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迷惑をかけることを怖れるな【追悼:山田太一】傑作ドラマ「男たちの旅路」のメッセージ

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1976年02月28日 NHKドラマ「男たちの旅路」放送開始日

世代間ギャップを描いた名作ドラマ「男たちの旅路」


特攻隊員だった戦中派のストイックな中年ガードマンと、戦後生まれの若者たちの対立や葛藤、共感を描き、4部構成で放送されたNHKドラマ『男たちの旅路』。『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』など、数々の名作ドラマを生んだ脚本家・山田太一の代表作のひとつだ。

ミッキー吉野が手掛けたジャズ風のスピーディーなテーマ曲がカッコいい。演奏はミッキー吉野グループ、つまり後のゴダイゴ。第2部からは、オープニングのクレジットもゴダイゴ表記になり、2話「冬の樹木」にはゴダイゴ本人たちが登場し、劇中でテーマ曲を演奏した。

『男たちの旅路』の中でも、特に評価が高くドラマ好きの間で語り継がれているのが、第3部1話「シルバー・シート」。それまでは、当時50代の吉岡司令補(鶴田浩二)と20代の警備員たち(水谷豊、桃井かおり、柴俊夫、森田健作)の世代間ギャップが軸となっていたが、この回はもっと高齢の世代が登場し、老人たちの “反乱” が描かれる。

老人たちが都電をジャック。傑作回「シルバー・シート」


ⓒNHK

老人の顔ぶれがやたらと豪華。志村喬、笠智衆、加藤嘉、殿山泰司、藤原釜足。日本映画黄金時代に活躍していた重鎮がずらりと並び、当時の老人オールスターズといってもよいのでは。だが、ここで演じるのは、身寄りがなく、規則に縛られながら養老院に暮らす老人たち。志村喬は前半で急逝するが、残りの4人はなんと都電をジャックする大事件を起こす。

老人たちの要求は何なのか。吉岡が彼らを説得しようと車両に乗り込むが、老人たちはこう言うのだ。

「歳をとれば誰だって衰える。目覚ましいことはできないよ。しかしね、この人は何かをしてきた人だ。こうこうこういうことをしてきたってことで、敬意を表されちゃいけないのかね。それでなきゃ門前さんが言うように次々に使い捨てられていくだけじゃないの」

昨年春、NHK-BSで『男たちの旅路』が一挙再放送された。この回を観たとき、ふと「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」との30代経済学者の発言を思い出してしまった。

「迷惑をかけることを怖れるな、胸を張れ」というメッセージ


ⓒNHK

もう1話、『男たちの旅路』で語り継がれる傑作回がある。身体障害者の現実を真正面から描いた第4部3話「車輪の一歩」だ。

1人では電車にもバスにも乗れず、思うように外出さえできない車椅子の若者たち。特につらいのが「一度でいいから、女性と付き合いたい」と母親に懇願し、風俗店に行ったエピソードだ。「車椅子はだめ」と断られ、そのまま家に戻り、「行ってよかった」と両親に嘘をつこうとするが、思わず号泣してしまう場面。

そんな車椅子の若者(斎藤洋介)に、吉岡は「人に迷惑をかけてはいけないというルールが君たちを縛っている。迷惑をかけることを怖れるな、胸を張れ」と伝える。

「君たちは、普通の人が守っているルールは、自分たちも守るというかもしれないが、私はそうじゃないと思う。君たちが街へ出て、電車に乗ったり、階段を上がったり、映画館へ入ったり、そんなことを自由にできないルールはおかしいんだ。いちいち後ろめたい気持ちになったりするのはおかしい。私はむしろ堂々と、胸を張って、迷惑をかける決心をすべきだと思った」

ドキュメンタリーでは立ち入れないマイナスの部分こそ、ドラマが描くべき


「車輪の一歩」のラストシーン車椅子ゆえに家に引きこもっていた少女(斉藤とも子)が、駅前の階段の下で勇気を振り絞って声を上げる。

「どなたか、私を上まで上げてください」

すると、歩いていた男性2人が、車椅子ごと少女を上まで運ぶのだ。

残念ながら、2023年の一挙再放送時も第4部だけ放送されなかったし、配信でも観ることができない。私もシナリオ集の「車輪の一歩」を読み、YouTubeに一部アップされた動画を観ただけだが、もうそれだけで胸が詰まる。

身障者、老人、被災者、経済困窮者、マイノリティ……。そうした社会的弱者と言われる人々が、ますます声を上げにくい世の中になってきているのではないか。誰だって、そうした立場になる可能性があるのに。

ⓒNHK

山田太一がインタビューや講演会でよく語っていたのが、「ドキュメンタリーでは立ち入れないマイナスの部分こそ、ドラマが描くべき領域」という言葉だ。そういえば、山田太一のドラマには、何かしらのマイナスを抱えている人たちばかりが登場するが、だからこそリアリティがあり、時折自分自身に重なる。

『男たちの旅路』は、40年以上前のドラマだが決して古びることなく、私たちに普遍的かつ痛烈なメッセージを投げかけてくる。見逃している作品や、もう一度観るべき作品があるなと、あらためてそんなことを思う。

山田太一先生、心に響くドラマをたくさん残してくれて、ありがとうございました。

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