4人きょうだいでこの子だけ違う?3歳で無発語、診断、突然の病と後遺症…。知的障害の息子は特別支援学校1年生に【新連載】
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
姉たちに比べゆっくりだった、とつおの発達
初めまして!イラストレーターをしながら4人の子育てに奮闘中の、マミー・マウス子ビッツと申します。現在4人きょうだいとして賑やかな毎日を送るわが家の子どもたちですが、定型発達の長女次女に比べて息子の発達は、一般的な成長の目安通りに進むことがほとんどありませんでした。
お座りや寝返り、たっちやあんよなど全てがゆっくりで、何よりも待てども待てどもほとんど発語がありませんでした。しかし息子はコミュニケーションは取れていたため、健診などでも3歳までは様子を見ようとアドバイスされていました。
上の子2人を育てる中でいわゆる「一般的な成長」がどんなものであるか良く分かっていた私は、「息子には何かある」とは感じながらも第3子であることと息子の可愛さも相まって、心に余裕を持って育児ができていました。
息子が2歳の頃末娘が生まれ、ますますバタバタとしているうちにあっという間に3歳に。それでもやはり発語がほとんど出なかったため、いよいよ発達検査をし軽度知的障害 (知的発達症)との診断が出たのでした。
発達支援施設に通い始めた、とつお
軽度知的障害(知的発達症)との診断を受け、 発達支援施設に通い始めたのは3歳半頃から。息子の場合は指示が通るなど、コミュニケーション能力が高かったため保育園に通っていたのですが、毎朝の行き渋りは年中さんまで続きました。普段の園生活で集団行動を学びながら、 週1と月1で2か所の施設に通い発達支援をしていただきました。4歳を過ぎた頃、初めて「ママ」と呼んでくれてから2語文、3語文と語彙も増え、さまざまなことに自信を持ちお友だちもでき、年中さんである5歳になった頃はトイレでの排便も成功。発達支援においてはSTに加えOTにも意欲的に取り組むようになり、とつおなりの成長を家族みんなで喜んでいました。
あっという間に年長さんになり、姉たちも通う小学校の特別支援学級への入学を念頭において、学級見学などをして準備を進めていました。そんな矢先のある日……。
忘れられない、6月のある日のこと
息子は急激な発熱で痙攣(けいれん)を起こすことがあったため、てんかんの診断はありませんでしたが、主治医から熱性痙攣(けいれん)を予防するために毎日服用する抗てんかん薬が処方されていました。いつものように朝の検温を済ませ平熱を確認後、抗てんかん薬をきちんと飲み、保育園に登園しました。
その日は比較的暑い日でした。午後、保育園で外遊びをしたあと急激に発熱した息子は、 痙攣(けいれん)を起こし、救急車で運ばれたのでした。この発熱は溶連菌感染によるものだったのですが、これをきっかけに入院することとなった息子は、MRIなど検査の結果「脳症」と診断され、体に麻痺が残りました。入院中のリハビリや投薬による治療で少しずつ回復したものの、記憶力や判断力が以前よりも低下してしまうなどの後遺症が見られ、退院後に再度受けた知能検査では中度知的障害(知的発達症)との診断になりました。
息子の発達の後退、それでも前に進む
息子が脳症になってから、まもなく1年が経とうとしています。現在の息子は、倒れる前に比べてできないこともあるけれど、少しずつ着実に回復しています。笑顔で家族のもとへ帰ってきてくれたことが何よりも幸せなことだと、倒れてからのこの1年間のさまざまな出来事を通して感じています。
就学前診断や医師の診察も受けるなど、専門家の皆さんから薦められたことも決め手となり、私と夫は息子の特別支援学校への入学を決めました。4月から1年生として新たなチャレンジを始めた、とつお。慣れない新生活に波立つ日もありますが、あらゆる感情を味わいながら家族で前へ進み続けたいと思っています。
これから過去の出来事や特別支援学校での様子をコラムとして綴り、同じような気持ちでお悩みを抱える保護者の方々と共に歩んで行けたらうれしいです!
執筆/マミー・マウス子ビッツ
(監修:室伏先生より)
お子さんのこれまでの歩みと、その中での変化を大切に綴られていて、読みながら胸がいっぱいになりました。思いがけない診断や、回復後の変化を受け入れていく過程には、きっとたくさんの葛藤や戸惑いがあったことと思います。そのような困難の中でも、今を前向きに歩まれているご姿勢に、心からのエールを送りたいです。
急性脳症は、その多くが感染症に伴って発症し、熱性痙攣(けいれん)や知的障害(知的発達症)のないお子さんであっても一定の頻度で生じうる疾患です。発症時期としては、乳幼児期が多いですが、学童期以降で発症することもあります。意識の悪い状態から回復した後にも、麻痺や知的障害(知的発達症)、発達障害などの後遺症が残ることもあります。とつおくんには複数回の熱性けいれんがあったとのことで、けいれん予防のためのお薬を毎日しっかりと服用されていたとのことですが、残念ながら、こうしたお薬では脳症の発症を防ぐことは難しいのが現状です。急性脳症については、現時点で確立された予防法がほとんどなく、今もなお研究が進められている段階です。
特別支援学校という環境の中で、お子さんが自分のペースで安心して学び、成長していけることはとても大切なことです。これまでのご家族の姿勢や工夫、そして何より「とつおくんを信じて見守る」温かいまなざしが、きっとこれからの成長にもつながっていくのだろうと感じました。とつおくんとご家族の歩みが、これからも穏やかで実りあるものでありますように、心から願っています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。