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自分には個性がない、なんてない。―どんな経験も自分の魅力に変える、バレエダンサー・飯島望未の個性の磨き方―

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自分には個性がない、なんてない。―どんな経験も自分の魅力に変える、バレエダンサー・飯島望未の個性の磨き方―

踊りの美しさ、繊細な表現力、そして“バレリーナらしさ”に縛られないパーソナリティが人気を集めるバレエダンサー・飯島望未さん。ファッションモデルやCHANELの公式アンバサダーを務め、関西テレビの番組「セブンルール」への出演をきっかけに、これまでバレエに親しみがなかった人たちが彼女の踊りを見るために劇場に足を運んでいる。

「飯島望未が出演する日は、ふだんと客層が違う」と囁かれるほど強い個性を放つ彼女だが、かつては「自分には個性がない」と頭を悩ませた時期があった。自分自身の個性とどのように向き合ってきたのか、これまでのバレエ人生を振り返りながら語ってもらった。

「自分には個性がない」「強みがない」――。そんなふうに悩む人は多いのではないだろうか。たとえ好きなことを仕事にできたとしても、私たちは時々、何のために仕事をしているのかわからなくなってしまうことがある。

Kバレエ トウキョウの最高位プリンシパルとして活躍する飯島さんも、そう悩んだ経験の持ち主だ。6歳でバレエを習い始め、わずか16歳で「ヒューストン・バレエ」に入団し、プロバレエダンサーの仲間入りを果たす。そんな華々しいキャリアを積んできた彼女だが、いまでもなお、自分探しの旅を続けている最中なのだという。

今回の取材では、飯島さんが「個性」というものにどのように向き合ってきたのか、話を伺った。

個性って自分を満たしてあげるためのものであって、誰かにアピールするためのものではないと思います

「自分には個性がない」渡米後にぶつかった壁

6歳の時にバレエを始めた飯島さん。幼い頃から順風満帆にバレエ人生を歩んできたのかと思えば、そうではないという。

飯島さんの家庭は兄妹も多く、決して裕福ではなかった。15歳の時、経済的な事情からバレエを辞めてほしいと家族に言われたが「それだけは絶対にいや」と言い張った。少しでも早くバレエを仕事にするために単身渡米を決意。世界屈指のバレエ団「ヒューストン・バレエ」に入団を果たし、わずか16歳でプロのバレエダンサーとなる。

培ってきたスキルの高さを糧に、世界のバレエコンクールで好成績をおさめてきた彼女だったが、海外のバレエダンサーの踊りを前に「個性」の壁にぶつかった。

「日本ではコンクールで好成績をおさめるために、いかに完璧に踊るかを追求してきました。でも、海外のダンサーたちはスキルだけではなく、『私はジャンプが得意』とか『私はこんな表現ができる』とか、『私は、こう』という色を持っている人がすごく多かったんです。

そんな人たちと比べて、私にはこれといった強みがなかった。自分はどういう人間で、これからどういうダンサーになりたいのか、全然わからなかったんです」

「個性を見つけなきゃ」と焦れば焦るほど、ますます自分のことがよくわからなくなってしまうものだ。

「個性というものに囚われすぎて、自己嫌悪に陥ることがたくさんありました。自分のことって、自分が一番よくわからないじゃないですか。かといって、誰かが教えてくれるものでもない。特にプロになると『あなたの強みはこれですよ』と教えてもらえる機会はなくなってきます。

私は態度が大きかったから、それだけで十分個性的だったんじゃないかなと、いまとなっては思うんです(笑)。でも、当時はとにかく必死で。自分がどんなダンサーになりたいのかがわからなくなって、1年ほど仕事をお休みした時期もありました」

個性は真似ることから

個性について悩んだ飯島さんが、本の中で出合った言葉がある。それは「個性は真似ること」という言葉。

やけにしっくりきたという彼女は「自分もあんなふうに踊りたい」「あんなふうに表現できるようになりたい」と憧れたバレエダンサーたちの動きを観察し、積極的に自分の踊りに取り入れるようになった。

「彼女たちの舞台リハーサルを毎回観に行って、手の使い方、首の使い方を観察して、次の稽古で真似をしてみる。すると、これは自分に合う、合わない、好き、嫌いが、だんだんとわかっていきます」

個性は“探すもの”というよりも、いろんな要素を取り入れることで“滲み出てくるもの”と、飯島さんは話を続けます。

「個性がないと悩んでいる人でも、少なからず私たちは何十年と生きてきた中で、いろんなインスピレーションを受けているはず。

誰かの真似をしたからといって、そのコピーが完成するかというと、そうではないですよね。ああでもない、こうでもないと、試行錯誤しながら“私”というフィルターを通して表現されたものは、もう私の一部になっているはずです。100%オリジナルで個性を出せたらすごいけど、私はそうはなれなかった。だからこうして日々研究を重ねてきたんです」

すると、周りから「望未の演技はこういうところがいいよね」と褒められるように。その時になって初めて、自分の強みが表現力であったことに気づいたのだ。

「バレエ以外の友人とご飯を食べたり、趣味を楽しんだり、恋愛をしたり、そういう人生を豊かにするすべてのことが私のインスピレーションになっています。それがあるからいまの自分がいる。悲しいことや苦しいことさえも、いつかは自分の魅力につながると思えるから頑張れるんです」

試してみないと、好きも嫌いもわからない

真似をすることが、やがて自分の個性になる。それを象徴するエピソードとして、大好きなファッションにまつわるこんな話をしてくれた。

飯島さんは中学校を卒業するまで、自分で服を買ったことがなく、すべてお母さんが選んだものを着ていた。いざ渡米先で服を買いに出掛けてはみるものの、今まで服を選んだ経験がなかったため、何を買えばいいのか困り果ててしまったという。

そこで、彼女はたくさんのファッション雑誌を見漁り、いろいろなスタイルを真似してみることにした。いまやファッション関連の仕事も受けるほどおしゃれ好きな飯島さんだが、その道は暗中模索の“自分探し”から始まったのだ。

「本当にいろんな服を着倒しましたね。レザーのジャケットで全身黒を着たと思えば、森ガールのようなファッションを試してみたり。かなり迷走してました(笑)。最終的には、母がよく着せてくれていたトレンチコートやワンピースなど、クラシックな服装に戻ってきたんです。オードリー・ヘップバーンなどが出演する昔の映画をよく母が見せてくれていたので、潜在的にそのインスピレーションを受けていたんだと思います。

最終的にはスタート地点に戻ることになりましたが、いろいろ冒険してみたからこそ、自分が受けてきたインスピレーションに気づくことができた。試してみないことには、好きなものや自分に似合うものってわからないんだと思います」

個性は自分を満たすもの

いいなと思ったものは取り入れて、自分のものにしていく。そんな研究は、プリンシパルになったいまも続いているという。

「昔ほど焦ることはなくなったけど、いまでも『自分はこの役を通じて何を表現したいのか』という問いは常に持ち続けています。どんな仕事もそうかもしれないけど、バレエは本当に終わりがなくて、自分に向き合い続けなければいけない。ずっと自分探しをしている感じです」

バレエという好きなことを仕事にできていても、自分は何のために踊っているのかわからなくなる日もあるという。それでも、何か答えが見つかるかもしれないという望みにかけて、飯島さんは自分を探し続けている。

「個性って自分を満たしてあげるためのものであって、誰かにアピールするためのものではないと思うんです。『私はこういう人間なんだ』『こういう表現をしたいんだ』と納得できることで、自信につながっていきます。

バレエは人に見られるものですし、お客さんを楽しませることがプロの仕事です。それでも、私は自分の人生を豊かにするために踊る。誰かにアピールするために個性を磨こうとするのは苦しいし、それでちやほやされたり名声を得られたとしても、どこか虚しさが残ると思うんです。『個性を見つけなくちゃ』と苦しくなるくらいなら、無理に探さなくてもいいのかなって」

バレリーナらしくないと言われることも、私の強み

アメリカにいた頃、飯島さんは関西テレビの「セブンルール」という番組に出演した。そこにはショートカット姿でカメラの前に立つ姿が映し出され、「バレリーナらしくしない」というマイルールが話題を集めた。

そんな姿からか、飯島さんの名前をネット検索すると「バレエ界の異端児」という言葉が出てくる。かつて「個性がない」と悩んでいた飯島さんだったが、いまや自然体な姿こそが、むしろ個性的といわれる不思議な現象が起きているのだ。

特にファッションは、バレリーナといえばきっちり結んだお団子ヘアーに女の子らしい服というイメージが強いだろう。しかし、「バレリーナはこういう感じ」とカテゴライズされるのが好きじゃないと飯島さんは話す。

「髪にハイライトを入れたりすることはありますけど、それはオフシーズンや怪我で踊れない時にしていただけであって、あくまで私の生活の中心は公演で演じるキャラクターにあります。だから『バレエ界を変えてやる!』なんて、おこがましくて到底思えるわけがないし、全然異端児ではないんですよ(笑)。

ただ、バレリーナだからといって好きな服を着れないとか、好きな髪型ができないのが嫌なだけなんです。自分を満たすために好きな格好をする。それが気づいたら、異端児なんて書かれるようになっちゃいました(笑)」

飯島さんはCHANELのアンバサダーを務め、ファッションモデルの仕事もやっている。たしかにそれは、バレエダンサーの中ではめずらしいことだ。そのため「気が強そう」とか「派手そう」とか、思わぬ方向へ勘違いされてしまうことも多いという。有名になるほど、自分から離れたイメージが独り歩きしてしまうこともあるだろう。

それでも彼女は「それが私の個性になって、劇場に足を運んでくれる人が増えるならまあいいのかなって。あきらめました!」と笑って答えた。

「セブンルールに出演して帰国した時に、あるサラリーマンの方が『バレエダンサーの飯島さんですよね?バレエ、観に行きたいと思っています』と、声をかけてくれたんです。バレエをよく知っている人にしか話しかけられたことがなかったから、本当に驚きました。

異端児といわれれば『そんなことない!』と返しますけど(笑)、そういうイメージがあるからこそ、新しくバレエを観に来てくれる人たちがいる。それはそれで私の強みであり、個性だと思うんです。そう思われることでバレエ界に少しでも貢献できているのであれば、周りにどう思われても、あまり気にしていませんね」

自分がどんな人間なのかを知るために、今日も踊り続ける

自分の個性というものは、そんなに簡単に見つけられるものではない。探そうとするほどに、よくわからなくなる。いち早くプロバレエダンサーという夢を叶えた彼女でさえも、踊りで何を表現したいのかがわからなくなり、スランプに陥る時があると吐露してくれた。

それでも「自分がどんな人間なのかを知りたい」という探究心が、今日も飯島さんをバレエスタジオに向かわせる。誰かに褒められるためでも、アピールするためでもない、自分の人生を満たすために、彼女はこれからも“自分探し”を続けるのだろう。

探究心さえあれば、何事も、どこに行っても続けられると思うんです。やりたくないなと思う役でさえも、「このシーンは好きだな」「この人のこの踊りは好きだな」と少しでもいいところを探してみます。すると、舞台に立つ時には、その作品がすごく好きになっている。自分はどんな表現をして、どんな人間なのか、それを知りたいからバレエを続けているんだと思います。

取材・執筆:佐藤伶
撮影:七緒

Profile

飯島 望未

大阪府生まれ。6歳からバレエを始める。2007年ヒューストン・バレエの研修生、08年当時最年少16歳でアーティストとして入団。19年3月プリンシパルに昇格。21年8月Kバレエ カンパニーにプリンシパル・ソリストとして入団。22年3月プリンシパルに昇格。CHANELのビューティアンバサダーやファッションモデルも務める。

Instagram @nozo0806
K-BALLET HP https://www.k-ballet.co.jp/

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