魚は親しい相手を顔で識別できる? <顔認知能力>がある魚の共通点とは
私たち人類は主に顔で相手を識別して、日々の生活を送っています。
実は、顔の識別は人類特有のものではなく、霊長類や鳥類なども相手の顔で互いを識別していることが知られており、チンパンジーやカラスがその一例です。
では、魚類はどうでしょうか?
魚は親しい相手を見分けることができる?
顔の識別は社会を形成する上で必要不可欠な要素であり、人やチンパンジー、群生活をする哺乳類、カラスなどが互いの顔を識別する動物として知られています。
これらの生物たちは知能が高いという共通点がありますが、実は魚類にも視覚で識別している種が知られており、2015年には大阪公立大学大学院理学研究科の研究グループが「魚類が親しい相手を顔で見分けていること」を世界で初めて示しました。
この研究では、高い社会性を持つ魚類は個体識別能力が発達していると考えられており、プルチャーは顔の模様で個体識別をしていることが分かっています。
顔認識能力が研究されている魚は10種
2015年、世界で初めて魚類が親しい相手を顔で識別できることを明らかにした大阪公立大学大学院理学研究科の研究グループですが、2024年11月27日には魚類の顔認知能力についての本総説論文が「Frontiers in Psychology」で公開されました(論文タイトル:The ability of teleost fishes to recognize individual faces suggests an early evolutionary origin in vertebrates)。
この研究では、過去10年間に世界で明らかにされた魚類の顔認知研究の文献を網羅的に調査。
調査の結果、スズキ目のカワスズメ科(プルチャーなど)、スズメダイ科(ニセネッタイスズメダイ)、ベラ科(ホンソメワケベラ)をはじめ、トゲウオ科、ヨウジウオ科、メダカ科、カダヤシ科で顔認識能力が研究されていることが明らかになりました。
いずれの魚たちも個体変異のある模様を顔に有しており、縄張りや順位、一夫一妻のペア関係等、個体識別が必要な社会を維持している種です。
また、これらの魚たちは系統的に離れた4つの目に分けられることから、魚類では様々な分類群で顔認知が行われていることが示唆されています。
顔認知能力の進化
魚類の中には、顔認知能力がある種がいることが明らかになっていますが、ここで疑問なのが「顔認知能力が魚と哺乳類で独立に進化した」のか「祖先の魚類の段階で進化した顔認知能力が現在の陸上脊椎動物に引き継がれている」のか。
これに関しても同研究で調査されており、「顔の倒立効果」と呼ばれる逆さにした2つの顔は見分けが難しくなる現象が人類と一部の魚類で確認されていることから、顔認知の仕組みが哺乳類と魚類で似ていることが示されました。
さらに、魚類でも顔のパーツのうち「眼」が重要であることが徐々に判明しており、脊椎動物の顔認知とその仕組みが相同関係であることが示唆されています。
祖先の魚類から顔認知能力が引き継がれている?
このような顔認知能力は個体識別の必要性に応じて進化してきたと考えられ、古生代の淡水域、浅海域の社会性が発達した魚類で、すでに顔認知能力が進化していた可能性があるようです。
この仮説通りであれば、現在魚類で見られる顔認知だけではなく、我々人類も古生代で獲得された能力を引き継いでいると考えることができます。
顔認知は脳が発達した動物で見られるの能力と思われがちですが、その能力が古生代の魚類の段階で既に獲得していた可能性があるとは驚きですね。
(サカナト編集部)