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【沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)の「過ぎゆく時の詩学 高木倶展」】 篤実な年長者のようなたたずまいの作品群。無機物であるはずの船に感情移入

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は沼津市の沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)で6月1日まで開催中の「過ぎゆく時の詩学 高木倶展」を題材に。

東京で生まれ、長く沼津を拠点に制作した高木倶(たかぎ・とも、1924~2016年)の回顧展。モチーフは草花や風景が中心で、技法や画材は時代によって異なるが、どの作品も心の安らぎをもたらす静けさに包まれている。主催者あいさつで指摘されている「忘れられた記憶に対する深い洞察」が、篤実な年長者のようなたたずまいを感じさせるのだろう。

制作者とともに、キュレーターの「意志」も伝わってくる、見事な構成だ。植物を描いた作品が並ぶ第1のコーナーは特にそれが顕著。「つわぶき」(1992年)「額紫陽花」(1988年)「青い麦」(1976年)「花菖蒲」(1971年)「水辺の葦」(1969年)…。順路をたどると、ほぼ制作年をさかのぼるように作品が配置されている。順に見ていくと、植物のふくらみが減り、線が簡略化されていく。つわぶきの大ぶりな葉に至るまでの、積み重ねを感じ取れる。

第2コーナーは風景が中心。「石狩の浜・舟のある」(1975年)「石狩の浜」(1979年)に見ほれた。茫漠とした砂丘の中に木船が一つ。海岸線は遠い。船の足元は砂に埋まっている。長く使われていないようだ。船のへさきは水際に向かっている。かつてそこにいた自分の記憶と、視線の先にあるものを重ね合わせているようだ。

不思議なことに「ひとりぼっち」には見えない。無常感はない。ポツンとそこにある、というより適度な威厳を感じる。作品を見つめていると、無機物のはずの船にどこか感情移入していることに気づく。

第3コーナーの、絵画と詩の組み合わせによる展示も良かった。地元紙「沼津朝日新聞」に掲載した絵画と詩である。2015年のポートレート「義」に添えられた「2016年元旦」の詩。高木はこの年に逝ったが、詩の内容は躍動している。最後に引用する。

「義」

自らの正義を立てんと 功利捨て
冷酷な策略 干渉
人種差別の狭間に
苦悩する 碧眼の若もの

土漠の愛着 信頼受けた姿勢
劣勢の手助け
疑心抱かぬ 勇者の清純

前世紀の義人
アラビアの伊達男
駱駝部隊の進撃と共に征く

(は)

<DATA>
■沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)「過ぎゆく時の詩学 高木倶展」
住所:沼津市本字下一丁田900-1  
開館:午前10時~午後5時
会期中の休館日:5月19日(月)、26日(月)
観覧料(当日):大人200円、小中学生100円(市内の小中学生無料)
会期:6月1日(日)まで

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