近くまで下りてくることもあり、町や猟友会による注意喚起が続いている。今シーズンは、釣り人にとっても「安全意識」がこれまで以上に求められた年だった。
熊の気配を感じながら
馴染みの沢へ向かう道中でも、頭をよぎるのは「熊」の二文字。家族の心配もあるが、山釣りは諦めがたい。熊避けの鈴を鳴らし、ホイッスルを手に山道を登る。朝日が稜線を照らし、沢音が響く。
ブナの森で小休止しながら周囲を見渡すと、例年より落葉が早く谷底が見える。木の実が少ない年なのだろう。これでは獣たちが里へ下りるのも無理はない。
野猿と出会う朝
ある日の早朝、日原街道を走っていると、寺地集落の手前で数匹の野猿が道路を塞いでいた。車を徐行させると、猿たちは臆することなくこちらを見返してくる。
山の生き物たちが人の生活圏にまで近づいている現実を、静かに突きつけられた瞬間だった。
釣りも安全な町場の渓で
また別の日、日原街道を下り奥多摩の町まで来ると、本流の穏やかな渓が目に入った。駅からのアクセスも良く、足場も安定した町場の釣り場だ。2人の釣り人がいたので声をかけてみた。熊騒動が気になり緊急事態にも心強い町の釣り場を選んだそうだ。
ひとりで沢釣りをしたときの緊張感とは打って変わって、釣り人がいて家が見えるという安心感。安全に釣りを楽しむということの意味を改めて感じた日だった。
渓流の恵みに感謝して
今シーズンはイワナ、ヤマメ、ニジマス、それぞれの魚に出会うことができた。だが釣果以上に心に残ったのは、自然の変化や山の現実を身近に感じたことだ。
現在、奥多摩の渓流は禁漁期間。山が静けさを取り戻すこの季節、自然を休ませながら来春の解禁を待ちたい。安全と共生の意識を胸に、次のシーズンへ備えたい。
<中山祐司/TSURINEWSライター>