140年続く老舗和菓子店 種ごと丸ごと包む「梅の実」が名物「御菓子司 鹿の子」(福岡・築上町)【まち歩き】
福岡県築上郡築上町にある「御菓子司 鹿の子」は、明治17年(1884年)創業の老舗和菓子店です。看板商品「梅の実」は、青梅を種ごと丸ごと包んだ他店にない独創的な和菓子として話題を集めています。3代目店主の太田さんは「保存料完全不使用」「手作りへのこだわり」を貫き、地域に愛される店づくりを続けています。
■田川から築上町へ 太田屋から鹿の子への歩み
鹿の子の歴史は明治時代にさかのぼります。現在の福岡県田川市で「太田屋」として始まりました。昭和9年(1934年)、現店主の祖父が戦前に独立し、築上町椎田(当時は椎田町)に移転して「鹿の子」として開業しました。
「100年以上前から家族で菓子作りをしていました。祖父がこの地に来て店を構えてから、もう90年になります」と3代目店主の太田さんは振り返ります。
店名の「鹿の子」は、江戸後期に人気を博した砂糖と小豆を使った菓子の名前に由来します。開業当時、砂糖も小豆も貴重品だった時代に、「貴重な小豆がたくさん仕入れられ、いろんなお菓子を作りたい」という先代の想いが込められて名付けられました。
■菅原道真公の伝説から生まれた「梅の実」
鹿の子の看板商品「梅の実」は、約40年前に現店主の父である先代が開発しました。築上町の町花が梅であり、町内には梅の名所として知られる綱敷天満宮があることからヒントを得たということです。
綱敷天満宮は、菅原道真公が太宰府に流される際に漂着したと伝えられる場所で、約1,000本の梅の木が植えられています。神社の売店では、鹿の子の「梅の実」が販売され、地域の名物として親しまれています。
「梅を使ったお菓子を作りたいという父の発想から生まれました。問屋さんやメーカーとの情報交換を通じて、種ごと丸ごと包むというアイデアが生まれたそうです」。
国産の青梅を甘露煮にし、種のまま丸ごと一つを桃山生地(黄身あん)で丁寧に手包みした「梅の実」は、他店では見ることのできない独創的な商品です。日が経つにつれて梅からのエキスが生地に染み込み、風味が深くなるという特徴も持っています。
■「保存料ゼロ」へのこだわりが生む安心の味
鹿の子が徹底しているのは、保存料を一切使用しない製法です。「添加物を極力使いたくない」という太田さんの方針により、膨張剤など必要最低限の添加物のみを使用し、その量も最小限に抑えています。
「保存料を入れれば日持ちしますが、風味や食べた後の口残りが全然違います。特に小さなお子様にも安心して食べてもらいたいという思いがあります」。
この方針により、大福の賞味期限は短くなり、スポンジケーキのふわふわ感を長時間維持することも難しくなります。しかし、健康志向の顧客からは「添加物が少ないから」と高い評価を受けています。
原材料へのこだわりも徹底しています。砂糖には血糖値の上昇が緩やかな甜菜糖を使用し、あんこは全て自家製です。北海道産の「大納言小豆」という銘柄の豆を使用しています。
「外国産の小豆なら原価は抑えられますが、味が全然違います。コストは高くても品質を優先しています」。
■地方価格への配慮と手作りへの信念
都市部では300円から400円で販売されることもある大福を、鹿の子では梅の実を税込220円で提供しています。「都市部の方からは『値段を上げても良い』と言われますが、地方なのでお客様に配慮して地元価格を重視しています」と太田さんは話します。
全て手作りのため大量生産は不可能で、他所からの納入依頼も断っているということです。特に梅、栗、金柑、杏など固形物を丸ごと包む菓子は機械では作りにくく、一つずつ手間をかけて製造しています。
「機械で大量生産できるお菓子もありますが、うちは手作りにこだわります。固形物を入れるお菓子は機械では難しいんです」。
■地域唯一の和菓子店として
築上町でかつて4軒あった和菓子店は、今では鹿の子のみとなっています。他の地域でも和菓子店の減少が続く中、地域にとって貴重な存在となっています。
「役場のふるさと納税や議会事務局などでよく使っていただいています。地元の方からは『頑張って続けてほしい』『欠かせない存在』と言われ、とても励みになります」。
インスタグラムやホームページでの情報発信により、若い顧客層の来店も増加。奥様が担当するSNS運営により、伝統の店に新しい風を吹き込んでいます。
■ふるさと納税で全国へ
築上町のふるさと納税返礼品として、レモンケーキや和菓子詰め合わせ「いろどり」、方言銘菓「栗大福」などを提供しています。創業140年の歴史と手作りへのこだわりが評価され、町の代表的な特産品として認知されています。
「今後も地元密着型で、現在の経営方針を維持していきます。長年の地元顧客を大切にしつつ、この地で根を張って続けていきたいです」
140年の歴史を持つ御菓子司鹿の子は、変わりゆく時代の中で変えるべきものと守るべきものを見極めながら、地域に愛される和菓子店として歩み続けています。種ごと丸ごと包んだ梅の実のように、伝統の中に斬新なアイデアを包み込み、次の世代へと味を繋いでいます。
________________________________________
■御菓子司 鹿の子
住所:福岡県築上郡築上町椎田972-30
電話:0930-56-0135
営業時間:月〜土曜 8:30-18:00、祝日 8:30-17:00、日曜 10:00-12:30
定休日:不定(Instagramで告知)
Instagram@onkashitsukasa_kanoko
https://www.instagram.com/onkashitsukasa_kanoko/
※掲載の内容は変更している場合がございます。事前にご確認ください。