オアシス来日公演直前 ③ 教えて!再結成ツアーの体験者に訊く東京ドームでの楽しみ方
スリー・ストーリーズ by Re:minder
オアシス来日公演直前 ③ 教えて!再結成ツアーの体験者に訊く東京ドームでの楽しみ方
オアシス来日記念に寄せてのスリー・ストーリーズもいよいよ最終話。第1話では彼らが鳴らした1990年代ブリットポップの衝撃と、名盤『モーニング・グローリー』((What’s The Story)Morning Glory?)の時代的意味を探ってきた。第2話はメンバーチェンジや音楽性の変化を乗り越えながらも解散に至った困難の季節を振り返った。そして最終話となるこの第3話は、再結成したオアシスのライブの魅力を探ってみたい。
そこで、再結成オアシスの海外公演をいち早く体験した、渋谷、道玄坂の老舗DJ BAR『EdgeEnd』店主の遠藤理良さんに話を聞いた。
愛されるバンド、オアシス
ーー 今回の再結成は、若い世代からオールドファンまで異例の盛り上がりを見せています。その理由は何だと思いますか。
遠藤理良(以下:遠藤):それはもう単純に、みんなオアシスが大好きだからですよ。あれほど分かりやすくて、感情に真っすぐ響く音を鳴らすバンドは、なかなかいません。
ーー 再結成ツアーをイギリスとアメリカでご覧になったそうですね。違いはありましたか?
遠藤:最初に観たのは英国カーディフ公演でした。リアムとノエルがステージに現れた瞬間、会場全体が大歓声に包まれて、その後、音が鳴った瞬間に高まったエモーションは言葉にならないほどでした。ノエルは少し緊張していたようにも見えましたが、それもまた人間らしくて良かった。ギャラガー兄弟の時間が、再び動き出したのだと実感しました。
ロサンゼルス公演は、すでにライブを20本ほど演っていたこともあり、バンド全体に余裕がありました。ステージ上でリラックスしながら演奏を楽しんでいて、その空気が客席にも伝わっていましたね。観客の中にはオアシスのTシャツだけでなく、ガンズ・アンド・ローゼズなどハードロック系のTシャツを着た人も多く、まるでフェスのようでした。英国ほどの大合唱とまではいかないものの、それでも3〜4割のお客さんは一緒に歌っていました。国が違っても、オアシスはやはり “特別” な存在なのです。日本でも何曲かは大合唱になってほしいです。
音そのもので観客を納得させなければならない
ーー 以前のライブと比べて、どんな変化を感じましたか。
遠藤:当時は新作を携えてのツアーが多かったので、新曲と旧曲が混ざっていましたが、再結成後の今はファーストとセカンドを中心にしたセットリストで、誰もが歌える曲ばかり。特にイギリスでは “歌いに来ている” 観客が多かったですね。オアシスは、ステージを走り回るような派手な演出はしません。だからこそ、音そのもので観客を納得させなければならない。そこに今の彼らの本質があると思います。
再結成メンバーの構成も絶妙でした。中後期を支えたゲム・アーチャーとアンディ・ベルが復帰し、初期メンバーのボーンヘッドが加わった。ボーンヘッドはギャラガー兄弟の間に立てる貴重な存在で、これ以上の人選はないと思います。
ーー ドラマーの起用についてはいかがですか。
遠藤:そこが今回のサプライズでした。今までオアシスに関わったドラマーの力量では現在のスタジアムライブのクオリティーには不安があることは否めなかったのかもしれませんね。ましてやリアムは絶対に恥をかきたくないタイプですからね。そこで、超一流セッションドラマーのジョーイ・ワロンカーを呼んだのだと思います。オアシスとの相性については好みが分かれるかもしれませんが、リズムの安定感は抜群です。R.E.M.、ベック、トム・ヨーク… 彼の名前がクレジットされてきた作品を思い出せば、その実力は疑う余地がありません。
“オアシス祭り” を楽しもう!
ーー 今後のオアシスに、どんな展開を期待していますか。
遠藤:まず、ツアーは来年も続くはずです。リアムがステージでそれらしい発言をしていましたしね。もしそれが本当なら、新作の準備が進んでいるのかもしれません。新作リリース後に新たなツアーが始まれば、その時こそオアシスの真価が問われることになると思います。
ーー 最後に、来日公演の楽しみ方を教えてください。
遠藤:オアシスの再結成は、ある意味 “祭り” だと思います。だから、歌いたい人は歌って、叫んで、笑えばいいと思います。隣の人が少し音を外して歌っていても、怒っちゃだめですよ(笑)。一方でオアシスには名曲バラードもたくさんありますから、じっくり噛み締めながら聴き入りたい人もいるでしょう。それぞれの楽しみ方で思いきり “オアシス祭り” を謳歌してみてはいかがでしょうか。
3話にわたってオアシスのストーリーを追ってきた。解散から今日に至るまで、再結成の噂と否定を繰り返すのがギャラガー兄弟のお約束だった。兄ノエルは “再結成はない" と言い切り、弟リアムはそのたびにSNSで挑発する。そんな兄弟劇場を眺めながら、私自身も “オアシスは再結成しない方がいい” と思っていたし、Re:minderにもそうしたコラムを以前に書いた。
実際、これまで多くのロックバンドが同窓会的な再結成をしているが、残念ながら懐かしさ以上のものを残せない再結成劇を目にすることが大多数だった。そこには青春の記憶を上書きしてほしくないというバイアスがあったことも事実だろう。だが今回のオアシスの再結成は、どうやら違うようだ。彼らは再び “ロックンロール・スター” として、全速力でワールドツアーを駆け抜けている。その姿こそ、オアシスのリアリティだと感じるのだ。
重要なのは動機ではなく、今もギャラガー兄弟がロックンロール・スターであり続けるリアリティを見せられるかという一点だと私は思っている。そして、もし本当に新作が作られ、リリースされるのであれば、50代の彼らがどんな音を鳴らすのか、大いに期待したい。若き日の喧騒とも、大人の渋みとも違う、新しい形の “オアシスのロックンロール” があるはずだ。最高の新作が届けられたその時は、ここRe:minderで、そのロックンロールのリアリティについて語り尽くしたいと考えている。
