作業療法士から立ち食いそば屋に。一躍マニアに話題となった『まるすそば』店長に話を聞いたら人生の味がした / 清瀬
西武池袋線の下りに乗っていると、東久留米の先で一瞬埼玉に入った後東京に戻る。で、到着するのが清瀬駅。要するに、東京都清瀬市というのは埼玉に突き出しているギリギリの領域なわけだ。
そんな清瀬駅で下車して駅前から少し歩くと畑が見えた。広い空にはのびのびと漂う雲。けやき並木の道の端にはたまに木のベンチも設置されていて時間がまったりしている。では、なぜ私(中澤)が下車するなり駅からぐんぐん離れているのかと言うと……
・立ち食いそば好きの心の先生
大衆そば研究家に聞いたオススメの店が今日の目的だからだ。順を追って話そう。ことの発端は『本家しぶそば』のオープン記念イベント。
渋谷に帰ってきたしぶそばをお祝いに行ったら、そばチェーンの町内会みたいになっていたことは以前の記事でお伝えした通りだ。しかし、ある意味私が最もテンションが上がったのは……
坂崎仁紀(さかざきよしのり)氏に遭遇したこと。立ち食いそば好き界隈に名だたる大衆そば研究家である坂崎仁紀さん。その著書や記事には多くの立ち食いそば好きが影響を受けていると思われるけど、私も「こんな立ち食いそば屋あるのか!」と思ったら坂崎さんの記事だったということはよくある。
40年以上の立ち食いそば追っかけ歴を生かして歴史から紐解いていくレポートはまさしく研究家だと思っていた。言わば立ち食いそば好きの心の先生なのだ。こんなところではじめましてするとは……!
・雑談がてら聞いた
そばチェーンの町内会だけではなく、そばライターの町内会も開かれていたわけである。そこで挨拶がてら坂崎さんに「最近良かった立ち食いそば屋」を聞いてみたところ、いの一番に名前があがったお店が……
『まるすそば・うどん立ち食いセンター』だった。
清瀬駅北口から冒頭のけやき通りをずーっと進んで行くと佇んでいるこの店。簡易の小屋みたいな造りの外観が、今時珍しいほどの路麺オーラを放っている。ここは本当に東京都なのか?
・その立地にもかかわらず
さらには、写真を撮っている間にもお客さんがどんどん並んでいく。坂崎さんによると店長は以前は介護職で、店名に「センター」とついているのはその前職が由来なんだそうな。介護職から立ち食いそば屋はなかなか異色の経歴だけど、このロケーションでこの盛況ぶりは凄い。
待合コーナーに入ると、黄色のメニュー表が目を引く。言葉を交わさずともリスペクトが伝わってくるデザインである。ここはやはりげそ天でいくか。
・店内に攻めたメニューが
と思いきや、店内のメニュー表を見てみると「ニラスタ(税込390円)」や「辛マーボー(税込280円)」という見慣れないトッピングも。
辛マーボーそばにもアイデアを感じるけど、ニラスタって何!? めっちゃ気になる。そんなわけで、ついつい勢いに負けて二ラスタを注文してみたところ……
ニラの勢いが凄い。なお、ニラスタはニラ、豚肉、黄身、ニンニク、特製あげ玉のトッピングで、肉もちゃんと分厚いのにそれ以上にニラが迫って来るようだ。盛り盛りである。
・食べてみた
まず、つゆを飲んでみると甘みが印象的だった。関東風の濃い色のそばつゆの中にコク深い甘みがあり、それによって味が一段深まってる。色だけじゃない味の深さを感じた。
続いてそばを食べてみると、太麺なんだけど適度にコシがある。かと言ってガシガシなわけではなく、どちらかと言うとムチッと切れる食感だ。麺とつゆのバランスにこの店の個性が光る。
ニンニクも大分効いてるけど、そのスタミナインパクトに負けない麺とつゆ。さらに、そば自体の存在感も派手なトッピングに負けてないところが良い。この味でかけそば並410円は盛況ぶりも頷ける。
・店長に話を聞いた
「シェフを呼べ!」と呼びつけるつもりもなかったけれど、念のためご挨拶したところ店長の林豊さんが話を聞かせてくれることになった。つゆと麺どっちも存在感がありますねえ。
林豊店長「ありがとうございます!」
──麺って自家製麺ですか?
林豊店長「いえ、世田谷の製麺所の『むらめん株式会社』です。出会った時に「これだ!」となりまして」
──元介護職から立ち食いそば屋を開業されたと聞いたんですが。
林豊店長「そうですね。作業療法士として高齢者リハビリに携わり、約18年三鷹でデイサービスを経営してきました。イメージキャラクターが店頭にいるこの子です」
──イメージキャラクターも転身したんですね(笑) なぜ、作業療法士から立ち食いそば屋になろうと思い立ったんですか?
林豊店長「理由はずっと立ち食いそば屋が好きだったからですね。色々と事情が重なり、介護の世界では自分自身、充分にやりきった感があったので去年12月デイを廃業して、かねてから好きだった立ち食いそば屋をやろうと思い立ちました」
──とのこと。一念発起ですなあ。応援したい。
そんなわけで、清瀬駅から1.7kmという立地だけど密かにマニアの熱い注目を集める『まるすそば・うどん立ち食いセンター』は、佇まいや味はもちろん、名前や表の看板にも人生がにじみ出る店であった。立ち食いそば屋は人生の交差点。その雰囲気も含めてごちそうさまでした。
・今回紹介した店舗の情報
店名 まるすそば・うどん立ち食いセンター
住所 東京都清瀬市中里3-894
営業時間 5:00~14:30
定休日 木曜日・日曜日・祝祭日
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.