スポーツ興行の集客を支える「スタジアム&アリーナグルメ」 戦略的アプローチで売上拡大と集客を実現するキッチンカーの仕掛け人を直撃!
スポーツ興行における観客満足度の向上と収益最大化に貢献する「スタジアム&アリーナグルメ」。本記事では、キッチンカーを活用した戦略的アプローチによって、売上拡大と集客力向上を実現する取り組みに迫ります。
キッチンカーの導入が単なる飲食提供にとどまらず、スポーツイベントの魅力を高める重要な要素となるためには、綿密なデータ分析やターゲットに応じた価格設定、そして空間演出があります。実際の成功事例や失敗から学んだポイント、さらに今後の展望について、キッチンカー事業を手がけるUnivelホールディングス株式会社 代表取締役 八田康平氏(以下、八田)にSports for Social 山﨑が話を伺いました。
競技の迫力だけでなく、試合前後の飲食体験を含めたトータルなエンターテイメントを提供することで、スポーツの魅力をさらに広げる。その戦略と仕掛けとは――。
損害保険業界の厳密な契約設計がキッチンカー事業に変革をもたらす
山﨑)金融業界で働いていた八田さんの目から見て、このスポーツに関わる業界に入ってみて、どのような課題を感じていますか?
八田)まず、スポーツ業界の方々は非常に多忙だという印象があります。試合やイベントを成功させるために、多岐にわたる業務をこなさなければなりません。フロントスタッフもそれぞれ異なる業務を兼務していることが多く、人的リソースが不足しているのは明らかでした。
また、スポーツ業界に関わる方の多くが、もともとスポーツの世界で生きてきた方々で、他業種からの参入は少ないと感じました。私のように金融業界からスポーツ業界に関わるケースは珍しく、スポーツを軸にした新しい視点やビジネスのアプローチがまだ十分に活かされていないと感じます。
山﨑)「前職の経験が活かせる場面がある」とおっしゃっていましたが、具体的にどのような部分でキッチンカー事業に活かせていますか?
八田)前職の損害保険業界は特殊な業界で、参考純率という保険料を算定する指標があり、それを基に各保険会社が保険料を設定します。また、契約条件が非常に厳密で、「この場合は補償対象、この場合は対象外」といったルールが細かく決められています。
こうした厳密な契約設計の考え方が、現在のキッチンカー事業にも活きています。契約条件を明確にし、ルールを固めた上で事業を進めるという考え方は、観客満足度の向上と収益最大化においても非常に重要です。
山﨑)非常に新しい視点でおもしろいですね。具体的に、キッチンカー事業にどのように応用しているのでしょうか?
八田)例えば、キッチンカーの出店条件の設定ですね。出店料金や販売価格の決定は非常に重要なポイントです。出店者が収益を最大化できるよう、事前に売上予測を立て、適切な価格設定を行うようにしています。
山﨑)他にも同じような事業を展開している企業があると思いますが、それらの会社との差別化ポイントはどこにありますか?
八田)当社は、販売価格の設定まで踏み込んでいる点が大きな違いです。イベントに合わせたキッチンカーの手配、スタッフの配置、提供スピードの管理まで行い、売上向上に直結する施策を実施しています。こうした細部までこだわる姿勢が、他社との差別化になっていると考えています。
山﨑)スポーツチームが自前で運営するケースもあると思いますが、その違いについてどう考えていますか?
八田)スポーツチームが自前で運営する場合、人的リソースや経験の不足から、適切な価格設定や売上分析が十分に行われていないことが多いです。例えば、提供スピードや売上の最大化を考えたオペレーション設計は、専門的な知見がないと難しい部分です。当社では、データを活用した分析を基に、最適な出店条件を提案できるため、こうした課題を解決できると考えています。
また、スポーツクラブの場合、最初は「出店してくれませんか?」というお願いベースでの出店が多いんですよね。「観客はあまり多くないけれど、出店料はこの金額で出てもらえませんか?」という形でスタートし、その条件がそのまま何年も続いてしまっているケースもあります。「昔からあの人はこの条件で出店しているから値上げしにくい」などの感情から、集客が増え売上も伸びている状況でも出店価格を据え置いているような事情が生じてしまい、適正な価格設定が難しくなります。そこで、私たちのような会社が間に入ることで条件の最適化を図り、一度リセットして本来あるべき姿に調整する役割を担えるのではないかと考えています。
山﨑)チーム側にとってのメリットは今お話を伺って理解できました。一方で、出店する店舗側や、お客様にとってのメリットも工夫されているのでしょうか?
八田)出店者にとっては、単独で営業するだけでは受けられないサポートがあったり、私たちが空間づくりを行うことで「お客様がより飲食を楽しめる環境」で出店する機会を提供できるのも強みです。
お客様にとっても、ただ食事をする場ではなく「ここに来れば特別なフードが楽しめる」と感じてもらえる仕掛けが重要になります。他では味わえない限定メニューや、選手とのコラボメニュー、スポーツイベントと連動した企画を取り入れることで、より高い付加価値を提供できると考えています。
こうした取り組みによって、お客様の満足度が向上し、結果として出店するキッチンカーの方々にもメリットが生まれます。このように、チーム・お客様・出店者の3者がWIN-WINの関係を築けるように工夫しています。
SAGAアリーナ(佐賀県)
ターゲット層を細かく分析し、イベントの価値を最大化するキッチンカー戦略
山﨑)より具体的なイメージをつかむためにお伺いしたいのですが、これまでの経験の中で、とくに印象に残っている“成功例”と“失敗例”を教えていただけますか?
八田)失敗例でいうと、販売価格の調整に踏み込みすぎたケースがあります。ある会場で販売価格を引き上げて出店してもらったのですが、歩いて行ける距離に商業施設があり、お客様がそちらに流れてしまいました。
この経験から、価格設定の際には周辺環境を含めた総合的な飲食の供給力をより厳密に分析する必要があると学びました。そのエリアにどんな飲食店があり、どの程度の距離感で競合するのか、といった情報を事前にしっかり把握することが重要だと感じています。競合する施設が近くにある場合には、安易に価格を引き上げるのではなく、別の方法で売上を確保する工夫をしています。例えば、場作りを工夫し、お客様が「ここで食べることに価値を感じる」ような演出をすることで、単なる価格競争にならないようにしています。
山﨑)たしかに、近くに安価な選択肢があれば、お客様はそちらに流れてしまいますよね。スポーツチームのスタジアムは、郊外にあることが多いですよね。その点では、まだまだ改善の余地があるのでしょうか?
八田)そうですね。スタジアムの立地を考えると、飲食の選択肢が限られているケースも多いため、まだまだやりようがあると思います。
山﨑)逆に、スタジアムが郊外にあるのに、必要以上に価格を安く設定してしまっているケースもあるということですね? その場合、もっと適正な価格設定ができる可能性があるということでしょうか?
八田)もちろん提供するメニューによって適正な価格帯は異なりますが、ある程度お客様に「許容される範囲」は見えてきています。その範囲内で適正な価格を設定しつつ、場作りや空間演出を通じてお客様の満足度を高めることが重要だと考えています。
SAGAアリーナ(佐賀県)
山﨑)成功事例についても教えていただけますか?
八田)成功事例としては、短時間で販売を行う際の工夫が挙げられます。通常、このような場合はキッチンカーの台数を増やすのが基本的な戦略ですが、あえて台数を増やさず、限られたキッチンカーの台数で、お会計の窓口を2~3か所に増やし、スタッフの数も10人ほど確保することで、キッチンカーを“フード提供の拠点”として最大限に活用しました。
この結果、広いスペースを使わずに、主となるイベント会場の近くでスムーズにフード提供ができ、売上も確保できました。出店者にとっては売上が上がり、購入者にとっても「行列ができていたけど、思ったより早く買えた」という満足度につながりました。
山﨑)「お客様がキッチンカーやフードイベントになにを求めているのか?」という点について、八田さんはどのように捉えていますか?
八田)来場者の属性によって求めるものは異なります。例えば、サッカー観戦が目的の人は、フードのクオリティにはそこまでこだわらない傾向があります。一方で、サッカーに詳しくない友人や家族、恋人と一緒に来る人たちは、試合そのものよりも「美味しい食事を楽しめるか」「イベントとして楽しめるか」といった点を重視することが多いです。そのため、提供する料理のクオリティや種類も、来場者の属性によって変える必要があると考えています。
山﨑)“スポーツイベント”という括りではなく、ターゲット層を細かく分析しながらアプローチしているということですね。
八田)スポーツクラブの収益構造を見ると、年間通して通うリピーターは約3割程度で、残りの7割は1年に1~2回しか来場しない層です。その1~2回の来場で「スポーツそのものはよくわからなかったけど、食事は美味しかったね」という感想を持ってもらえるかどうかが、次回の来場につながる重要なポイントになります。そういった層に向けた施策を意識して取り組んでいます。
味の素フィールド西が丘(東京都)
スポーツチームとの協力で、収益をチームに還元する持続可能なビジネスモデル
山﨑)スポーツチームとはどのようなステップで話を進めていくのでしょうか?導入後の運用や改善を伴走しながら進めていく印象があるのですが、どのようなアプローチをされているのか教えてください。
八田)はじめは小額のスポンサードを行い、「我々はスポーツクラブを応援したい」というスタンスを示しながら、その上で、「キッチンカーを手配できる」「イベントの企画・運営が可能」といった強みを伝え、何かできることがあればぜひお手伝いさせてほしいという形で入ります。
スポットで「1回試しにイベントをやってみましょう」といった機会をいただくことも多いですが、「この試合でキッチンカーを呼んでみませんか?」とか、「キッチンカー10台のうち3台だけ試験的に導入してみませんか?」といったスモールスタートも可能です。実際に導入してもらったあと、その成功事例をもとに「フードフェスや夏祭りのイベントもやりませんか?」などと提案し、徐々に規模を拡大していく流れになります。
私の考えでは、こちらがしっかり仕事をして、収益を確保できれば、それをチームに還元すべきだと考えています。そのためには、まず会場の収益を最大化しなければなりません。単なる利益追求ではなく、チームにとっても持続可能な形でビジネスを成立させるための取り組みになるような仕組みにすることが、長期的にクラブと協力し続けるために非常に重要なポイントです。
山﨑)実際に導入したスポーツチームでは、導入前と比べて収益は増加しているのでしょうか?
八田)チーム側の収益は増加していますし、さらに、もともとチーム内でキッチンカーの管理をしていたスタッフの業務がアウトソーシングできるため、人件費の削減にもつながっています。私たちは興行主や主催者から費用をいただくことは一切ないため、これまでチーム側が対応していた業務を削減し、その分、集客施策やコンテンツの充実に時間を割けるようになります。その結果、経費削減と収益向上の両方に貢献できると考えています。
味の素フィールド西が丘(東京都)
山﨑)キッチンカーや出店者とのコミュニケーションについても詳しく聞きたいです。出店者を集める際に、何か工夫している点はありますか?
八田)キッチンカーの運営者は個人オーナーの方が多く、一番気にするのは「手元にいくら残るのか」という点です。出店料の設定については、パーセンテージで表現することが多いですが、出店料が高くても最終的な利益が確保できれば問題はない、という考えの方も多いです。
私たちは、自社で運営するキッチンカーの経験から、仕入れのリスクや人件費、在庫管理などのコスト構造を把握しているため、「この商品ならこの仕入れが必要で、これだけの在庫スペースがいる」「追加での冷凍庫が必要かどうか」といった細かい部分まで理解した上で交渉を進めることができます。出店者の方からすると、「この人は業界のことをわかっている」と認識してもらえるので、信頼関係が築きやすくなり、出店した結果「言われた通りになった」となれば、次回以降もスムーズに話を進めやすくなりますよね。
山﨑)検証しながら仮説をつくっているのは出店者側からしても安心がありますよね。事前のシミュレーションの精度が高いということですか?
八田)これまでの累計1万台以上の出店台数のデータを蓄積し、それをもとに分析しているので比較的精度の高いシミュレーションが可能になっています。
山﨑)そのデータの中で、とくに重要視して分析している数字は何ですか?
八田)やはり一番大事なのは売上高です。売上がどのくらい取れているのかが最も重要な指標になります。単価が低いと、たくさん売れていても売上が伸びず、結果的に「忙しいだけで利益が出ない」というケースもあります。提供スピードや商品の見せ方も売上に大きく影響するので、それらを総合的に考えながら、売上高を最大化するための施策を考えています。
山﨑)ここまでの話を踏まえて『Univelホールディングス』の強みは、プライシングの設定や、そのためのデータ分析、さらに見せ方の工夫といった点にあると理解しました。
八田)ありがとうございます。それに加えて、「飲食代金」という形ではなく、「イベントの体験料」として価値を感じてもらえるようにすることも重要だと考えています。
出店者の方々は「自分たちは食事を売っている」という認識ですが、実際のお客様にとっては「食事を楽しむこと」だけが目的ではないんです。お客様は「朝から準備して試合を楽しみに来場し、その流れで食事をする」ので、食事そのものよりも「その場の体験」に対してお金を払っている感覚なんですよね。だからこそ、「ただの食事代」として考えられてしまうと、価格設定が難しくなってしまいます。
山﨑)あくまでエンターテイメントを提供するという考え方なんですね。そこにどう持っていけるかが鍵になると。
八田)実際に会場に行くと、その空間の雰囲気が特別であることがわかると思います。お客様も、スタジアムの雰囲気やイベントの演出と一緒に食事を楽しむからこそ、価値を感じられるものです。
山﨑)あの空間で食べるからこそ、特別感があって楽しめるんですよね。なにか今後の事業の展望はありますか?
八田)今後やりたいこととしては、“キッチンカーにスポーツ経験者が増える”ような、「スポーツ経験者がスポーツを支える仕組み」をもっと作りたいと考えています。
現在スポーツチームの運営側は、基本的にスポーツ経験者が担っていますが、キッチンカーの出店者の7〜8割はスポーツ未経験者、あるいはスポーツにあまり関係のない方々なんです。例えば、元スポーツ選手がキッチンカーを運営するような取り組みが増えれば、新しい価値が生まれるのではないかと思っています。
山﨑)たしかに、それはおもしろいですね。スポーツに詳しくないと「食べ物を売ること」だけにフォーカスしてしまいがちですが、スポーツとのつながりを意識できると、より魅力的な取り組みになりそうです。
八田)元レジェンド選手が経営する飲食店のキッチンカーが出店すれば、それだけで話題になりますし、売り上げも伸びやすくなります。また、そういったキッチンカーでの販売を通じて、お客様とのコミュニケーションも自然と生まれます。こうした取り組みが増えていけば、スポーツを軸としたビジネスの広がりがさらに出てくるのではないかと考えています。
山﨑)今後のスポーツ興行を支える「スタジアム・アリーナグルメ」の未来が楽しみになりました。ありがとうございました。
Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川県)
Univelホールディング株式会社
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