介護脱毛は必要ない?データから考える「真に必要な対策」
近年、介護への備えとして「介護脱毛」が注目を集めています。特に40~50代の方々の間で関心が高まっており、将来の介護に向けた準備の一つとして検討される機会が増えています。
しかし、本当に介護脱毛は必要なのでしょうか。また、将来の介護に向けた備えとして、より効果的な方法は他にないのでしょうか。本記事では、実際のデータと専門家の意見を基に、介護脱毛の必要性について検証するとともに、本当に必要な介護への備えについて解説していきます。
介護脱毛は本当に必要?現場の声から考える真実
介護脱毛とは?
介護脱毛とは、将来介護が必要になった際に備えて、デリケートゾーンの脱毛を行うことを指します。
これは「自分の老後を想定し、介護が必要になった時に排泄後の拭き取りや清拭時に介護者(第三者)に対し負担をかけないよう、毛が黒いうちにあらかじめアンダーヘア脱毛をしておく」というニーズに注目したリゼクリニックによって2017年に提唱された概念です。
同クリニックが40~50代の男女を対象に行った調査によると、2023年時点で女性の78.9%、男性の62.6%が介護脱毛を希望していることが判明しています。
介護現場からみた介護脱毛の実態
ですが、実際の介護現場からは「必ずしも必要ではない」という声もあるようです。
介護の専門職は、アンダーヘアの有無に関わらず適切なケアを提供できること、むしろ、無理な脱毛による皮膚トラブルの方が介護の際に問題となることが理由です。
そのため、介護のためだけに脱毛を行う、という必要はあまりないかもしれません。
介護家族から見た介護脱毛
とはいえ、家族は介護脱毛をしてほしいと考えているケースもあるようです。
株式会社恋肌が還暦前の親がいる男女に行った調査によると、家族の介護に対して、全体の半数以上が「排泄の介助が最も大変そう」であると感じているようです。
また、排泄介助についての負担を軽減するために介護脱毛が有効であるかという質問に対し、「とてもそう思う」「ややそう思う」人が人が6割に上りました。
理由については「毛に排泄物がつくと拭き取りに時間がかかり、大変だから」「オムツだとかぶれたり、においが籠ったりするから」といった意見が寄せらせています。
つまり、一般の方が家族の方の介護にあたる場合、介護脱毛をしていることは有効なのです。
そのため、「介護施設で介護職の方にお世話になる時のために」という理由で脱毛する必要性は高くありませんが、「家族の負担を減らしたい」と考える場合には検討してみてもいいかもしれません。
なぜ介護脱毛が不要とされるのか?
では、介護職が「介護脱毛は必ずしも必要ではない」と感じている理由について、具体的な根拠を見ていきましょう。
プロの介護技術の進歩と対応力
介護の専門職は、アンダーヘアの有無に関わらず、効果的な清潔ケアを行うための専門的な技術を持っています。これらの技術は、長年の実践と研究によって確立されてきました。
具体的な清潔ケアの方法として、まず適切な清拭技術が挙げられます。介護職は皮膚への負担を最小限に抑えた拭き取り方を習得しており、部位に応じて適切な力加減を行うことができます。また、効果的な洗浄手順も確立されており、これにより確実な清潔保持が可能となっています。
次に重要なのが感染予防対策です。適切な手順による衛生管理を徹底し、状況に応じて適切な消毒方法を選択することで、二次感染を予防します。特に高齢者の場合、免疫力が低下していることも多いため、重要です。
さらに、スキントラブル予防も重要な技術の一つです。早期発見のための観察ポイントを押さえ、予防的なケアを実施することで、問題が大きくなる前に対応することができます。また、その方の皮膚の状態に応じて、最適なケア方法を選択することも可能です。
これらの技術により、アンダーヘアの有無に関わらず、適切な清潔保持が可能となっています。介護の専門職は、それぞれの利用者の状態に合わせて、これらの技術を適切に組み合わせながら、質の高いケアを提供しているのです。
最新介護用品の進化と性能
介護用品の技術革新も、介護脱毛の必要性を低下させている大きな要因です。特に、おむつ類の性能は著しく向上しています。
現代の介護用おむつは、まず素材面での進化が目覚ましく、高機能な素材が採用されています。優れた吸収力と通気性を備えており、肌への刺激が極めて少ない素材が使用されています。さらに、防臭機能が強化され、適度な伸縮性による快適なフィット感も実現しています。これにより、長時間の使用でも快適な状態を保つことができるようになりました。
設計面でも多くの工夫が凝らされています。ムレを防ぐ構造設計により、皮膚への負担が大幅に軽減されました。また、漏れを防ぐ立体ギャザーの採用や、装着感を考慮した形状の改良により、使用時の快適性が向上しています。さらに、介護する側の負担を考慮し、交換のしやすさにも配慮がなされています。
個別性への対応も充実しています。サイズバリエーションが豊富になり、それぞれの体型に合わせた選択が可能になりました。また、生活スタイルや必要に応じて吸収量を選択できるほか、昼用と夜用の使い分けも可能です。経済性を考慮した商品展開も充実しており、長期使用における費用負担の軽減にも配慮がなされています。
これらの進化により、アンダーヘアがあっても快適な状態を保つことが可能になっています。
アンダーヘアの必要性
そもそも、約20万年にわたる人類の進化において、アンダーヘアが残されてきたからには、そこに必要性があるのです。
主な役割として3つの機能が挙げられます。
まず皮膚保護機能です。デリケートゾーンの皮膚は特に薄く、外部からの刺激に敏感な特徴があります。アンダーヘアは、この繊細な部分を物理的に保護する役割を果たしています。特に高齢者の場合、皮膚のバリア機能が低下しやすいため、この保護機能は非常に重要な意味を持ちます。
次に温度・湿度調節機能があります。アンダーヘアは体温調節に重要な役割を果たしており、適度な通気性を確保することで蒸れを防ぐ効果があります。特に高齢者は体温調節機能が低下しやすい傾向にあるため、この機能は特に重要です。
3つ目は感染予防機能です。アンダーヘアは細菌やウイルスの侵入を防ぐ一次バリアとしての役割があり、適度な湿度を保つことで皮膚の健康維持に貢献しています。
これらの機能は、加齢とともにその重要性が増すとされています。特に、皮膚の脆弱性が増す高齢期において、これらの保護機能は非常に重要な役割を果たすのです。そのため、残しておくことが可能であれば、その方が望ましいかもしれません。
費用対効果
介護脱毛にかかる費用と時間について、具体的に検討してみましょう。
まず費用面について詳しく見ていきましょう。医療脱毛の場合、5~6回の施術で5~10万円程度の費用が必要となります。
また、アフターケアのための保湿クリームなどの専用ケア用品(3,000~5,000円程度)や、月1~2回の通院における交通費(1回1,000~3,000円程度)なども必要です。
負担として考えられるのはお金だけではありません。時間的なコストについても、具体的に見ていきましょう。
まず初回のカウンセリングには通常1時間程度を要し、その後の施術では1回あたり30分から1時間ほどの時間が必要です。これに加えて往復の通院時間(平均2~3時間程度)も考慮する必要があり、仕事や家事との両立を考えると、半日単位での時間確保が必要になります。
また、施術と施術の間隔は1.5~2ヶ月ほど空ける必要があり、この間の自己処理も控えなければならないため、生活面での制約も生じます。天候や体調不良による予約変更なども考慮すると、予定通りに進まないケースも少なくありません。
施術時の痛みについては、特にVIOは皮膚が薄く神経が集中している部位のため、他の部位と比べて2~3倍の痛みを感じる方も多いとされています。
また、デリケートゾーンを扱う施術であることから、カウンセリングから施術まで常に羞恥心との向き合いが必要です。
『介護に向けた備え』を優先するという選択肢も
これまで見てきた通り、介護脱毛はその目的や自身の希望に合わせて必要性を判断すべきです。
なお、脱毛に投資する代わりに、健康寿命を延伸して「介護される期間を減らす」ことを目指すのも一つの選択肢です。
健康寿命を延ばすための投資
健康寿命を延ばすことができれば、金銭的にも医療費や入院費がカットできますし、何より自分の人生の中で思うように生きられる期間が延びるため、非常に有意義であるといえるでしょう。
まず運動関連への投資について考えてみましょう。
スポーツジムの会費は月額5,000円から10,000円程度、運動用具の購入には初期投資として10,000円から30,000円ほどが必要です。また、正しい運動方法を学ぶための運動指導料は、回数制で1回あたり5,000円から10,000円ほどかかります。
これらの投資により、筋力の維持・向上が期待でき、バランス能力も改善されます。その結果、転倒リスクが低減され、さらには生活習慣病の予防にもつながります。
次に食事関連への投資についてです。栄養バランスの良い食材を取り入れることで月額10,000円から20,000円ほど食費が増加する可能性があります。また、適切な食事管理のためのサプリメント代として月額3,000円から5,000円ほどの支出が考えられます。
これらの投資は、介護脱毛の費用である5~10万円と比較しても、より広範な効果が期待できます。
お金をかけなくても要介護状態は予防できる
また、必ずしもお金をかけなくてはならないということもありません。
まず、日常的な運動習慣の確立が重要です。1日30分以上のウォーキングを基本として、週2-3回の筋力トレーニングを組み合わせることが推奨されています。
また、日々の食事の選択も健康寿命の延伸に大きく影響します。体重1kgあたり1.2-1.5gのたんぱく質摂取は、筋肉量の維持に不可欠で、転倒予防や基礎代謝の維持につながります。1日350g以上の野菜摂取は、食物繊維による便秘予防や、ビタミン・ミネラルの補給による免疫力向上をもたらします。
1日1.5L程度の適切な水分摂取は、脱水予防だけでなく、認知機能の低下や熱中症の予防にも効果があります。また、1日の塩分を6g未満に抑える減塩への取り組みは、高血圧や心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防に直結します。
社会活動への積極的な参加も予防効果が高いとされています。地域のコミュニティ活動やボランティア活動への参加、趣味のサークルでの活動を通じて、定期的に友人と交流する機会を持つことが大切です。また、生涯学習に参加することで、知的好奇心を刺激し、脳の活性化にもつながります。
このように、予防的な取り組みを総合的に実施することで、健康的な生活を長く維持することができるのです。
まとめ
介護脱毛は、必ずしも必要不可欠なものではありません。むしろ、その費用を健康寿命の延伸に向けた投資に回すことで、より効果的な介護への備えが可能となります。
特に重要なポイントは以下の3点です。
1. 介護の専門職は、アンダーヘアの有無に関わらず、適切なケアを提供できる技術を持っています。
2. アンダーヘアには重要な生理学的機能があり、むしろ保護の役割を果たしています。
3. 介護脱毛の費用を健康寿命の延伸に投資することで、要介護状態になるリスク自体を低減できます。
将来の介護に向けた備えとして最も重要なのは、健康寿命を延ばし、自立した生活を可能な限り長く維持することです。そのための投資こそ、真に必要な介護への備えと言えるでしょう。
とはいえ、一般の方の中には「脱毛しておいてほしい」と感じている方も少なからずいます。事前に家族内で相談しておくことが肝要です。