50年に一度のみ!「正寿院」の秘仏十一面観世音 修復記念特別開扉に感激。風鈴まつりも素敵です。【京都府宇治田原町】
2025年4月1日(火)~11月30日(日)の御本尊 特別開扉(※)にあたり、高野山真言宗「正寿院」(京都府綴喜郡宇治田原町奥山田川上)を訪れました。
※秘仏十一面観世音 修復記念特別開扉「50年に一度のみ、いざ開扉 悠久の姿はこれが最後」
(記事の内容は2025年6月22日時点のものです。)
現在風鈴まつりが開催されている「正寿院」。
(あじさい風鈴などは6月~7月上旬、ひまわり風鈴などは7月上旬~8月末、こすもす風鈴などは9月~9月末)
目にも鮮やかな光景と涼やかな音色に迎えられて、本堂へと向かいます。
今回の特別開扉では、普段立ち入ることのできない内々陣を、お寺の方が御本尊の説明とともに案内して下さいます。
また、期間中はありがたい法話をお聞きできる機会も毎日設けられています。
遠方の方も来られるため、結縁帳も置かれていました。(願いを込めて名前を記すと、永代にわたって奉納し、観音様とのご縁を結んでいただけます。)
今回は「正寿院」副住職の久野村さまにお話をうかがいました。
御本尊 特別開扉について
普段ご覧になれない秘仏の特別開扉という、50年に一度の機会となっております。今回の特別開扉のためにお越しになる方も、お越しになってから特別開扉を知られる方も、ぜひ御本尊のお導きの中での出逢いを勝縁と捉えていただければと思います。日頃の感謝などの想いも込めて、御本尊を前にしっかりと手を合わせていただくことで、来て良かったと感じていただければ幸いです。
修復について
今回は200年以上ぶりの修復となります。鎌倉時代につくられた木造の仏様を後世に繋いでいくため、これまで修復の機会をうかがってきましたが、コロナ禍を経てようやく場が整いました。長い年月にわたり人々の願いを聴き届けて下さった観音様の、悠久の姿をご覧になれるのはこれが最後の機会となります。
仏像について
仏像自体の大きさは、ポスターなどで見るより小さく感じられる方が多いようです。精巧につくられた仏像は、写真では大きく感じるのだそうです。また、正寿院には快慶作のお不動さんもおられますが、こちらの観音様も、同じく慶派系の仏師による作ではないかといわれています。現在のところははっきりと判っていませんが、それほど精巧につくられているのだと思います。
それではいよいよ、御本尊の秘仏十一面観世音とご対面。
緊張とともに歩みを進めると、揺らめくろうそくの灯りの向こうに何とも美しいお姿がありました。
想像以上に柔和な表情。
内側から滲み出るような優しさに、思わず感動が込み上げます。
そしてお話にもあったとおり、想像よりも小さいお姿に感じました。
感じ方は人それぞれ。
さまざまな思いをもった方が来られるようで、中には涙される方もいらっしゃるそうです。
久野村さまによると、こちらの仏様は「十一面観世音」の名のとおり、お顔の上に十一のお顔をお持ちで、それぞれ喜び・悲しみ・怒りなどさまざな表情を浮かべておられるそうです。
四方八方を向いたお顔は、私たちが東西南北どこへ行ってもあまねく見つけ出して下さる、との意味があるとのこと。
そのような意味を感じながら拝見すると、また見え方が変わってきます。
そして、こんな驚きも。
こちらの観音様は秘仏として安置されてきたため、保存状態が群を抜いて良く、そのことが文化財に指定されている大きな理由の1つとなっているそうです。
お膝のあたり、衣の流れの部分に見られる掻傷のような金の模様―。
鎌倉時代などによく使われていた截金という技法だそうで、当時施されたものを今も変わらず見ることができます。
その輝きはあまりに美しく、鎌倉時代のものとはとても信じられないほどでした。
そして、観音様の立ち姿。
腰を右へ少しくねらせ、右膝を少し曲げて半歩ほど前へ出しておられる様子は、今すぐにでも人々を救いに行く、とのお誓いの表れだと伝わっているそうです。
さらに手に注目すると、左手には華瓶を持っていらっしゃいます。
そして右手の中指・薬指あたりには紐が結ばれており、普段閉じられている扉の外へと繋がっているのです。
従来はその紐を手に挟み合掌することで観音様とのご縁が結ばれるのですが、特別開扉では、実際に紐が観音様と繋がっている様子を見ることができます。
「ふたたび扉が閉じられた後もまたお越しになる際は、ぜひ今回目にされた光景を思い出しながらお参りしていただければ」と久野村さま。
さらに、こんな印象的なお話もお聞かせくださいました。
「正寿院は2度、戦国時代と江戸中期に大きな火災に遭っております。どちらも落雷によるものでした。江戸中期には全焼してしまいましたが、その際に当時の住職や地域の方が炎の中、扉をこじ開け観音様を運び出されました。非常に大変な思いをされたと思います。観音様の足元から下の台座とよばれる蓮華や象はその際に焼失し、お寺の再建時につくり直されたため、足元から上とは色が異なっています。」
人々の手で大切に守られてきた、鎌倉時代の仏様。
ときには命を懸けてまで守り抜かれたことを思うと、人々にとってどれだけ大きな意味をもち、またどれだけ多くの人の心を救ってこられたのか…いくら想像しても遥かに及ばない気がしてきます。
観音様だけでなく、観音様を運び出して下さった人々とも繋がれるような気がして、手を合わせて感謝の想いを伝えたい気持ちでいっぱいになりました。
二度の火災に遭いながらも現在まで受け継がれてきた観音様は、厄除け、身体健康、家内安全のご利益があると広く信仰されているそうです。
拝むときは手を合わせますが、仏教では左手が自分の手、右手が仏様の手とされていて、”思い思われる” 関係を具現化したものが合掌の姿なのだそうです。
※宗旨によって考えが異なります。
秘仏を前に手を合わせることができる、貴重な機会。
「観音様」は「音を観ずる仏様」と書くため、音も届いていると思いますよ、と教えていただきました。
普段とは異なる繋がり方ができる、何もかもが特別な体験。
さらに、通常は外陣から覗き込むことしかできない約300年前の天井画も、しっかりと眺めることができました。
中心には蓮の花。
長年ろうそくや線香、護摩の炎などにさらされてきた天井画は当時の様子と異なりますが、これまで積み重なってきた時間や歴史の重みが感じられて、思わず見入ってしまいました。
その天井画を元に300年越しの復興としてつくられた天井画を客殿で見ることができるのは、ご存知の方も多いと思います。
「現在皆さんに客殿の天井画を美しいと言っていただいているのと同じように、当時の人々も華やかな天井画を眺めて心を躍らせたことを想像すると、そのような心は今も昔も変わらないことを感じていただけると思います」と久野村さま。
美しいものを「美しい」と感じられる心もまた、美しいものですね。
それからもちろん、風鈴まつりも素敵です。
うたう風におどる音、ゆらめく色に華やぐこころ…
風鈴の中を歩くと、めくるめく美しさに出逢えます。
本堂には47都道府県の風鈴も飾られていて、小さなお子さんも「かわいい」と喜ばれていました。
ぜひ皆さんも、こちらのお寺で特別な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
秘仏十一面観世音 修復記念特別開扉「50年に一度のみ、いざ開扉 悠久の姿はこれが最後」
場所 高野山真言宗「正寿院」(京都府綴喜郡宇治田原町奥山田川上149)
期間 2025年4月1日(火)~11月30日(日)※8月17日(日)は終日拝観中止
時間
・御本尊の特別開扉 9:00~16:00/最終受付15:45
・「正寿院」拝観時間 9:00~16:30/最終受付16:15(12月1日~3月31日までは 10:00~16:00/最終受付15:45)
現在の拝観料 1000円(小人 500円)※特別御札(限定数)・菓子付
※御本尊の特別開扉につき、こちらの拝観料は本年限りのものとなります。(通常は600円/例年の風鈴まつりは800円)
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