1980年代に生まれたエバーグリーンな名曲たち【ザ・シャムロック】高橋一路インタビュー
スリー・ストーリーズ by Re:minder
ザ・シャムロック ③ 1980年代 奇跡のロックデュオ【ザ・シャムロック】
ザ・シャムロックがポニーキャニオン時代にリリースしたアルバム4作品のデジタル配信がスタートした。これを記念して、Re:minderでは “スリー・ストーリーズ” と題して彼らの魅力に迫っていきたい。最終話となる第3話ではギター&ボーカルの高橋一路に “ザ・シャムロック・サウンド” に潜む普遍的な音楽性について語ってもらった。
モッズシーンをことさら意識することはなかった
ーー 山森正之と高橋一路の出会いは高校時代に遡る。そう、最初はビートルズのカバーだった。“ビートルズになりたい” という思いでザ・シャムロックを結成したというエピソードを、第2話で山森が語ってくれたが、高橋のルーツも同じくビートルズにあった。
高橋一路(以下:高橋):ザ・シャムロックを結成したのは高校1年の時ですが、それ以前、中学2〜3年の頃に楽器を持って、集まってということを始めました。小学校の時に親戚のお兄ちゃんから “SONY CF-1980” というラジカセをもらったんですね。それでFEN(現:AFN)を聴くようになって、英語のリズムに乗る歌が好きになりました。中学校に入る頃になるとベイ・シティ・ローラーズがブームになって、洋楽を意識的に聴くようになったのは、そこからですね。
僕の地元の中学生はツッパリが多くてで、みんなキャロルやクールスを聴いていたので、僕もそっちに親近感がありましたが、同時にビートルズも聴き始めていて、彼らがカバーしていた1950年代のロックンロールが好きになりましたが、それより英語の曲が好きだったというのが大きくて、そこから音楽にのめり込んでいきました。
高校に入ったら山森くんがいて、“バンド組もうよ” と言ってきたので、そこでもビートルズがカバーしていた「バッド・ボーイ」や「スロウ・ダウン」といった曲をやって、その流れでバンドを組むようになりました。それがザ・シャムロックです。その後、僕はパンクやニューウェイヴの影響もあって、ザ・ジャムやチープトリックとかもガッツリ聴いていましたね。
―― 高橋、山森の共通言語であるビートルズからスタートしたザ・シャムロックは、間もなくライブハウスシーンに進出する。
高橋:当時は『渋谷TAKE OFF 7』というライブハウスによく出演していました。ここでは、後に東京モッズシーンで人気を博すTHE LONDON TIMESと一緒になることが多かったですね。やがて新宿のライブハウス『JAM』に出演するようになりました。ここには真島くん(真島昌利)が在籍するTHE BREAKERSというロックバンドもいました。つるむ感じではなくて、いろんな場所でライブをやっていましたね。僕も彼らと同じで、モッズシーンをことさら意識することはなかったです。ザ・シャムロックは、ヴィジュアル的な部分も含め、プロデュース的な役割は、山森くんがやっていたので、その辺りについて、僕は無責任でした(笑)
モータウンにどっぷりハマって作曲を学
―― モッズシーンの見解について、そのカルチャーを愛した山森との違いが興味深い。高橋は様々な音楽を吸収して、作曲を学んでいく。
高橋:ニューウェイヴに染まって、同時にビートルズのルーツを遡っていくうちにモータウンにどっぷりハマり、そこで作曲を学びました。その頃、エルヴィス・コステロやプリテンダーズも出てきていて、痺れまくっていましたね。今から思えば、当時のザ・シャムロックはパブロックと呼んでもらったほうが、しっくりきていたのかもしれません。
スタジアム級のサウンドを持っているアーティストより、ライブハウスでやっているバンドに魅力を感じました。それは今も変わらないですね。だから聴いた人が僕らにそういう雰囲気を感じてくれたら嬉しいです。それに加え、ブルー・アイド・ソウルのように白人のフィルターを通したソウルナンバーが好きでした。そこは、モッズシーンの人たちとルーツが絡んでいたのかもしれません。
―― ザ・シャムロックのサウンドがオリジナリティに富んでいる理由のひとつとして、高橋のバックボーンにある多様な音楽性が挙げられるだろう。それは、今回デジタル配信された4枚のアルバムにも顕著に表れている。
高橋:その部分においてレコード会社や事務所は難儀していたかもしれないです。CDを売るためには、どんな音としてアピールするかが大事になると思うのですが、僕に限れば、ザ・シャムロックがモッズバンドという意識は特にありませんでした。ジャンルにこだわることもまったくなかったですね。商品としてのパッケージングが分かりにくかったのかもしれません。
自分たちのアイデンティティが見えてきた「Hello, Hi, How Are You?」
ーー 高橋と山森は対照的な部分もあるが、多くの共通点も見られる。このコントラストがザ・シャムロックの魅力だろう。
高橋:山森くんとオーバーラップしているところも多いと思います。例えば、コンパクトで直接的な音を持っているバンドが好きということでは、モッズ界隈とも近いですね。僕もザ・フーやスモール・フェイセズ、ジョージィ・フェイムなども相当好きだから、その辺は共通点ですね。音楽的なルーツは近いところにありますが、その後に取っ散らかっていったのが僕で、その道を深掘りしていったのが山森くんかな。
ザ・シャムロックとして自分たちのアイデンティティが見えてきたのは3枚目の『Hello, Hi, How Are You?』からかもしれません。ここからバンドとしての一体感が生まれました。どういう曲を作れば良いのかという部分もクリアになって、毎日曲が生まれていた時期でした。例えば “今度はローリング・ストーンズみたいな曲を作ろう” と思えば、出来はともあれ出来ていました。3枚目、4枚目のアルバムは自分の作曲のムードが高かったと思います。それに加え、メンバーのコラボレーションも良かったですね。
ハーモニーを重視した唯一無二のサウンド
ーー セカンドアルバム『Real In Love』でメンバーが固定されて、ここから生まれた一体感が、アルバムに反映されていく。時代はバンドブームの真っ最中だったが、ザ・シャムロックは流行に流されることなく、唯一無二にして普遍的なサウンドを残していった。
高橋:当時の音に普遍的なものを感じてもらえると嬉しいです。そこは結構喧嘩した記憶があります。1980年代当時は ”ゲートリバーブとか使おうぜ” という話も出てきました。だけど、僕らにそれは関係ないので “生音でいいんですけど” と何度も言っていた気がしますね。あと、ザ・シャムロックは僕ら2人だけでなく、参加してくれたミュージシャンが全員歌えるので四声、五声でハモるから、それはめちゃくちゃ強みでしたね。
当時は音楽業界全体が好調だったこともあって、オムニバスのイベントにもたくさん出させてもらいましたが、確かに浮いている感じはあったかも。その頃って、パワフルなビートを全面に打ち出したバンドが多く、僕らみたいなハーモニーを重視したバンドは珍しかったと思います。
ーー バンドの個性であるハーモニーを重視しながら、楽曲制作に取り組んでいった高橋だったら、そこに苦悩や試行錯誤があったのだろうか。
高橋:僕は好きな曲に似合う音で作りたかっただけでしたね。周りはあまり見ていなかったと思います。自分の中では、同じパターンの曲を1枚のアルバムの中に入れたくないなというのはあって3枚目『Hello, Hi, How Are You?』と、4枚目『Sometimes It's Better Than Sex』ではその点も上手くいきました。
同じメンバーで演奏するからこそ共通項が生まれて、バリエーションの違う曲をひとつのカラーでまとめるということができたと思います。逆に、それでモッズバンドというシールをバシッと貼れなくなってしまったかもしれません。モッズのイメージからは外れている曲もたくさんあります。
ザ・シャムロックとしては、やりたいことをやり切れた
―― 高橋は高校教師として教壇に立ちながらザ・シャムロックの活動を続けていた。シングル、アルバムをコンスタントにリリースして、ライブを重ねる。そんな多忙な日々を送っていた。
高橋:よくやっていたよなと思います。もちろん、レコード会社も事務所も僕のスケジュールを考えてくれました。土曜日、日曜日にスタジオを入れて、ライブも頻繁にできないので、すぐ帰ってこられる場所を選んでくれたのですが、それでも全然寝る時間がない。3枚目、4枚目の創作意欲が湧き上がっていたのはその時期です。スケジュールが詰まっている毎日なのに、曲が作れるんです。それは今考えてもすごかったと思います。それが20代後半ですね。
―― 当時のファンも今回のデジタル配信を自分のことのように嬉しく思っているだろう。
高橋:“おめでとうございます” というメールをもらったりします。当時のCDは持っているけれど、聴き直してみますと言ってくれる人もいます。これは本当にありがたいですね。そういう人たちと飲み会を開いて、文句も含めて “当時どうだった?” というのを聞いてみたいですね(笑)。自分の中では、やりたいことをやり切れたと思っています。今回のデジタル配信はありがたいという言葉に尽きます。
ーー モッズカルチャーを愛し、そのルーツを深く掘り下げていった山森正之と、ジャンルにとらわれずに自由な発想でサウンドをクリエイトしていった高橋一路。2人の個性がひとつになり、ザ・シャムロックは唯一無二の存在感を放った。そして、2人の共通項はあくまでもバンドサウンドにこだわったということだろう。このこだわりが、今もエバーグリーンな輝きを放つ4枚のアルバムを作り上げた。今回のデジタル配信で時代に風化されないロックバンドの真髄をひとりでも多くの人に体感してもらいたい。
Information
ザ・シャムロックが1988年から1990年にポニーキャニオンからリリースした4枚のアルバムがデジタル配信スタート!
▶Who Loves Me?(1988年)
▶Real In Love(1989年)
▶▶Hello, Hi, How Are You?(1990年)
▶Sometimes It's Better Than Sex(1990年)