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高級住宅地・目白で愛される気取らない『メジロパン』。気持ちを込めて丁寧に作られた美しいパンは懐かしい味わい

さんたつ

メジロパン

学習院大学などがある文教地区であり、高級住宅地を抱える目白には、どこか上品な雰囲気が漂っている。そんな目白に2023年、昔ながらのパンが並ぶ“町のパン屋さん”が新しくできた。

メジロパン

“町のパン屋さん”をもう一度

『メジロパン』があるのは、JR目白駅からしばらく歩いた目白通り沿い。近辺はかつて華族や文化人が多く住んでいた高級住宅地で、通りから少し入ると、豪邸が立ち並んでいる。

こぢんまりとした店舗。

一方で『メジロパン』が扱うパンはきわめて庶民的だ。店に並ぶのはあんパンにクリームパン、カレーパンにコロッケパン、砂糖がたっぷりまぶされたツイストドーナツまである。バゲットやエピなどのハード系もあるが、主力ははっきりと昔ながらのパンだ。

目白らしくない庶民派のラインアップは苦戦するのではと思いきや、『メジロパン』は近隣住民に大人気で昼どきには店の前に行列ができている。実は先日、そこに並んでみて驚いたことがあった。

小さい店では店内に入る人数を制限しているところが多いが、『メジロパン』にはそのたぐいのルールがなく、特に貼り紙もしていない。にもかかわらず、店内はパンを選んでいる人と会計している人の2人だけ。なにも言われていないのに「店内2人ルール」を客が自主的に設けて守っているのだ。さすが目白の住民と言うべきか……。

大脇秀哉さんと佳奈さん。夫婦2人でやっている。

そんな『メジロパン』は、大脇秀哉さんと佳奈さん夫婦の2人で営まれている。秀哉さんは大学を卒業後、飲食店で働いているときに「手に職をつけたい」と考え、ベーカリーで働き出した。そして、大塚の「BONBON」(現在は閉店)、日本橋室町の『室町ボンクール』で働いた後に独立し、妻の佳奈さんと2人でベーカリーを始めることになった。

営業中も作業を続ける秀哉さん。

目白にハマった町のパン屋さん

2人が目指したのは、普段使いができる気軽なパン屋さん。実は秀哉さんは「手に職をつける」以外に、パン職人を目指した理由があった。高校時代、秀哉さんは学校帰りに街のパン屋さんに寄って、友人たちとよくパンを食べていた。しかし、その店は後継者がおらず閉店することに。今も友人たちと当時を思い出して話すことがあるという秀哉さんの中には「その店のようにおなかが空いたときに気軽に寄れるベーカリーをやりたい」という思いがずっとあったのだ。

だからこその『メジロパン』のコロッケパンやツイストドーナツなどのラインアップなのである。

欧風カレーパンにフォンダンショコラドーナツ。昔ながらではありながら、ちょっと工夫されたパンがあるのもいい。

場所を目白にしたのは、たまたま自分たちの家から通えるところに、いい物件があったから。しかしこれがよかった。目白周辺にベーカリーは数あれど、いわゆる“町のパン屋”はほとんどなかったのだ。駅から適度に離れているのもよかった。開店当初こそなかなか認知されなかったが、近くには住宅やオフィスが多いこともあり、だんだんと買いに来る人が増えてきた。この土地と住民と、“町のパン屋”というピースがうまくハマったのだ。

「きれいなパンはおいしい」の信念

さて、そんな『メジロパン』の推しは、ねじねじと名付けられたツイストドーナツで砂糖ときなこ、シナモンの3種がある。砂糖がまぶされた生地は甘く、食感はふんわりやわらか。「甘さ控えめ」なんて知りません。しっかり甘くてやわらかい。町のパン屋はこうでなくっちゃ、とうれしくなるパンなのだ。

ふんわり甘いねじねじパン150円。これはシンプルに砂糖をまぶしてある。

そしてもうひとつうれしくなるのが、どのパンも形がきれいなことだ。丸いアンパンもグローブ型のクリームパンも楕円のコッペパンも、きっちり形が整っている。アーティスティックな美しさではなく、すっきりしていて、かつ温かさが感じられる美しさ。見た目からして丁寧に作られたことがわかる。

クロワッサン180円。香りよくザクザク食感が心地良い。

聞けば秀哉さんは「見た目がいいパンはおいしい」という信念を持っていて、こねや発酵はもちろん、成形もひとつひとつ気を使って作っているという。慣れ親しんだ昔ながらのパンではあるけれど、どこかちょっと違う。そう感じるのは、秀哉さんのその気持ちがあるからだろう。

また、「昨日より今日、今日より明日、もっとおいしいパンが作れるよう考えながらやっています」とも言う。おなじみの味を守りながらも、常に進化を目指しているのだ。

オープンしてもうすぐ2年。地元に根づいて長く続くパン屋を目指したい、と佳奈さんは言う。夢は「お母さんと買いに来ている小さい子が、大きくなって目白を出て、地元に帰ってきたときに買いに来てくれること」。だいぶ先になりそうだが、それは確実に叶うんじゃないかなと思う。

目白だからかわいいメジロのマーク。店のキャラをうまくあらわしている。

メジロパン
住所:東京都新宿区下落合4-26-4/営業時間:9:00~18:00/定休日:水・木/アクセス:JR山手線目白駅から徒歩15分

取材・撮影・文=本橋隆司

本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。

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