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松山千春のシングルコレクション「起承転結」理屈抜きの歌の魅力でミリオンセラー突破!

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1979年11月21日 松山千春のシングルコレクション・アルバム「起承転結」発売日

松山千春の息の長さ、そしてぶれない姿勢を象徴する「起承転結」シリーズ


2024年10月9日、松山千春の『起承転結15』がリリースされた。この『起承転結』シリーズは、もともとシングルコレクション・アルバムとして企画されたものだが、それが15集にもなるというのも珍しい。まさに松山千春の息の長さ、そしてぶれない姿勢を象徴する作品ともいえるだろう。

北海道の中央部にある足寄町で生まれた松山千春は札幌で音楽活動を行い、1977年1月にシングル「旅立ち」でデビュー。70年代後期のフォークブームもあって次第に注目を集め、5枚目のシングル「季節の中で」(1978年)がチャート1位の大ヒットとなりトップアーティストとして認知された。

同じ頃、チューリップ、甲斐バンド、さだまさしなどの九州勢、中島みゆき、ふきのとうなどの北海道勢など、全国各地から次々とアーティストが名乗りを上げて “地方の時代” とも言われていた。松山千春もこうした地方出身アーティストのひとりとして脚光を浴び、全国的な人気者になった。にもかかわらず、仕事以外では上京しようとせず、活動の拠点として地元の北海道にこだわり続けた。“地方の時代” のなかでも、松山千春の北海道へのこだわりは際立つものだった。

北海道の雄大な自然の中を走りながら聴く松山千春の歌


松山千春の北海道へのこだわりは、発表される楽曲にも反映されている。個人的な経験になるけれど、正直に言って僕は初期の松山千春をあまり気に入っていなかった。同じ頃に登場していたサザンオールスターズや松任谷由実などのポップテイストを感じさせる曲に対して、松山千春の楽曲はシンプルで面白味に欠ける気がしていたのだ。

けれどある時、北海道の旅行で、松山千春の曲をカセットテープ(昔の話なので)に入れて札幌から釧路に向かう列車の中で聴いたことがあった。そして北海道の雄大な自然の中を走りながら聴く松山千春の歌が、東京で聴くのとまったく違ってスッと心の中に入り込んでくるのを感じた。その時、松山千春の音楽が北海道の空気感のエッセンスだということを理解して、僕は彼の音楽を素直に受け入れられるようになった。その背景には、僕自身も子供時代に札幌に住んでいたということもあったのかもしれない。

松山千春の作品のなかでも一味違う切り口を見せてくれるシリーズ


それぞれの時期に発表してきたシングル曲を集大成するというコンセプトを持つ『起承転結』は、松山千春の作品のなかでも一味違う切り口を見せてくれるシリーズだ。松山千春が発表する楽曲は、自ら作詞・作曲をして自分で歌ったもので、その意味ではどの曲も同じだけれど、シングルとしてリリースされる曲とオリジナルアルバムに収録される曲では、やはり伝わるニュアンスは異なってくる。

アルバムには10曲程度の曲が納められるから、アルバム全体としてリスナーにメッセージを伝えるためにもいろいろなタイプの曲が収められるのは当然で、曲順にも意味が込められる。それに対して、シングルはラジオなどの放送媒体で流されることも含め、多くの人にその楽曲やアーティストの魅力を知ってもらうという役割がある。だから、シングルにはその人の作品のなかでもアピール力をもった曲が選ばれるし、サウンドもよりキャッチーであることが意識される。

多くのシンガーソングライターは、シングルとアルバムを使って、作品の世界観の広がりを提示していくのだけれど、松山千春はシングルの世界を改めて『起承転結』というアルバムに再構成し、その音楽世界を見せてくれている。そう、彼の長いキャリアのなかで発表してきたシングル曲の流れをそれぞれの時期に切り取った『起承転結』シリーズは、立派に松山千春の音楽をたどる軸のひとつとなっているのだ。

デビューからの2年間の想いが凝縮された「起承転結」


最初の『起承転結』が発表されたのは1979年11月で、ここデビュー曲から7枚目までのカップリング曲を含むシングル全14曲から、4枚目のシングル「青春」(1978年)のカップリング曲「MY自転車」と、7枚目の「夜明け」のカップリング曲「サイクリング」の2曲を除く12曲が収録されている。

改めて聴くと、初期の松山千春らしい初々しさ、そしてのびやかさと純粋さが輝くような理屈抜きの歌の魅力を感じるアルバムだ。シングル曲であるがゆえの聴きやすさが、カップリング曲とともに並べられることで、ベストアルバムではなく、デビューからの2年間の想いが凝縮されたオリジナルアルバムのように受け入れることができる。

それはおそらく松山千春自身の意図だったろう。デビューアルバム『君のために作った歌』は別として、セカンドアルバム『こんな夜は』以降はオリジナルアルバムにシングル曲は収録されなくなっていく(例外あり)。だから、松山千春のアルバムはその時々の想いのありったけが注ぎ込まれた作品。彼から届けられる折々の継続的メッセージとして聴くことができる。そして、シングルで発表してきた世界観を定期的に総集していくのが『起承転結』なのだ。

松山千春にとっての “起” の時代を総括した作品


さらに言えば、『起承転結』は松山千春にとってキャニオンレコード時代を総括するアルバムにもなった。このアルバム発表後の1980年に自らのレコード会社、NEWSレコードを設立して移籍したのだ。その意味で『起承転結』のジャケットで “起” が大きく書かれていることも象徴的だ。まさにこのアルバムは、松山千春にとっての “起” の時代を総括した作品となっているのだ。

NEWSレコード時代の1981年に発表した『起承転結Ⅱ』は、キャニオン時代の最後のシングルとなった「恋」(1980年)から「ふるさと」(1981年)までの4枚のシングル曲で構成されている。収録されているシングルの数が少なく感じるかもしれないが、NEWS時代のファーストシングルとなった「人生の空から」は4曲入りだったため、アルバム全体の曲数は10曲となっている。また「恋」は、当初はオリジナル版で収録されていたが、後の再発時にはリメイクテイクに差し替えられた。さらに、この間に発表されたオリジナルアルバムにもシングル曲を収録しないという姿勢は貫かれていた。

『起承転結』では “起” の字が大きくなっていたが、『起承転結Ⅱ』のジャケットでは “承” が大きく書かれている。余談だけれど、ここから想像するに、もしかしたら松山千春は当初、このシリーズを文字通りに “起承転結” の4部作として、自らのキャリアを託すつもりだったのかもしれない。確かに、NEWSレコードをスタートさせたこの時期は松山千春にとって “承” の時代の始まりだった。しかし、そう簡単に “結” に辿り着けないだろうということも、彼にはわかっていたのだろう。

1984年に発表された『起承転結Ⅲ』では “起承転結” の4文字が同じ大きさになっていたことにも、そんな彼の心境が託されていたのかもしれない。それにしても、この『起承転結』シリーズが15作目になるというのは改めて感慨深い。これこそまさに松山千春が唯一無二のアーティストであることの証明でもあると思う。

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