一流から繋いだ唯一無二の味で神戸っ子を魅了 元町の洋食『ラミ』が11月で閉店 神戸市
神戸元町の路地裏にある洋食店『ラミ(L'Ami)』。“真の神戸洋食”を体現できる名店として、軒先には行列を絶やすことのない人気店ですが、今年の11月をもって閉店することが決まりました。
オーナーシェフである土井平八さんは、旧オリエンタルホテルの出身。神戸における西洋料理の礎を築いたといっても過言ではなく、当時のオリエンタルホテルの本格的な洋食のレベルは、日本国内でも引けを取らなかったそう。
【コックを目指すなら、まずはホテルから】
土井さんは高校を卒業後、日本調理師学校(現・辻調理師専門学校)2期生として入学。学生時代に夏休みでアルバイト先に選んだ『シーサイドホテル舞子ビラ』で、当時料理長の伊藤禄夫さんと運命的な出会いを果たします。
「その当時、神戸の洋食と言えば伊藤グリル。神戸牛ステーキとビーフシチューを広めた、圧倒的な実力を持つお店ですが、実は伊藤さんはその2代目としての後継者だったんです」。当時の土井さんは若く、まだまだ世間知らずの学生。伊藤さんのコックとしての姿勢に感銘を受け、“よし、この世界でやっていこう”と料理人としての意を強くします。
その思いを伊藤さんに伝えると「コックになりたいのなら絶対にホテルから始めろ」とアドバイスを受け、卒業後は旧オリエンタルホテルに入社。6~7年ほど修業を積んだのちは、三田国際ゴルフクラブ(現・神戸三田ゴルフクラブ)のレストラン料理長、そして大丸神戸店の『神戸開花亭』立ち上げ時にはマネージャーとして参画。
「オリエンタルホテルにいるとたくさんのスカウトの声がかかるんですよ」と笑う土井さん。超一流のホテルに精鋭たちが集って腕を磨いていた時代、そこから巣立ってそれぞれに独立し活躍の場を広げていた背景がうかがい知れます。
【日本人が米喰ってる間は、洋食はすたらへん!】
そんな中、土井さんが独立を考え始めたのは今から25年ほど前。「ちょうど世の中はヌーベルフレンチからイタリアンと、少しカジュアルな流れが料理界のトレンドを占め、王道の洋食はすたれて人気がなかった。若い人など全く見向きもしなかったんです」と当時を振り返ります。
しかし、土井さんは「日本人が米喰ってる間は、洋食はすたらへん!」という信念と確信のもと、2000年にお店をオープン。「(マネージャー時代の)蝶ネクタイを外し、やっとコック帽を再びかぶることができた」ときは感無量だったそう。
“とにかく流行らそう”という一心で開発した看板メニューは、ホテル仕込みの「オムレツ」と「蟹クリームコロッケ」。これが老若男女問わずに受けたのだとか。
「1番人気は蟹クリームコロッケ。これは自分の力より香住ガニの力。実はズワイガニよりベニズワイの方が味がしっかりしている。カニミソはズワイにかなわないが、脚は赤い紅ズワイの方が甘くてうまいんですよ」と美味しさの秘密を教えてくれる土井さん。やはり料理の話をしている時が一番楽しそうです。
次に人気だったのはビーフシチューオムレツ。「従来、オムレツはホテルの朝食で出されるもので、本場のコックが作るオムレツはホテルに行かなければ食べられない。うちはこれをウリしようと考えた」と、自慢のオムレツにホテル仕込みのデミグラスソースを使ったビーフシチューをたっぷりかけ、ランチ時にはライスと味噌汁をセットにして提供。
実はこの料理の大ファンである筆者。「ラミのオムレツはふわふわだけど味が濃いですよね」ときくと、「オムレツには牛乳や生クリームを入れないのが本式。その分たまごが固まりやすいから巻くのが難しい」といいます。ホテル時代にたくさんのオムレツを作っていた経験が活かされたのだとか。
【多くのファンに惜しまれながらの終止符】
「外国から来た西洋料理を日本で育てる文化が神戸にはあった。洋食はそのいい例。でも、まずは米に合わんとどうしようもないでしょう」と話す言葉に、オリエンタルホテルの本格洋食を、街で気軽に食べさせてくれたのは間違いなくこの店だったと実感。
「楽しい20年でしたね」と、いろいろ思い出したかのように一瞬の間があった後、静かにそう呟いた土井さん。
予約は既にいっぱいですが、11月最終の2週間は少しでもたくさんの人が来れるようにとあえて予約枠をもうけず、15席すべてを開放される予定だそう。名店の味を語り継ぐためにも、行列覚悟で出かけてみてはいかがでしょうか(もちろん筆者も並びますよ!)。
場所
神戸洋食とワインの店 L'Ami(ラミ)
(神戸市中央区三宮町3-4-3)
営業時間
17:00~20:30
定休日
月曜日、火曜日
※祝日の場合は営業、ただし水曜日休業