【ミリオンヒッツ1994】ZARDらしさ全開!人気絶頂期に放たれたアルバム「Oh My Love」
リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.10
Oh My Love (アルバム)/ ZARD
▶ 発売:1994年6月4日
▶ 売上枚数:200.2万枚
ZARDらしさが極まった「Oh My Love」
90年代は、CDラジカセにJ-POPのアルバムを入れ、繰り返し聴くのが習慣だった。そしてこの作品も、購入してラジカセに入れたまま1ヶ月以上は聴きまくった。そう、1994年の初夏にリリースされたZARD通算5枚目のアルバム『Oh My Love』である。
前年からこの年にかけてのZARDの人気は、1つの頂点に達していた。93年にリリースされたシングル「負けないで」「揺れる想い」の2枚がミリオンヒットを記録。アルバム『揺れる想い』がダブルミリオンを売り上げる大ヒット。その後に発売された3枚のシングルも軒並みヒットチャート上位を賑わし、坂井泉水の歌声が、音楽界を席巻していた。
そんなZARDの人気絶頂期に放たれた『Oh My Love』は、前作で確立したZARDの魅力を発展させ、さらに凝縮したような作品。突き抜けるように美しい坂井のボーカル、甘酸っぱくも爽やかなポップサウンド、キラキラした極上のアレンジが調和し、ZARDらしさが極まった曲を存分に味わえる。聴けば聴くほどに新たな発見があり、当時の私も、ZARDの楽曲にずっと浸っていたい快楽を感じた。今回はこのアルバムの魅力に、幾つかの観点から迫ってみたい。
明るさと切なさが絶妙にチューニングされた楽曲構成
まず、アルバム全体の印象として、明るさと切なさのバランスが絶妙にチューニングされている。明るくてさわやかな曲、少し切ない甘酸っぱい曲、じっくり聴かせるバラード曲、小気味よいロックテイストの曲と異なるタイプの曲が配分されている。これをそれぞれを歌い分け、坂井の異なる表情を垣間見ることができる。
また、先行発売された「きっと忘れない」「もう少し あと少し…」「この愛に泳ぎ疲れても」といったシングル3曲が本作に収録されているが、どれもアルバムの構成曲として溶け込み、曲順も、序盤はポップス、中盤にはキャッチーなシングル、後半には切ないバラードが配置され、全体の統一感を感じることができる。
特に中盤には、ロックテイストの「雨に濡れて」「この愛に泳ぎ疲れても」の2曲が置かれ、アルバムのアクセントになっている。「雨に濡れて」は、前年に “ZYYG REV ZARD & WANDS” の共同名義で発売され、長嶋茂雄さんの参加で話題になったシングル「果てしない夢を」のカップリング曲。本作では坂井がソロで歌っているが、「♪雨に濡れて~」のフレーズを繰り返すサビが心に刺さる。
一方、先行シングルとして発売された「この愛に泳ぎ疲れても」は、曲進行が特徴的。1番はスローなバラードだが、2番で急にスピードが上がり、曲調もロックに変わる。この緩急のギャップが斬新で、アルバム中で激しい情念を感じる唯一の曲として存在感を発揮している。
ボーカルと歌詞の魅力を引き立たせているアレンジ
さらに、このアルバムはアレンジが素晴らしく、坂井のボーカルと歌詞を引き立たせている。そのことが特に伝わる3曲を紹介したい。
まず冒頭の表題曲「Oh My Love」が、アルバムの導入に相応しい名曲だ。ギターを多用したキラキラ感あふれるアレンジが、青春のピュアな恋愛を綴った歌詞とボーカルを際立たせ、淡い恋心が眼前に迫ってくる。「♪ほら加速度つけて、あなたを好きになる」「♪友達のエリアはみ出した」「♪あなたといる時の 素直な自分が好き」など、心に引っ掛かるフレーズが連発する歌詞も素晴らしい。聴き終えると心が洗われた感覚に陥る。
また、今はいない恋人との記憶を歌ったバラード「I still remember」は、アルバムの中で最も心を惹かれる曲だろう。冒頭のピアノ、切ないボーカル、後半に進むにつれて盛り上がるアレンジが、主人公の悲しみを助長する。また、間奏のドラマチックなギター演奏も聴きどころ。歌詞のやるせない心境が、演奏を通じて伝わってくる。
そして、ラストを飾る「あなたに帰りたい」は、6分を超える壮大なバラード。このうちイントロとアウトロの演奏が2分半ほどを占め、歌だけでなく音楽としての作品性の高さを感じる。心で泣いているような坂井のボーカルも、ドラマチックなアレンジによって美しさが際立って聴こえる。
「Oh My Love」から多くの曲がベストアルバムに収録
このように、ボーカル、サウンド、アレンジが調和した『Oh My Love』からは、多くの曲が後年発売されるベストアルバムに収録され、完成度の高さがうかがえる。
1999年に発売され、ファン投票の順位により収録曲が構成された『ZARD BEST 〜Request Memorial〜』では、「Oh my love」と「I still remember」の2曲が15位以内にランクイン。また、ZARDのデビュー25周年を記念して2016年に発売された『ZARD Forever Best 〜25th Anniversary〜』では、このアルバムから8曲も選ばれている。これは、全アルバム中で最も多い。
もちろんこのアルバムも、1994年のオリコンのアルバム年間売上で5位にランクイン。最終的には、前作に続きダブルミリオンを売り上げる大ヒットを記録する。
90年代に出されたZARDのアルバムは名盤揃いだが、人気絶頂期に放たれたこの作品はZARDの魅力が際立った1枚として、今も私の心に刻まれている。坂井泉水のうつむき顔のジャケットを見ていると、CDラジカセでZARDを繰り返し聴いていた90年代が蘇り、多幸感に包まれていくのだ。