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自動運転AIの課題を「教師なし学習」で解決 ホンダも出資するHelm.ai

TECHBLITZ

「教師なし学習」という、自動運転技術搭載車の大衆化に不可欠なソフトウェアを開発するHelm.ai(以下Helm、本社:米国カリフォルニア州)。自動運転で安全に走行するためには精度の高いソフトウェアの開発が欠かせないが、従来のAI学習の方法では金銭的・人的コストがかかりすぎてしまう。Helmは「教師なし学習」という、人間による画像データへの「ラベリング」の作業をせずとも、道路や歩行者情報を高速で学習するアルゴリズムを開発した。Helmの共同創業者でCEOのVladislav Voroninski氏に話を聞いた。

「教師あり学習」は時間とコストがかかりすぎる

―自動運転技術のソフト開発における現在の課題は何ですか。そして、その課題に対してどのようにアプローチしているのでしょうか。

 自動運転レベル4を実現するためには、高速道路と一般道路の大量な情報をソフトウェアに学習させる必要があります。「特定条件下において、完全な自動走行」するためには、人間と同じように道路や信号の情報をリアルタイムで読み込み、ハンドルを切ったり、減速したり、止まったりしないといけないからです。

 そのように高度な情報を瞬時に読み解き、正確な判断を下すためには、従来のソフトウェアの学習方法では時間とコストがかかりすぎるのが課題でした。当社は「教師なし学習」という学習の仕方を学ばせたAIを搭載したソフトウェアを開発し、時間とコストを削減しようとしているのです。

 なぜ「教師なし学習」が革新的なのか、理由を説明しましょう。自動運転レベル4で安全に走行するためには、人間が運転するのと同じように先を予測し、臨機応変に対応する必要があります。従来のソフトウェアにこれらの情報を学習させると膨大な時間と金銭的なコストがかかってしまうのです。「教師なし学習」とは、人間による監視なしで、AIが自動的に歩行者や道路、天候などの情報を学習することを指します。つまり、従来よりも少ないインプットで、速くソフトウェアに情報を教え込むことができるのです。

開発コストが安いからミドルクラスにも対応

―自動車メーカーがHelmに注目している理由は。

 自動車メーカーはハードウェアの知見は深いですが、自動運転に必要なソフトウェアにおいては外部の協力を必要としているからでしょう。もちろん、Helm以外にも自動運転のソフトウェア開発者は存在しますが、われわれが長けているのは「正確さ」「安全性」「開発能力」です。

 他社がハイエンド向けの車両に搭載するソフトウェアを開発しているのと比較すると、当社はミドルクラスの車種にも対応できる技術を有しています。これが可能になっているのは、Helmのアルゴリズムが教師なし学習を採用しており、開発コストが安いからです。

―今後、より多くの自動車メーカーがHelmの技術を重宝するようになるという自信はありますか。

 あります。自動車メーカーにとって、ソフトウェアの差別化は急務だからです。向こう5〜10年で、自動車の主要な価値はハードからソフトに移行するでしょう。ハードウェアは技術的にもコモデティ化するからです。現在のところ、教師なし学習のアルゴリズムの精度の高さにおいて、当社はトップを走っていると自負しています。

―Helmを創業したきっかけを教えてください。

 私は元々、UCLAで応用数学の修士号を取得したのち、MITなどで研究者として勤務していました。ディープラーニングは私の強いパッションだったのです。2016年にHelmを立ち上げたのは、自動運転とAIが組み合わさった革命を目の当たりにし、「市場に飛び込むなら今しかない」と決意したからです。

 創業当初から、自動運転をより高いレベルで、さらに大衆向けの市場に対応できるソフトウェアを開発するためにはコストを抑えなければいけないと理解していました。教師なし学習の実現に最初から本気だったわけです。創業後、数年間は教師なし学習の基礎モデル訓練に時間を充てた結果、他のソフトウェアよりも高い安全性と離脱率を達成できることを実証できました。実際、顧客である自動車メーカーも初期の段階で「このアルゴリズムは使える」と感銘を受けていました。

Vladislav VoroninskiHelm.aiCo-Founder & CEOUniversity of California Los Angelesにて応用数学の修士取得。University of California Berkeleyでは数学のPhDを取得。同校やMITで博士研究員やフェローを務める。後にIT系企業に転じ、2016年にHelm.aiのCEOに就任。

自動車の次の差別化要素は「ソフトウェア」

―2022年にはホンダが3000万ドルを出資しており、累計では約1億5500万ドルを調達しています。資金の使い道を教えてください。

 ホンダからは2022年のシリーズBのラウンドで3000万円の出資を受けました。また、それより以前からHonda Xcelerator(ホンダ・エクセラレーター)を通じてコラボレーションにも取り組んでいます。

 調達資金は人員拡大に投じます。Helmが市場から高評価を得ている最大の理由の一つが、当社のエンジニアリングチームです。「教師なし学習」を磨き上げるためには、多くの優秀なエンジニアの力が必要でした。優秀なエンジニアはこれからも採用していきたいと考えています。

―数多くのVCや事業者から、多額の資金を調達できた理由は何だとお考えですか。

 自動車業界を専門にするVCも、次の自動車業界のメガトレンドは「ソフトウェア」である、と認識しているからでしょう。先ほどお話しした通り、Helmは大衆車のシステムにも適応可能な程、コストを大幅に削減できるアルゴリズムを開発しているのです。また、今後本格化する自動運転市場を見据えた時、Helmほど高精度で、安全なソフトウェアを開発する企業は珍しい、と判断していただけたのではないでしょうか。

image: Helm.ai

日本市場ではレベル2・3向け商品から展開

―日本市場をどのように見ていますか。

 日本市場には大きなポテンシャルがあると思いますし、市場の当社への関心も高いです。イノベーションを重視する日本企業の姿勢は、当社のミッションとも重なります。具体的には、すでに当社が市場に出している自動運転レベル2、レベル3*向けアルゴリズムの販売から始めるのが適当でしょう。*レベル2:アクセル・ブレーキ、ハンドル操作の自動化、レベル3:緊急時以外は自動運転

 また、消費者向けロボットや自動採掘ロボットなどの製品にも当社のアルゴリズムを搭載可能です。

 提携については共同販売・代理店はもちろん、共同開発や合弁事業、投資など、あらゆる選択肢を考えています。形態に関して特にこだわりはありません。

―最後に、長期的にどのようなビジョンを実現したいか教えてください。

 Helmは、AIソフトウェア会社です。当面の目標は、より多くのOEM車に我々のソリューションを提供することです。優先順位としては、レベル2が先になります。各国政府の規制に足並みを合わせる形ですね。その成功体験をもとに、レベル4市場で多くのシェアを獲得したいと思います。

 また、自動車だけでなく、ロボット市場にも進出したいと考えています。航空や鉱業、消費者向けまで、さまざまな製品が今後ロボット化していくでしょう。その際に選ばれる技術を開発していきます。

従業員数なし

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