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【40歳からのやんわり無化調】単純に和食をラーメンに置き換えても、納得のいく一杯にはならない。そこには創意工夫が必要。

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無化調ゆえに、頼れるのは素材の旨味成分のみ。


だからといって、引き返すことはできない。

無化調麺をぼくなりのペースで追い求めていく本コラム。前回は春日の至宝、「ラーメン かなで食堂 春日本店」を紹介した。
そんな「かなで食堂」のほど近くに、もう一軒、取材候補に考えていた店がある。それが「ラーメン 普通」。開業はコロナ禍の真っ只中、2021年だった。

店主の森山恭行さん曰く、ラーメン店の開業は“想定外”のことだったという。以前は和風居酒屋を友人と共同で経営していた森山さん。コロナ禍になり、夜の営業ができなくなってしまった際、居酒屋という業態自体を根本的に見直すことにした。

「この先、また夜に営業ができなくなってしまうかもしれない。そうやって振り回されてしまうくらいだったら、いっそのこと、昼に営業できる業態で、一からスタートを切りたいと思ったんです。その時に思い浮かんだのが、これまでの和風居酒屋の全ての経験が生きる定食店。そしてもう一つが、居酒屋時代、無添加の天然だしを売りにしていたこともあって、だしを活かした無化調のラーメン店でした」

最終的に森山さんが選んだのが後者、ラーメン店だった。過去にラーメン店で働いた経験はゼロ。その上、どこにも修業に入ることなく、「ラーメン 普通」の開業へと至る。だからこそ、現在へとつながる骨太なオリジナリティへとつながったのだとも言える。

「ラーメン 普通」のラーメンは大きく二本柱。メニューの筆頭が塩ラーメン。そしてこの「塩」と並んで屋台骨を支えているのが醤油ラーメンだ。塩ラーメンについては、スープのベースにアサリが据えられている。

「居酒屋時代からアサリのだしが大好きで、ラーメンをつくるなら絶対に使いたいと思っていた食材なんです。このアサリの旨みに羅臼昆布の旨みを合わせることで、力強い旨みを表現しています」

完成した「貝出汁塩ラーメン」は森山さんの言葉どおり、アサリ、そして魚介の旨みが冴えわたる一杯で、豚骨や鶏ガラといった動物系の食材によるだしは一切、加えていない。それにも関わらず、無化調とは思えない圧倒的な旨みの存在を感じるのは、森山さんの試行錯誤の賜物だ。

「だしを生かしたラーメンだったらすぐにできるだろうと甘く考えていたんですよね。でも、実際は全然違って。だしをとるといっても、和食とラーメンでは、まるで別物でした。お吸い物で満足できる旨み、塩気であっても、ラーメンに置き換えると、全く味がしないんです」

無化調ゆえに、頼れるのは素材の旨味成分のみ。そんな想定外の事態に愕然としながらも、もう引き返すことはできない。森山さんはそこから旨みだけでなく、ラーメンが、ラーメンらしい味わいになるために欠かせない塩気、油にも目を向けた。

「最終的に和食時代に引いていたアサリだしと比較して、だしに何倍もの量を用いることになりました。また、それだけではなく、元ダレ、香味油にも貝のエッセンスを付加することで、塩気、脂っ気を高めても埋没することのない、アサリの旨みが表現できるようになったんです」

ラーメンの丼の傍には、“味変”用に、とアサリのペーストも添えられている。そのおかげもあって、一口目から、最後の一滴まで、食べている間、常にアサリのだしに満たされている感覚を覚えた。実際に「普段は飲み干さないのに、気がついたらスープがなくなっていた」というお客の声も多いという。一度食べれば納得の感想だ。

もう一つの看板メニュー「煮干醤油ラーメン」は、その名のとおり、煮干しを効かせた一杯。こちらも無化調ながらも旨みがしっかり舌に伝わるよう、ただの醤油ではなく、麹醤油を採用している点がポイントだ。

和食居酒屋からラーメン店の店主へと転身した森山さん。開業から4年が経った今、どのように心境なのか。

「やればやるほど、ラーメンの底がない魅力に夢中になっています。私の場合、和食の経験がラーメンづくりの土台になっていますが、単純に和食をラーメンに置き換えても、納得のいくラーメンにはならないんですよね。しかもうま味調味料に頼らない一杯にするんですから。ラーメンにするためには、もっと言うと、ラーメンらしい味にするためには、やはり創意工夫が必要で。だからこそ、面白いんです」

福岡といえば、豚骨ラーメンが昔から親しまれてきた。その中で、豚骨ラーメンを一切置かないという森山さんのスタンスは、一昔前までの福岡では考えられなかった。実際、開業前には親戚たち全員から反対されたそうだ。それでも、今では行列ができるほどの人気を獲得したのは、第一に森山さん自身がラーメンづくりを誰よりも楽しんでいるからだろう。

「和食居酒屋時代には厨房が奥にあったので、営業中、ほとんどお客様との接点がありませんでした。今の店は最終的に一人でも営業できるようなコンパクトな規模ですし、カウンター越しにお客様の顔がしっかりと見えます。逆に言えば、お客様からもこちらの表情が丸見えです。その距離感が気に入っていますね。『美味しいね』といった言葉もダイレクトに届きますから、それはもう、やりがいになりますよ」

そういえば、取材時に、「普通」という、全くもって「普通」ではない屋号の由来を聞くのを忘れていた。ただ、なんとなく聞かなくても、その思いはぼくに届いているようにも思う。「普通」であること。それはきっと、幸せなことなんだ。

ラーメン 普通
福岡県春日市大和町4−24
092-231-0882

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