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TOOBOE主催対バンTOUR『交遊録Ⅲ』東京ファイナル、FAKE TYPE.とせめぎ合った限界突破な音楽体験

SPICE

TOOBOE、FAKE TYPE.

TOOBOE交遊録Ⅲ
2024.10.23 東京 Zepp Shinjuku

「仲のいいアーティストや尊敬する先輩を招いて刺激を受けたい」という趣旨でTOOBOEが主催する対バンTOUR『交遊録』。過去2回は己の感性と欲望に忠実に多様な音楽を強靭な胃袋で消化するアーティストばかりが出演してきた。1回目の秋山黄色、2回目の煮ル果実、Chevon。この凄まじい対バンの評判は回を追うごとに広がり、3回目の今回は東名阪ツアーに拡大。大阪はネクライトーキー、名古屋は紫 今、そしてここでレポートする東京ファイナルにはFAKE TYPE.が対決に臨んだ。

トラッククリエーターのDYES IWASAKIとMCのトップハムハット狂からなるFAKE TYPE.はオリジナルはもちろん、Adoの「ウタカタララバイ」など、オーバーグラウンドからコアな歌い手にも楽曲提供する存在。TOOBOEと遠からぬ背景を持つだけに、この日のオーディエンスはボカロPやクリエイターのファンも多い印象を受けた。

先攻のFAKE TYPE.がギタリストとVJを引き連れ、本人たちは“偽型”と書かれた番傘に隠れ、獣の面で顔を隠してステージに登場すると、彼らのワンマンか?と疑うほどの大歓声。第一音からFAKE TYPE.のエレクトロスウィングを象徴するピアノリフが転がり、「真FAKE STYLE」でスタート。のっけからトップハムハット狂の高速ラップに開いた口が塞がらないまま、続く「魔崇拝麗奴」を走り抜けた。カラフルなグラフィックやアニメーションを駆使したVJと、それを操るメンバーも共に盛り上げるスタイルが楽しい。生ギターが入っていることが大いにフックになっているのはもちろん、「FAKE SOUL」ではDYES IWASAKIがサックスを演奏したり、音源では花譜がフィーチャーされている、ラグタイムをポップにアレンジした「マンネリウィークエンド」など、エレクトロスウィングを軸にしつつ、多彩なライブアレンジと曲調で飽きさせない。しかも投影されるリリックの日常を描く腹落ち感とラップの速度両方に“・・・”な感想を持つほかなくなってしまうのだ。

三味線の音色がキャッチーな「Toon Bangers」ではフィーチャリングでラッパー兼シンガーのDEMONDICEが加わり、畳み掛けるトップハムハット狂に負けず劣らずのラップを聴かせ、一転、ミディアムの「ツキ」も披露し、2曲とはいえレンジの広さを見せた。また「ヨソモノ」ではソリッドな人物造形で知られるWOOMAのMVが投影される。彼女の名前を知らなくてもAdoの「うっせえわ」のMVおよびキャラといえば誰もが分かるはず。熱さを増したフロアは四つ打ちの「Bacchus」でジャンプが止まらず、「エクササイズだったね」と息を切らすトップハムハット狂に笑いが起きていた。「エレクトロスウィングなんてやってると対バン相手いなくて」と嘯く(?)DYES IWASAKIだが、だからこそTOOBOEからの誘いはかなり嬉しかったらしい。終盤は彼らのスタイルを象徴する「FAKE LAND」、SNS中毒と揶揄しつつ自己紹介も兼ねている感じの「Nightmare Parade 2020s」を投下。この流れで締めくくると思いきや、対バンに痕跡を残すべく最新EPからタイトルチューン「Cats and dangerous」を急遽追加。“猫を崇めよ”じゃないけれど、人間を骨抜きにする猫さま目線が痛快なこの曲で鮮やかに決めた。“偽型”を名乗るユニットだが、日本で独自の進化を遂げるラップに本物も偽物もないのでは?と胸のすく思いがしたのは私だけじゃないだろう。

10月下旬と思えない外気同様、室内の気温も上昇する中、すっかりお馴染みのバンドメンバー、飯田“MESHICO”直人(Gt)、Park(Ba)、Atsuyuk!(Dr)、TaitoFujiwara(Mp,Key)、そしてTOOBOEが歓声に迎え入れられる。呼吸が聴こえる一瞬の緊張の後、歌始まりの「毒」という、なかなか聴かせるスタートだ。かと思えばサビでOiコールが起きる「天晴れ乾杯」と情緒が忙しいが、ざらついたサウンドと艶めくメロディが一瞬でTOOBOEの世界観を醸成する。短く謝意を述べ、ファンク~フュージョンテイストのグルーヴと歌謡のメロディが異種格闘する「痛いの痛いの飛んでいけ」まで続けて披露した。血が滴るような命のせめぎ合いを速度やサウンドで刻み込むというより、横に揺らしながらジワジワ攻めてくるなというのが序盤の印象だ。

「お疲れ様です」といつもの挨拶をすると、今回FAKE TYPE.を誘った経緯を話すTOOBOE。今年の『JAPAN JAM』が直接のきっかけだが、もちろんそれ以前も知っていたし、「ウタカタララバイ」は好きな曲だし、作家としても近い界隈なことも起因しているのだと。「(ラップで)よく噛まないなと思うし、ああいうライミングする人いないからすげえなと思う」と絶賛した。「俺らも負けないように」と意思統一しているムードが非常にバンド的だ。序盤に受けたファンクサウンドのアンサンブルはPUFFYとコラボした新曲「コラージュ」やソロ回しで盛り上げた「爆弾」でもさらに続く。ソロ回しの際にメンバーの画像が大写しになるのも、このメンバーで高まるバイブス、オーディエンスからの認知も相まって効果的だった。特に飯田の自由な発言はもはやTOOBOEライブの特徴ですらある。

さらにナイトメア感と大人のシティポップスを融合するという離れ技を実現する、ちょっとTOOBOE以外にありえなさそうな「向日葵」、ムーディなピアノのイントロから始まる「fish」と、哀愁とセクシーさを湛えた上で極上のメロディに落とし込むというTOOBOEの秘技が連続して繰り出された。意識してか無意識かブラックミュージック寄りの楽曲が続いた前半に、毎回趣向を変えてくる彼らの遊び心を感じ取った。

MCでは今回のツアー全公演に参加した人を確認すると、「狂ってますね、僕と同じです」と愛情表現した上で、「ここは僕が小学校、中学校と今まで育ってきた先のクロスポイントなんですよ。それまでのことは全部仕込み。今日と全く同じメンツで集まることって確率的にないじゃないですか?」と、一期一会を堪能し尽くすことを提案する。刹那的であり真実でもあるその言葉がオーディエンスの気持ちを束ねる。対バンなんてさらに一期一会なのだから。

MCの求心力もテコになって、「錠剤」の爆発力が凄まじい。TOOBOEの上げる「最高!」という声、そして咆哮。ジェームス・ブラウンを想起させる「ダーウィン」は映像も相まって血湧き肉躍る体感とむせかえるような匂いが充満した。

「ギター持つと緊張走りますね」と思わず口にしたのは次に披露する「きれぇごと」がまだライブで回を重ねていないからか。曲振りも兼ねているような「SNSじゃなく生きていくコミュニティの中でカードを切っていくしかないじゃないですか」という発言は「きれぇごと」のメッセージの核心だったように思う。自己憐憫に耽溺するほどきれいでもなければ鈍感でもない、そんなリアルライフを描くこの曲は大人のリスナーにもライブで体験してほしいと思わせるものだった。ギター2本の抜き差しを決めたところで、ラストスパートはトップハムハット狂もだが、johnのフロウを相当じゃないかと気持ちが湧き立つ「往生際の意味を知れ!」、ステージ上もフロアも限界まで熱を放出する「心臓」をドロップ。破裂音のSEはライブで聴くとさらに強烈なフックであることを毎回確認し、焚き付けられたオーディエンスの三三七拍子のクラップが狂騒に輪をかける。アルバムタイミングではない対バンライブの旨みが凝縮されたセットリストがさまざまなタイミングでファンになったリスナーをこの日も満足させていた。

アンコール1曲目は登場してすぐに「ミラクルジュース」を演奏したが、三三七拍子でアンコールするスタイルをFAKE TYPE.にイタいと思われなかっただろうか?でも自分が促したわけじゃないからとファンのせいにしつつ、ファンに笑いに転化されている。このステージとフロアがフラットな感じは代え難い。今回のツアーに出演した3組、そしてオーディエンスに感謝し、「千秋楽」で実り多い『交遊録Ⅲ』の幕を閉じたのだった。

その後、なかなか明転しない中、ざわつくオーディエンスに告げられたのは『交遊録Ⅱ』での対決も記憶に新しいChevonとのツアー。発表の瞬間に上がった歓声の大きさにちょっと圧倒されてしまった。待望、と太字で書きたいスプリットツアーである。

取材・文=石角友香 撮影=ゆうと。(@musicmagic3923)

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